相談事例

当社は非上場会社であり、取締役会設置会社ですが、このたび、発行済株式総数を減少させて株価を改善させるべく、自己株式の取得を検討しています。

株主との合意に基づき取得することとし、その方法として、特定の大株主Xから相対で自己株式を取得することを検討していますが、どのような手続が必要でしょうか。

回答

特定の株主から自己株式を取得する場合、合意による自己株式取得の原則形態である、いわゆるミニ公開買付の場合よりも、厳格な手続が必要となります。

具体的には、自己株式取得に係る授権決議として株主総会の特別決議が必要となるとともに、特定の株主以外の他の株主からの売主追加請求が認められています。

解説

特定の株主からの自己株式の取得

「自己株式 自己株式を取得できる場合とその方法」で説明したとおり、株主との合意により会社が自己株式を取得する方法は大きく4つに整理することができますが、そのうちの一つとして、特定の株主に対してのみ申込みの機会を与える方法も認められています(会社法160条)。

もっとも、特定の株主からの自己株式の取得については、非公開株式等、換金が困難な株式の売却機会の平等を図るため、グリーン・メイラーからの高値の取得を阻止する等の必要があることから、原則的な自己株式の取得方法である、全株主に申込みの機会を与える方法(ミニ公開買付)と比べて、株主総会の決議要件が加重される等、手続がより厳格になっています。

なお、ミニ公開買付と異なり、特定の株主からの自己株式の取得については、上場株式、非上場株式いずれを対象とする場合も利用することができます

特定の株主からの自己株式の取得の手続

特定の株主からの自己株式の取得の手続は、原則として、概要以下の6つのプロセスを経ることになります。

合意による自己株式取得の原則形態であるミニ公開買付と比べて、株主総会による授権決議前に、株主に対して平等に売却機会を提供するため、「特定の株主」以外の株主に対して自らも「特定の株主」に追加するよう請求する、売主追加請求が認められていることも大きな特徴の一つといえます。

自己株式の取得を解説 自己株式取得の方法や手続について

売主追加請求

特定の株主からの自己株式取得を行う旨の株主総会決議を行う場合、株主に対して平等に売却機会を与えるため、株主は原則として、「特定の株主」に自らを加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができます(売主追加請求、会社法160条3項)。

そして、会社は、かかる請求の機会を与えるため、原則として株主総会の2週間前までに、全株主に対して売主追加請求ができる旨を通知する必要がある(会社法160条2項)とともに、株主は、原則として株主総会の5日前までにかかる売主追加請求を行わなければなりません(会社法160条3項・会社法施行規則29条)。

ただし、以下の3つの例外に該当する場合には、売主追加請求は発生せず、また、上記売主追加請求に係る株主に対する通知も不要とされています。

  • ① 市場価格のある株式を、市場価格以下で取得する場合(会社法161条)
  • ② 株主の相続人その他の一般承継人から取得する場合(会社法162条)
  • ③ 定款で売主追加請求権を排除した場合(会社法164条)

株主総会決議 取得の「枠取り」のための決議

特定の株主からの自己株式取得を行うためには、株主総会の特別決議により、自己株式取得の「枠取り」として、以下の事項を定める必要があります(会社法160条1項)。

  • ④ 取得する自己株式の種類及び数
  • ⑤ 自己株式の取得と引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額
  • ⑥ 株式を取得することができる期間
  • 会社法158条に基づく通知を特定の株主に対して行う旨

なお、ミニ公開買付と異なり、定款により上記①〜③の事項を取締役会で定めることができる旨を定めた場合であっても、④を決議する場合には、①〜③も含めてすべて株主総会決議により定める必要があることに注意する必要があります。

取締役会決議 取得の「実行」に係る決議

株主総会決議により、特定の株主から自己株式を取得することについて決定した株式会社が、実際に自己株式取得を行う場合の手続は基本的にミニ公開買付の場合と同様です。

すなわち、株主総会決議は、いわば自己株式取得の「枠取り」のための決議ですが、実際に自己株式の取得を「実行」する段階において、株式会社は株主総会決議の範囲内で、別途以下の事項を決定する必要があります。

  • ⑤ 取得する自己株式の種類及び数
  • ⑥ 自己株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
  • ⑦ 株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の総額
  • ⑧ 株式の譲渡しの申込みの期日

このように自己株式の取得のためには、原則として、取得それ自体を決定するための株主総会決議と、当該株主総会決議に基づく取得を実行するための取締役会決議、の2つの決議が必要となることに注意が必要です。

株主に対する通知・公告

取締役会決議の決定を行った株式会社は、株主が譲渡しの申込みができるよう、決定した内容を株主に通知する必要があります(会社法158条1項)。

会社に対する譲渡しの申込み

株主に対する通知・公告により、株式会社に対して自己株式の譲渡しを希望する株主は、譲り渡す株式の種類及び数を特定して申し込む必要があります(会社法159条1項)。

会社の承諾

会社に対する譲渡しの申し込みに基づき、株主から譲渡しの申込みを受けた株式会社は、特段の意思表示をすることなく、譲渡しの申込期日において、申込みに係る自己株式の譲受けを承諾したものとみなされます(会社法159条2項)。

メールマガジン登録のご案内

メールマガジンのご登録はこちら

「弁護士法人 長瀬総合法律事務所」では、定期的にメールマガジンを配信しております。セミナーの最新情報、所属弁護士が執筆したコラムのご紹介、「実務に使用できる書式」の無料ダウンロードが可能です。ぜひご登録下さい。

顧問サービスのご案内

長瀬総合法律事務所の顧問弁護士サービス

私たち「弁護士法人 長瀬総合事務所」は、企業法務や人事労務・労務管理等でお悩みの企業様を多数サポートしてきた実績とノウハウがあります。

私たちは、ただ紛争を解決するだけではなく、紛争を予防するとともに、より企業が発展するための制度設計を構築するサポートをすることこそが弁護士と法律事務所の役割であると自負しています。

私たちは、より多くの企業のお役に立つことができるよう、複数の費用体系にわけた顧問契約サービスを提供しています。

 

リーガルメディア企業法務TVのご案内

リーガルメディア企業法務TVチャンネル登録はこちら

弁護士法人 長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」では、様々な分野の問題を弁護士が解説する動画を配信中です。興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。