はじめに
経営不振が深刻化したとき、多くの経営者は「破産」を最初に思い浮かべがちです。しかし、企業が倒産状態に陥りそうな場合、実は「破産」以外にも複数の手段が存在します。たとえば、民事再生・会社更生・特別清算など、それぞれの手続には異なる目的や特徴があります。
企業の状況によっては、破産よりも再建型の手続を選んだほうが良い場合もあるでしょう。本稿では、法人破産と他の倒産手続(民事再生・会社更生・特別清算)の比較を行い、各手続の特色とメリット・デメリットを整理します。自社の将来を大きく左右する選択だけに、早い段階から正確な情報を持つことが何よりも重要です。
Q&A
民事再生と破産の大きな違いは何ですか?
民事再生は、企業(または個人事業主)の再建を目的とした手続です。再生計画が裁判所と債権者の同意を得られれば、負債を圧縮したり返済条件を変更したりして事業を続けることができます。一方、破産は清算手続なので、原則として事業は継続できません。
会社更生はどんな場合に選ばれるのですか?
会社更生は、主に大規模な株式会社(とくに上場企業など)が選択する再建型の手続です。会社の管理処分権を「管財人」に委ねる点が特徴で、複雑な利害関係を整理する必要がある大型企業で使われるケースが多いです。中小企業では、会社更生より民事再生を選ぶケースが一般的です。
特別清算は破産や民事再生と何が違うのでしょうか?
特別清算は、株式会社が解散した後の清算過程で債務超過が判明した場合などに、裁判所の関与のもとで清算を進める手続です。破産のように裁判所が破産管財人を選任し、強制的に清算を行うわけではないため、比較的簡易な手続といわれます。ただし、債権者の反対や利害関係が複雑な場合には、特別清算でもスムーズに進まないことがあります。
破産と他の手続を比べたときのメリット・デメリットは?
破産は手続が比較的わかりやすく、シンプルに清算できる点がメリットです。しかし、一度破産すると法人は消滅し、事業を継続できません。民事再生や会社更生は事業継続を目指せる反面、債権者の合意を得る必要があるなど手続が複雑化しやすいといえます。特別清算は特定の状況下(解散後の清算など)で使える手続であり、破産より簡易な場合もありますが、やはり債権者の協力が不可欠です。
どの手続を選択すべきか、どうやって判断するのでしょうか?
最終的には、企業の財務状態、債権者との関係、経営者が事業を継続したいかどうか、といった要素が総合的に判断されます。弁護士などの専門家に早めに相談し、自社に最適な選択肢を検討することが望ましいでしょう。
解説
ここからは、法人破産と民事再生・会社更生・特別清算について、さらに比較・解説します。
民事再生(中小企業再生に活用される一般的手段)
手続の目的
事業の継続・再建
特徴
- 代表者が引き続き会社の経営権を持ち、再生手続を主導する「DIP型(Debtor In Possession)」が基本。
- 裁判所から選任される監督委員などのチェックを受けつつ、再生計画を作成し債権者の同意を得る必要がある。
- 債権の一部カットや返済期間の延長など、柔軟な再建案が認められやすい。
メリット
事業を継続しながら負債整理が可能。再建成功の可能性があれば、従業員や取引先などの利害関係者への影響も最低限に抑えられる。
デメリット
再建計画の作成、債権者との調整など、手続が複雑で時間がかかる。再生計画の成立には、債権者の一定数の同意が必要。
会社更生(大規模企業向けの再建手続)
手続の目的
大規模企業の経営再建
特徴
- 管財人制度がある。会社の経営権は管財人に移り、経営者は排除されることが原則。
- 上場企業や大企業で債権者が多岐にわたり利害関係が複雑な場合に用いられる。
- 手続は厳格で、書類作成や報告義務も多い。
メリット
大規模企業を再生させるための枠組みが整っており、株主や債権者の利害調整を高いレベルで行える。
デメリット
中小企業には適さない(費用・手続の複雑さでメリットが薄い)。経営陣が更生手続で主導権を失う。
特別清算(株式会社解散時の清算手続)
手続の目的
債務超過が判明した際の清算手段
特徴
- 会社が解散決議をし、通常の清算手続中に債務超過や債権者間の紛争が発覚した場合に活用される。
- 破産のように破産管財人が選任されるのではなく、清算人が主導して裁判所の許可のもとで清算を進める。
- 比較的スピーディーだが、債権者の反対や意見が割れると、結局は破産に移行せざるを得ないことも。
メリット
合意形成がスムーズなら、破産よりも迅速かつ手続が簡素。官報公告や社会的なイメージ上も「破産」よりは影響が少ないと考えられる。
デメリット
債権者が納得しない場合は紛糾しやすい。実質的に破産と変わらない状況になれば、時間が余計にかかる可能性もある。
法人破産との比較総括
法人破産
- 清算手続。会社は消滅し、事業継続ができない。
- 手続が明快で、倒産処理をいち早く終えることが可能。
- 代表者個人の連帯保証がある場合は、別途個人破産も検討が必要。
民事再生
- 再建型手続。事業を続けながら債務を整理。
- 債権者の多数の同意を得る必要があり、計画の実現可能性がポイント。
会社更生
- 大規模企業向けの再建型手続。管財人による管理が特徴。
- 中小企業の場合は費用・手間の面で現実的ではない場合が多い。
特別清算
- 解散後の清算手続の一種。破産ほど強制力はないものの、合意形成が崩れると破産に移行するリスクがある。
弁護士に相談するメリット
倒産手続の選択は、企業の将来はもちろん、代表者個人や従業員、取引先など、多くのステークホルダーに影響する極めて重大な決断です。ここでは、弁護士に相談するメリットをご紹介します。
- 倒産手続全般の知識と実務経験
破産だけでなく、民事再生や会社更生、特別清算など幅広い選択肢の中から、企業の実情や再生可能性を見極めて最適な手続を提案してもらえます。 - 債権者・利害関係者との交渉
いずれの手続においても、債権者や取引先との調整が不可避です。弁護士が代理人となることで、スムーズかつ冷静な交渉が進められます。 - 再建計画の策定や書類作成サポート
民事再生や会社更生など、再建型手続では再生計画・更生計画が重要となります。弁護士が会計士や税理士などとも連携し、現実的かつ実現可能性の高い計画の作成を支援します。 - 迅速な手続進行とトラブル予防
手続の特性上、時間との戦いになることも多いです。専門家のサポートを受けることで手続が遅延するリスクを最小限に抑えられ、不要なトラブルや不正行為の疑いを予防できます。 - 代表者個人の保護と再起支援
会社の倒産は経営者個人にも大きな影響を与えます。連帯保証や個人資産の問題、再起に向けた計画など、弁護士が総合的にアドバイスを行い、次のステップへの備えをサポートします。
まとめ
法人破産以外にも、民事再生・会社更生・特別清算という倒産手続があります。それぞれに明確な目的やメリット・デメリットがあり、企業の置かれた状況や再生可能性によってベストな選択肢は変わります。破産はシンプルで迅速ですが、会社を消滅させる手続。一方、民事再生や会社更生は事業を存続させる道が開けますが、手続が複雑で費用もかかります。特別清算は株式会社解散後の清算手続として有効ですが、債権者の理解が前提となります。
企業の倒産手続は、どの手続を選ぶかで大きく結果が変わります。早期に現状を把握し、法的手続を正しく選択することが重要です。「会社をどうしたいのか」「再生の可能性はあるのか」を明確にし、その上で弁護士に相談することで、最善の道が見えてくるでしょう。
倒産の危機に直面した際、自社に最適な手段を選択するためには、正確かつ最新の情報が欠かせません。お困りのときは弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。
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