はじめに

企業活動において、従業員との労働契約を終了させる場面は多種多様です。たとえば、解雇退職雇止めなどのケースが考えられますが、そのいずれもが法的に慎重な手続きと対応が求められます。特に、不当解雇をはじめとする不当に近い扱いを受けたと感じた従業員が、企業を相手に法的手段を講じるケースが増えていることから、企業としては正しい知識と適切な手順に基づいた対処が必要不可欠です。

本記事では、解雇・退職・雇止めをめぐるトラブルを中心に、企業側が把握しておくべき基本的な知識や法的リスク、実務上のポイントを解説します。整理解雇や合意退職を行う際に注意すべき事項なども踏まえて、弁護士法人長瀬総合法律事務所がご紹介します。

Q&A

Q1:正社員を解雇するときに、一方的に「明日から来なくていい」と告げても問題ないのでしょうか?

大きな問題となる可能性が高いです。日本の労働法制では、企業が従業員を解雇するには客観的に合理的な理由社会通念上の相当性が必要とされます。一方的に「明日から来なくていい」という形で解雇を言い渡すと、解雇無効を主張されるリスクが極めて高く、不当解雇として法的紛争に発展する可能性があります。解雇に至るまでの過程や経緯を丁寧に説明し、十分な根拠を持ったうえで解雇手続きを進めなければいけません。

Q2:整理解雇とは何ですか?

いわゆるリストラとも呼ばれる解雇形態で、経営不振などを理由に企業が人員整理を実施する際に行われる解雇です。日本の裁判所は、整理解雇について厳格な4つの要件(整理解雇の四要件)を満たすかどうかを重視します。具体的には、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③人選の合理性、④労使間の協議等の手続きの妥当性、の4点です。これらを満たしていない場合は、不当解雇として争われる可能性があります。

Q3:有期雇用契約が満了する際の「雇止め」にも、解雇と同じような規制がありますか?

有期契約の満了に伴う雇止めであっても、実質的に解雇と同様の性格を持つと考えられるため、判例上は契約更新の期待を従業員が有している場合などに、合理的な理由がないと雇止めが認められないケースがあります。特に、長期間にわたり契約を更新し続けてきた場合などは、急な雇止めが解雇権の濫用として問題視される可能性がありますので注意が必要です。

Q4:退職勧奨と合意退職は、どのように進めればトラブルを回避できますか?

退職勧奨や合意退職は、あくまで従業員の自由意思に基づく「合意」が前提となります。したがって、過度な圧力不利益な示唆などを行って合意を迫ると、退職勧奨が実質的な解雇とみなされ、不当解雇のリスクを抱えることになります。話し合いのプロセスを丁寧に進め、書面をもって合意内容を確認するなど、透明性の高い手続きを取ることが大切です。

解説

解雇の種類と法的規制

解雇には大きく分けて普通解雇懲戒解雇整理解雇などがあります。いずれの解雇も、労働契約法や判例によって厳しく規制されており、解雇が有効とされるには相応の合理性と相当性が求められます。以下では、主な解雇形態について概要を整理します。

普通解雇

  • 従業員の能力不足や勤務態度の不良、職務上の適格性欠如などが理由とされますが、客観的事実十分な改善機会を与えた経緯が必要となります。
  • 安易な普通解雇は無効となりやすいので、企業側は「解雇以外の手段を尽くしたか」「改善指導を行ったか」などを明確にしておく必要があります。

懲戒解雇

  • 社内規程(就業規則)に定める重大な非違行為(横領・セクハラ・暴力行為など)があった場合に、懲戒処分として行われる解雇です。
  • 社会通念上、懲戒解雇が相当と評価されるだけの重大な事由が必要です。裁判所は懲戒解雇の有効性に対して非常に厳しい目を向けています。

整理解雇

  • 経営上の理由(人件費削減等)で人員を削減せざるを得ない場合の解雇です。前述の「整理解雇の四要件」を満たさなければ、不当解雇とされる可能性が高まります。
  • リストラを行う際は、退職勧奨や希望退職制度、配置転換などの解雇回避努力を尽くしたうえで、最終手段として整理解雇に至る必要があります。
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合意退職と退職勧奨のポイント

合意退職とは

企業と従業員の双方が、労働契約を終了させることに合意して退職する手続きを指します。企業側は解雇ではなく「退職金の上乗せ支給」や「再就職支援」などの条件を提示し、従業員がそれに同意すれば合意退職が成立します。

退職勧奨の注意点

  • 退職勧奨は、従業員に対し退職を促す行為です。しかし、過度に強要すれば実質的な解雇とみなされ、無効になるリスクがあります。
  • 退職勧奨を行う場合は、明確な理由の提示と本人の自発的な合意を得るよう配慮し、本人が納得できるよう丁寧に説明を行いましょう。
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雇止めの実務上の留意点

有期雇用契約の特徴

有期契約は期間の定めがあるため、その期間が満了すれば契約は終了するのが原則です。ただし、繰り返し更新されて長期にわたる就労実績がある場合などは、従業員に雇用継続の期待が発生することがあります。

雇止め法理

  • 判例上、契約更新の期待を従業員が有している場合に、企業が雇止めを行うと解雇権の濫用に準じて無効となる可能性があります。
  • 企業としては、「長期雇用の期待を抱かせるような言動や制度はなかったか」「契約更新を繰り返していなかったか」などを確認し、万が一雇止めを行うなら合理的な理由を説明できるように備えておく必要があります。
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トラブルが発生する典型的な場面

  1. 解雇予告手続きの不備
    解雇する際には、労働基準法上の30日前の解雇予告または**解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)**の支払いが必要です。
  2. 解雇理由があいまいなまま解雇
    解雇理由を具体的に示さずに行われた解雇は、従業員が「不当解雇だ」と主張しやすくなります。解雇に至るプロセスは書面化しておくことが望ましいです。
  3. 退職勧奨がパワハラと疑われるケース
    「退職しなければ大幅な減給を行う」「退職を拒否したら配置転換で不利に扱う」といった発言や行為は、退職勧奨の範囲を超え、パワハラ等として違法な圧力とみなされることがあります。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、解雇・退職・雇止めを含む労務問題において、以下のメリットを提供します。

  1. 法的リスクの事前予防
    解雇や退職勧奨にあたっては、事前に書面作成や説明資料のチェックを行うことで、将来的な紛争リスクを大幅に低減できます。
  2. 問題発生時の迅速な対応
    従業員側から解雇無効の主張や労働審判・訴訟が提起された際にも、すぐに法的な主張や証拠整理を行い、企業の正当性を適切に立証するための支援を行います。
  3. 整理解雇・合意退職のスキーム構築
    経営状況の悪化に伴うリストラを検討する場合でも、整理解雇の四要件を満たすための手順設計や、希望退職募集の実施方法など、実務的なサポートが可能です。
  4. 従業員との交渉サポート
    退職勧奨や雇止めに際して、従業員との間でトラブルが生じた場合でも、弁護士が交渉を代行・同行することで、企業が余計なリスクを負わずに解決に向かうサポートを提供します。

まとめ

  • 解雇には合理的な理由と社会的相当性が必要であり、安易な解雇は不当解雇リスクが高い。
  • 退職勧奨や合意退職を行う際は、従業員の自由意思を尊重し、適正な手続きを踏むことが重要。
  • 有期雇用契約の雇止めにおいても、従業員が更新の期待を有している場合は解雇に準じた規制が及ぶので注意。
  • 解雇予告手続きや合意形成のプロセスなど、企業としてとるべきステップを確実に踏んでおくことで、労使紛争を未然に防ぐことができる。
  • トラブル防止と企業リスク低減のために、専門家(弁護士)へ早期相談することが推奨される。

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