経営権獲得戦としての株式取得対策の留意点

Q&A

Q: 後継者がいない場合の事業承継にはどのような手段がありますか?

A: 事業承継の際に重要なポイントの一つは、経営権を誰がどのように引き継ぐかです。特に、株式の承継は経営権の安定を図るために重要な手段の一つです。本記事では、中小企業の事業承継における株式取得策について、具体的な方法を解説します。併せて、株式取得に関する法律的な手続きや注意点についても触れていきます。

株式取得を通じた経営権の確保

事業承継における株式取得策は、中小企業における経営権の安定に重要な役割を果たします。後継者がいない場合や、複数の株主が存在するケースでは、株式の分散によって経営の意思決定が困難になることもあります。ここでは、株式取得によって経営権を確保し、事業をスムーズに引き継ぐための具体的な方法について解説します。

株式会社における経営権の重要性

日本にはおよそ数百万社以上の企業が存在しており、その中でも株式会社の形態をとる企業は約半数にのぼります。株式会社の経営権は「株式」の保有割合によって左右されるため、株式の承継は経営権の確保に直結します。特に、株主総会での議決権をどの程度保有しているかが、経営権を確実にするための鍵となります。

株主総会の決議には、普通決議、特別決議、および特殊決議の3つがあり、それぞれの決議に必要な要件が異なります。

  • 普通決議(会社法第309条第1項):取締役の選任や解任、剰余金の処分などが対象で、議決権の過半数の同意が必要です。
  • 特別決議(会社法第309条第2項):定款変更や事業譲渡の承認、譲渡制限株式の売渡請求などが対象で、出席株主の3分の2以上の同意が必要です。
  • 特殊決議(会社法第309条第3項、第4項):さらに厳しい要件を満たす必要があり、通常は議決権行使可能株主の過半数かつ当該株主の議決権の3分の2以上が求められます。

経営権の安定を図るためには、最低限特別決議が可能な状態、すなわち議決権の3分の2以上を保有することが望ましいです。

経営権の安定を図る株式取得方法

経営権を安定させるためには、以下の株式取得方法があります。

合意による株式取得

  • 経営者または後継者が他の株主と話し合いの上、合意によって株式を取得する方法です。
  • 資金力のある場合は、会社自体が株式を買い取ることも検討できます。
  • ただし、譲渡制限株式の場合は、譲渡承認の手続きが必要となるため注意が必要です。

会社による相続時の売渡請求権の行使

  • 定款に「相続が発生した場合、会社が株式を相続人に対して売渡請求できる」旨を規定しておくことがポイントです。
  • 売渡請求を行う際には、特別決議を経たうえで売買価格を決定する必要があります。価格が決まらない場合には、裁判所に申し立てを行うことで、最終的に裁判所が価格を決定します。

議決権制限株式の発行

  • 普通株式を議決権制限株式に変更し、一部の株主の議決権を制限することで経営権を確保する方法です。
  • 配当を多くする等のインセンティブを設けることで、株主の同意を得ることが必要です。

特別支配株主の株式等売渡請求権の行使

  • 議決権の10分の9以上を有する特別支配株主が、他の株主の保有株式を強制的に買い取ることができます。

全部取得条項付種類株式の発行

  • 少数株主の締め出しを行うための手段として、全部取得条項付種類株式を発行する方法があります。
  • これは、少数株主を排除する際のリスクが高いため、慎重に行う必要があります。

株式取得における税務面の注意点

株式を取得する際には、適正な株式評価を行うことが重要です。適正な評価を行わない場合、税務面で不測の課税を受けることがあります。

  • 時価より低額での売買:買主が個人の場合には贈与税、法人の場合には一時所得として所得税が課される可能性があります。
  • 時価より高額での売買:売主が個人の場合には贈与税、法人の場合には益金として法人税が課される可能性があります。

特例制度として、非上場株式の相続税や贈与税の納税猶予・免除の特例、相続時精算課税制度の利用を検討することも重要です。

弁護士に相談するメリット

株式取得に伴う経営権確保には、法律・税務・財務の観点からの総合的な判断が求められます。弁護士に相談することで、以下のメリットを得られます。

  • 法的手続きのサポート:株式取得に必要な定款変更、株主総会決議のサポートを行います。
  • 税務対策の提案:適正な株式評価や税務対策について、税理士資格を持つ弁護士がアドバイスを提供します。
  • 他の専門家との連携:税理士や会計士と協力し、最適な事業承継プランを提案します。

まとめ

株式取得を通じた経営権の確保は、中小企業の事業承継において最も重要なポイントの一つです。株式の保有割合や株主総会での議決権を考慮し、適切な株式取得方法を選定することで、後継者への円滑な事業承継を実現しましょう。


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