【ポイント】
- 発熱や咳をしているなど体調の悪い株主がいたとしても、直ちに株主総会から退場を命じることは好ましくない。
- 原則として、任意での株主総会からの退席を促し、退場する際には、付き添い等の措置を講じる必要がある。
- 咳をしているなどの株主がどうしても退場に応じない場合には、議長による退場命令を出さざるを得ないケースがある。
【相談例】
株主総会の開会後、株主が咳きこみ始め、他の株主から当該株主を退場させるよう動議が出されました。どのように対応すべきでしょうか?
【回答】
株主総会の運営の安全確保の観点から、発熱やせきといった症状が出ている株主がいる場合、任意での退席を促すことが好ましいといえます。また、株主総会の状況を確認できる控室等があり、未使用の状況であれば、そちらに案内するなどの代替手段を取ることも考えられます。発熱やせきといった症状が出ている株主が退席に応じる場合には、付添のスタッフと共に退場していただくべきでしょう。
発熱やせきをしている株主がどうしても退席に応じない場合には、議長の裁量により、退場命令を出すことも考えざるを得ませんが、裁量権の逸脱という問題があることに注意しておく必要がございます。
【解説】
1 問題点
新型コロナウイルスの影響による入国制限措置などにより、株主総会の議長である社長が日本に帰れないといった事態も生じるおそれがございます。
このような場合に、株主総会の議長は誰が務めるのかという問題があります。
2 原則
会社法には、株主総会の議長を誰が務めかということについて定めがありません。そこで、定款に定めがない場合には、議長は株主総会によって選任されますが、定款上、社長である取締役が議長となる旨が定められているのが通例です。また、定款上多くの例では「社長に事故」がある場合には、あらかじめ取締役会の定める順序により、他の取締役が議長に代わる旨の規定があります。
議長についての定款の定めがなく、その都度株主総会決議で選任している場合には問題となりませんが、定款で議長についての定めをしており、かつ「社長に事故」がある場合についての議長の交代規定を定めている場合には、当該定款の規定により、議長を交代できるかという問題がございます。
3 「社長(会長)に事故があるとき」の解釈について
高松地判昭和38年12月24日判決(下民14巻12号2615頁)
上記判決は、「株主総会の議長には会長が当たり、会長に事故があるときは他の取締役がこれに当たる旨の定款の解釈」が争われた事案について下記のとおりの判断を下しております。
「会長に事故があるとき」とは、会長が病気、負傷、旅行等の事実的障害があつて、株主総会への出席が物理的に不可能なる場合のみを指称すにとどまらず、その事情はともあれ、会長自らの意思によつて当初から総会に出席せず、もしくは中途より退場した場合等株主総会の運営、議事進行に実際上支障を来す場合をもすべて含むものと解するのが相当であり〈中略〉「会長に事故があるとき」に該当するものというべきである。
上記判例の解釈
上記判決からすれば、新型コロナウイルスによる入国制限により、社長が日本に帰国できない場合には、事実的障害により、株主総会の出席が物理的に不可能になる場合にあたるといえるため、「社長に事故があるとき」にあたるものと解されます。
したがって、予め定めた代表順位に従って、他の者が議長を務めることが可能です。
なお、議長が株主総会の開催場所にいることを求める会社法上の規定はないことから、併せてテレビ会議による社長(議長)の出席を考えることも良いものと思われます。