トラブル回避のための具体的手順
はじめに
企業におけるハラスメント問題は、近年ますます社会的注目を集めています。セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)など、その態様は多岐にわたり、企業が適切に対策を講じていない場合、被害者が労働局や裁判所に訴えを起こすケースも増えています。ハラスメントの放置は、従業員のモチベーション低下や離職率の増加、企業のイメージダウンにつながり、経営上の大きなリスク要因となります。
本記事では、ハラスメントの主要な種類と法的ルール、企業が講じるべき防止対策やトラブル発生時の対応ポイントを、弁護士法人長瀬総合法律事務所がご紹介します。
Q&A
セクハラとパワハラの違いは何ですか?
セクハラ(セクシュアルハラスメント)は、性的な言動によって相手に不快感を与え、就業環境を害する行為です。一方、パワハラ(パワーハラスメント)は、職務上の地位や関係性を背景に、不当な言動によって相手の働く意欲や人格を侵害する行為を指します。どちらも職場環境を悪化させるものであり、企業は発生防止や適切な対応が求められます。
妊娠・出産・育児休業などに関連する嫌がらせがマタハラですか?
はい、マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠・出産・育児休業・介護休業などの取得や、それに関連する事情を理由とした不利益な扱いを指します。具体的には、育休取得を申請した従業員に対して「退職するべきだ」「仕事に専念できないなら辞めろ」といった言動がマタハラの典型例です。
社内にハラスメント相談窓口を設置すれば、企業としての責任は果たしたことになるのでしょうか?
相談窓口を設置するだけでは十分ではありません。実効性のある相談体制や、適切な調査・処分体制を構築する必要があります。また、ハラスメントが発生した場合は、企業として適切な対応を行ったかが問われます。相談を受けた後の迅速な事実確認、加害者への処分、被害者への配慮などを行わなければ、企業の責任を追及される可能性が高まります。
ハラスメントに関する法律上の企業義務はありますか?
日本では、セクハラについては男女雇用機会均等法、パワハラについては労働施策総合推進法などで、企業に対してハラスメント防止措置を講ずる義務が明確に規定されています。マタハラも男女雇用機会均等法により企業の禁止義務が定められています。具体的には、ハラスメントを防ぐための就業規則や社内研修の実施、相談窓口の設置、再発防止策の策定などが求められます。
解説
ハラスメントの種類と具体例
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- 例:性的な冗談や誘いを繰り返す、性的な画像や動画を見せる、服装や身体的特徴に執拗に言及するなど。
- 相手が不快と感じるかどうかが重要であり、「悪意がなかった」という加害者の弁明は認められません。
- パワーハラスメント(パワハラ)
- 例:暴言や人格否定、長時間の叱責、業務上不要かつ過度な命令や嫌がらせ、逆に業務を与えず孤立させるなど。
- 指揮命令系統上で優位に立つ者が、その地位を利用して行うのが特徴です。上司部下だけでなく、同僚間や部下が上司に行う「逆パワハラ」も問題となる場合があります。
- マタニティハラスメント(マタハラ)
- 例:妊娠や出産を理由に降格させる、育児休業の取得を妨げる、出産後の復帰時に不利益な配置転換を行うなど。
- 就業規則や制度に明確に定められている休暇・休業を正当な理由なく妨害する行為は、法令上問題となります。
- その他のハラスメント
モラルハラスメント(人格否定や精神的虐待)、アルコールハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、様々な形態が含まれます。いずれも、被害者が精神的苦痛を受け、職場環境が悪化することが問題の本質です。
法的根拠と企業の義務
- 男女雇用機会均等法
セクハラやマタハラに関して、企業に対して雇用管理上必要な措置を講ずる義務を課しています。企業が十分な対策を怠れば、行政指導や名前の公表などペナルティが科されることもあります。 - 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
パワハラについて、企業は雇用管理上の防止措置を講じる義務があります(相談窓口の設置、社内規程整備、研修実施など)。 - 労働契約法・民法
ハラスメントによる精神的苦痛を被った被害者が、民事上の損害賠償を請求するケースもあります。企業は安全配慮義務(従業員が安全・快適に働ける環境を整備する義務)を負っているため、放置すれば企業責任を問われる可能性が高いです。
企業が取るべき具体的対策
- 社内規程の整備
- 就業規則やハラスメント防止規程において、ハラスメントの定義や禁止行為、違反者への懲戒方針などを明確に示します。
- 被害者・加害者それぞれの保護・調査手続きも、規定に盛り込んでおきましょう。
- 研修・啓発活動
- 管理職向けのハラスメント防止研修だけでなく、全従業員を対象に定期的な研修を実施し、ハラスメントの定義や報告ルートを周知徹底します。
- セクハラやパワハラに関する具体的なケーススタディを交えることで、従業員が自分事として理解しやすくなります。
- 相談窓口の設置・運用
- 内部窓口だけでなく、外部機関(社労士・弁護士など)を活用した外部通報窓口を設けるのも有効です。被害者が社内環境を気にせず相談できる体制を用意することで、早期発見・早期解決が期待できます。
- 相談を受けた場合の調査プロセスや、加害者・被害者それぞれの人権を尊重した対応方法をマニュアル化しておくと良いでしょう。
- 迅速な事実確認と処分
- ハラスメントの疑いがある旨の報告を受けたら、まずは事実関係を確認し、必要に応じて証拠収集や関係者ヒアリングを行います。
- 加害者に対しては、行為の程度に応じて懲戒処分や異動など適切な措置を取り、被害者にはケアや就業上の配慮を行います。
- 再発防止策の実施
ハラスメント事例が発生した場合は、その原因・背景を分析し、職場風土の改善や研修の見直しなど再発防止策を講じることが大切です。
弁護士に相談するメリット
ハラスメント問題は、企業内の人間関係やマネジメントとも密接に関わる難しい領域です。弁護士法人長瀬総合法律事務所に相談するメリットとしては、以下が挙げられます。
- 適切な規程整備と予防策
ハラスメント防止規程や就業規則の改定、社内研修プログラムの整備など、法令に即した実効性のある対策をサポートします。 - 調査・処分のプロセス支援
- ハラスメントの通報を受けた際の事実調査や、加害者・被害者のヒアリング方法など、適切な手順を踏むための助言を行います。
- 不適切な調査や処分が原因で逆に企業が訴えられるリスクを回避できます。
- 紛争対応・交渉
- 万が一、労働局や裁判所で争いになった場合でも、証拠整理や法的主張を一貫してサポートし、早期解決を目指します。
- 企業のブランドイメージや社内の士気を守るための打開策を提案します。
- 再発防止策の継続サポート
トラブルが収束した後も、再発防止策としての企業風土改善や、管理職への個別指導など、長期的なリスク低減を支援します。
まとめ
- ハラスメントは、セクハラ・パワハラ・マタハラなど多岐にわたり、企業にとって重大なリスクとなる。
- 法律上の防止義務が明確に定められており、違反すれば行政指導や損害賠償のリスクがある。
- 企業としては、社内規程の整備・研修・相談窓口の設置・迅速な調査と処分など、具体的な対策を実施する必要がある。
- ハラスメント問題が発生すると、企業のブランド価値や従業員のモチベーションにも大きく影響するため、早めの専門家相談が重要。
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