はじめに

労働契約書や就業規則、雇用契約などは、企業が従業員を雇用・管理するうえで欠かせない重要な書類です。雇用条件に関するトラブルを未然に防ぎ、従業員との信頼関係を築くためにも、これらの書類を正しく作成し、定期的に見直すことが求められます。特に近年は働き方改革や労働関連法規の改正などにより、労務管理の適正化が企業に強く求められているため、一度策定した契約書類であっても、常に最新の法令や判例に即してアップデートしていく必要があります。

本記事では、企業経営者・管理部門担当者の方に向けて、労働契約書の作成・見直しを中心とした労務管理に関するポイントをわかりやすく解説します。就業規則や雇用契約との関係を整理しつつ、実務上留意すべき点を網羅的にご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

Q&A

Q1:労働契約書と雇用契約書は同じものですか?

一般的には「労働契約書」と「雇用契約書」はほぼ同義で使われることが多いです。ただし、厳密には「労働契約書」は労働基準法などの観点で労働者の権利を明文化する書面であり、「雇用契約書」は民法上の雇用契約を証する書面という位置づけになります。いずれにせよ、法定の労働条件を明示する手段として「書面化」することが重要なので、企業によって呼び方が異なる場合でも、労働条件に関する記載内容を整合的にまとめる必要があります。

Q2:就業規則があれば、労働契約書を作成しなくても問題ないですか?

就業規則が整備されている場合であっても、個々の従業員との間で締結する労働契約(雇用契約)については、労働基準法上必須とされる労働条件の明示義務があります。そのため、就業規則に定めている事項を個々の労働契約に反映させるとともに、最低限必要な労働条件(賃金、労働時間、業務内容など)を記載した書面を交付することが必要です。

Q3:労働契約書の見直しはどのタイミングで行うべきでしょうか?

一般的には、法改正があったとき就業規則の改定をしたとき、あるいは従業員の働き方が変更されたとき(たとえば雇用形態の変更、テレワークの導入など)に合わせて見直すのが望ましいとされています。見直しの結果、各従業員に再度書面を交付する必要が生じる場合もあるため、適宜労務担当者や専門家(弁護士など)と相談しながら対応するようにしましょう。

解説

ここでは、労働契約書をはじめとする労務管理の基礎的な部分について整理し、実務上気を付けるべきポイントを詳しく解説していきます。

労働契約書の基本構造

労働契約書の主な目的は、企業と従業員との間で締結される労働条件を明文化し、トラブルを未然に防ぐことにあります。労働基準法15条などでは、賃金・労働時間・その他の主要な労働条件について書面により明示することが義務付けられています。労働契約書の基本構成としては、以下のような項目が重要です。

  1. 契約期間
    有期契約や試用期間がある場合は、その期間や更新条件を明記します。無期雇用であっても、試用期間を設定する場合はその旨を明示する必要があります。
  2. 業務内容・職務範囲
    業務の種類や勤務地、担当範囲をなるべく具体的に記載することで、後々の業務範囲をめぐるトラブルを防ぎます。
  3. 労働時間・休憩・休日
    就業規則で定めている就業時間・休憩時間・休日などの規定を参照しつつ、具体的に記載します。変形労働時間制やシフト制の場合は、その運用方法も明記することが望ましいです。
  4. 賃金(基本給、手当、残業代など)
    賃金の算出方法、支払方法、支払日などを明確にします。残業代や深夜・休日出勤手当などの割増賃金計算も記載しておくと安心です。
  5. 昇給・賞与(ボーナス)の有無
    昇給や賞与の支給ルールは就業規則との整合性を取りながら定め、支給基準や評価のタイミングをできるだけ具体的に示します。
  6. 退職・解雇に関する事項
    自己都合退職の手続きや、解雇を行う場合の条件や手続きを概説します。また、退職金制度がある場合は、その支給要件や金額算定方法も重要なポイントです。
  7. その他特別条項(競業避止義務、秘密保持条項など)
    企業の機密情報を守るための秘密保持条項や、一定期間は競合他社への転職を制限する競業避止義務など、企業特有の条項を設ける場合は、就業規則との整合性や法的妥当性を弁護士へ相談しながら慎重に設定しましょう。

就業規則との整合性

企業の就業規則は、従業員全体に適用される一般的なルールを定めたものです。労働契約書は、あくまで個別の従業員との間で交わす契約書ですので、就業規則に反する内容を一方的に盛り込むことはできません。仮に就業規則と矛盾する契約条項を定めても、労働契約法や判例の考え方によっては、その条項が無効とされるリスクがあります。逆に言えば、就業規則が法令違反であったり、曖昧な記載を含んでいる場合には、就業規則自体を見直す必要があります。

ポイント
  • 就業規則の改定に合わせて労働契約書を改訂する。
  • 就業規則と労働契約書の内容に齟齬がないかを定期的にチェックする。
  • 不利益変更となる場合は、従業員との十分な協議や同意を得るなど、適切な手続きが求められる。

見直しのタイミングと注意点

  1. 法改正時
    働き方改革関連法の施行や育児・介護休業法の改正など、労働法制は頻繁に見直しが行われます。法改正のタイミングで契約書や就業規則の記載内容が最新の法令に適合しているか確認しましょう。
  2. 企業の制度変更時
    たとえばテレワークの導入、フレックスタイム制の導入、評価制度の刷新など、大きな制度改変がある場合は、各従業員との契約内容が変更になることもあります。こうした場合に労働契約書を放置してしまうと、後々トラブルが生じる可能性が高まります。
  3. 雇用形態の変更時
    正社員から契約社員、契約社員からパートタイマーへ切り替えといった雇用区分の変更時は、契約内容を明確に再設定する必要があります。賃金や勤務時間の変更点を含め、改めて書面で合意しておくことが大切です。
  4. 就業規則の不備が発覚したとき
    厚生労働省や労働基準監督署などの指導を受けた場合や、労災・労働紛争などトラブルが発生して就業規則の不備が明らかになったときは、早急に就業規則だけでなく、労働契約書の見直しも進める必要があります。

弁護士に相談するメリット

労働契約書や就業規則、雇用契約の作成・見直しにあたっては、弁護士法人長瀬総合法律事務所のような専門家へ相談することを強くおすすめします。以下に、弁護士へ相談する主なメリットを挙げます。

  1. 最新の法令や判例に基づく正確なアドバイス
    労働関連法規はたびたび改正されるため、これらに常に精通する弁護士に相談することで、最新の法改正に基づいた書類整備が可能になります。
  2. 企業の実情や業界特性を踏まえた書類作成
    一般的なひな形では自社の状況に完全対応できないケースも多くあります。企業の業態や従業員の働き方、将来的な事業展開などを踏まえて、オーダーメイドの契約書類を作成できるのは専門家の強みです。
  3. リスクを軽減する契約条項の設定
    労働契約書には、退職や解雇、競業避止義務、秘密保持義務など、将来的な紛争リスクに関わる条項が多く含まれます。弁護士は紛争事例や判例を熟知しているため、可能な限りリスクを軽減する契約文言を提案してくれます。
  4. トラブル発生時の初動対応や交渉サポート
    従業員から労働条件についてクレームが寄せられた場合や、解雇無効の訴えが提起された場合などには、迅速かつ的確な対応が求められます。あらかじめ顧問弁護士など専門家と連携しておくことで、企業リスクを最小限に抑えられます。

まとめ

労働契約書や就業規則の作成・見直しは、企業活動における労務管理の要ともいえます。法的要件を満たすだけでなく、企業と従業員の信頼関係を築くための「ルールブック」としても重要な意味を持ちます。特に労働関連法規が改正されたり、企業の雇用形態や働き方が変化するときは、放置せずに適切な手続きを踏んで契約書を見直す必要があります。

  • 労働基準法などの基本的なルールをしっかり踏まえた上で、労働条件を明示する。
  • 就業規則との整合性がとれているか常にチェックする。
  • 法改正や社内制度の変更時にこまめに更新し、必要な場合は従業員との協議・同意を得る。

そして、これらを専門家の視点で見直すことで、企業が抱える労務リスクを大幅に減らせます。もし「どこから手をつければよいかわからない」「既存の書式が古くなっていないか不安」という場合は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。

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