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こちらのコラムは、YouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」において動画でも解説をしております。

売掛金が回収できない場合、中小企業にとっては死活問題になりかねません。少しでも多く回収できるよう、ここでは債権回収の方法をご説明いたします。

弁護士名で催告書を送付(内容証明郵便)

催告書とは、「未払いのお金を払ってくださいね。」という請求内容を記載した書面になります。この催告書を弁護士名で発送することで、自発的な支払いを促すことが期待できます。

債務者への心理的プレッシャーや、後々訴訟になった場合に催告の証拠として使用することも考慮して、内容証明郵便で催告書を発送します。

支払督促、民事調停、訴訟等

催告書を発送しても債務者が無視する場合や、支払いを拒絶する場合には、支払督促の申立て、民事調停、訴訟の提起を行うことになります。

支払督促は、書面審査のみで行われ、申立人の申立てに基づいて裁判所書記官が金銭の支払いを求める制度です。債務者からの異議がなければ、最短で約1ヶ月程度で強制執行が可能になります。

民事調停は、双方が話し合って円満な解決を図る方法です。裁判所の調停委員会のあっせんにより、当事者同士の合意による紛争解決を図るもので、調停で合意された内容は判決と同様の法的効力が生じます。

解決できなければ最終的に訴訟を提起します。通常の訴訟の場合は、請求する債権の金額や種類に制限はありません。債権額が60万円以下の場合は、1回の審理で判決が言い渡される少額訴訟の提起ができ、迅速な解決を図ることができます。

強制執行

上記のような法的手続きをとっても債務者が払ってくれないときは、強制執行を検討します。種類としては、不動産執行、船舶執行、動産執行、債権執行等がありますが、どれを行うかは債務者の財産の内容によることになります。

以上のように、債権を回収するためには様々な方法がありますが、債権額、債権の種類、債務者の財産状況、回収にかかる手続費用等を総合的に考慮して、最も適した方法を選択することになります。

債権回収のための10の方法

内容証明郵便

内容証明郵便とは

内容証明郵便とは、「いつ」「誰が」「誰に」「どんな内容の手紙を送ったか」を郵便事業株式会社が証明してくれる郵便です。また、内容証明郵便に配達証明をつけて送ることで、債務者にいつ届いたのかも記録することができます。

口頭でのやり取りや通常の郵便ですと、「言った」「言わない」のトラブルになることもありますが、内容証明郵便を使用すると、日付も内容も記録されますので、確かにその内容を債務者に伝えたという証拠を残すことができます。

内容証明郵便のメリット

内容証明郵便には、以下のメリットがあります。

心理的なプレッシャーを与えることができる

日常生活の中で内容証明郵便を受け取った経験のある方は少ないと思われますので、内容証明郵便を受け取っただけで心理的なプレッシャーを感じて支払いに応じてくれる場合も多々あります。

裁判での証拠とすることができる

何度督促しても債務者が支払いに応じない場合は、裁判で決着をつけることになります。

その場合に、債権者の主張を立証する必要がありますが、日付、内容等を公的に記録できる内容証明郵便を使用することで証拠とすることができます。

時効中断事由としての催告になる

債権には消滅時効があり、一定期間を経過すると債権が消滅してしまいます。

そこで、債権者としては時効の進行を止める必要がありますが、その際に内容証明郵便を使用することができます。内容証明郵便を送ることで、6ヶ月間だけですが、時効を伸ばすことが可能になります。

内容証明郵便のデメリット

内容証明郵便には以下のデメリットがあります。

債務者との関係性がこじれることがある

内容証明郵便は、裁判での証拠として使用できることから、是が非でも回収するぞ、という債権者の思いを強く主張するものになり、受け取った債務者は態度を硬直化させる可能性もあります。

また、内容証明郵便を送ることで、これまで培ってきた関係性を壊す危険性もあります。

強制力はない

内容証明郵便は、送ったからといって支払いを強制するものではありませんので、債務者が内容証明郵便を無視したりして支払いをしてくれなければ、結局のところ回収することはできません。

内容証明郵便のまとめ

内容証明郵便は、作成方法に気をつければ、債権者本人が行うことができますし、速やかな債権回収につながるというメリットもありますが、後々裁判になった場合に証拠として使われる可能性がありますので、債権者に不利にならないように内容をよく吟味して作成する必要があります。

支払督促

支払督促とは

支払督促とは、貸したお金や売掛金などを債務者が支払わない場合に、債権者の申立てのみによって、簡易裁判所の書記官が債務者に支払いを命じる略式手続きで、債権額にかかわらず利用できます。

支払督促のメリット

支払督促には、以下のメリットがあります。

書類審査のみで行われる

支払審査は書類審査のみで行われる手続きであるため、裁判所に出向く必要がありません。

手数料は訴訟の半額

支払督促は、訴訟の半分の金額で行うことができます。

債権者の申立てのみに基づいて、支払いが命じられる

債権者が申立てを行うと、債務者の言い分を聞かずに簡易裁判所の書記官が審査し、申立てのみに基づいて金銭の支払いが命じられます(「支払督促」の発布)。

「仮執行宣言付支払督促」により強制執行の手続きをとることができる

支払督促を送っても、債務者からの支払いもなく、異議申立てもない場合は、債権者は仮執行申立てをして、支払督促に仮執行宣言を付してももらい、強制執行の手続きをとることができます。

支払督促のデメリット

債務者から異議申立てがあると支払督促は無効となる

支払督促は、債権者の申立てによる書面審査のみで行うことができ、非常に簡潔が手続きであるため、支払督促を受けた債務者は、支払督促を受けてから2週間以内に、裁判所に「異議」を申立てるだけで、支払督促を無効とすることができます。

異議が申立てられると普通の裁判に移行する

支払督促に異議が申立てられると、そのまま通常の裁判に移行してしまいます。

つまり、裁判への出席、証拠の整理、追加費用支払いの必要性が出てくるということです。これらを行わなければ、請求は認められなくなってしまいます。

支払督促のまとめ

上記のようにメリットもデメリットもある支払督促ですが、いずれにせよ裁判所を介した法的手続きであり、一般の方が申立て手続きを行うとなると時間と労力がかかります。

また、債務者が異議申立てをして、通常の裁判に移行した場合も、一般の方が対応するには限界があります。そのため、早期に弁護士に依頼することが有効だといえます。

民事調停手続

民事調停手続きとは

民事調停手続とは、裁判所で裁判官1名と調停委員2名以上とで構成される「調停委員会」が、債権者と債務者との間に入り、双方の話し合いを補佐・助言しながら問題の解決を導くという手続きになります。

民事調停手続のメリット

民事調停手続には、以下のメリットがあります。

費用が安く、手続きも簡単

申立てに要する費用は訴訟の半額で、費用が安く済みます。

また、裁判所においてあるリーフレットを見たりすることで、書式等への記載も比較的簡単にできます。

裁判よりも柔軟な解決が期待できる

あくまでも当事者の話し合いによって解決する手続きであるため、決定的な証拠が提出できなくても柔軟な解決を図ることができる場合があります。

返済にあたっての条件や方法についても十分に話し合って合意することが可能です。

秘密を守ることができる

通常の裁判は公開で行われるのが原則ですが、民事調停手続は、非公開で行うため、企業の取引情報や内部事情が公になることはありません。そのため、第三者に企業の秘密を知られることはありません。

民事調停手続のデメリット

民事調停手続には以下のデメリットがあります。

債務者の出頭が必要

民事調停の場合、債務者が出頭しなくても、何らペナルティはなく、裁判所も何もできません。そのため、これまでの交渉の中でも請求を無視してきたような債務者の場合は、調停への出頭も拒否され手続きが進展しない可能性があります。

調停が不成立に終わることも多々ある

民事調停手続は、当事者の話し合いによって解決を目指すものになりますので、話し合いの間に入ってくれる調停委員の意見に強制力はありません。そのため、話し合いがまとまらない場合は、調停は不成立で終わることになります。

債務者の所在地が遠方の場合、時間と費用が多くかかる

民事調停手続は、債務者の本店等所在地の簡易裁判所に申立てる必要があります。そのため、債務者が遠方に所在地を有する場合には、債権者は時間と交通費を負担して、赴かなくてはならないとことになります。

民事調停手続きのまとめ

以上ご説明しましたとおり、民事調停手続にはメリットも多いのですが、債務者が合意しない場合には調停が不成立に終わるも多くみられます。また支払いについては合意に至っても、条件面で大幅な譲歩を要求してくる可能性もあります。

民亊調停手続では、経験に基づいて話し合いの流れを汲み、有利な交渉をすることも必要になります。そこで、債権回収について多くの経験を積んでいる顧問弁護士に相談することで、債権者が不利になるというリスクを減らすことが可能です。

少額訴訟

小額訴訟とは

少額訴訟とは、60万円以下金銭の支払いを求める場合に提起できる訴訟になります。各地の簡易裁判所で行うことができ、手続きも簡単で、判決が出るまでの時間も短いというのが大きな特徴になります。

少額訴訟のメリット

少額訴訟には、以下のメリットがあります。

簡易・迅速・安価に手続きをすることができる

少額訴訟を提起するには、簡易裁判所に訴状・証拠書類を提出することになりますが、手続きは簡単で、一人でも行うことが可能です。

また、一回の裁判で判決が下りるため、早急に解決することができます。さらに、訴訟費用は、印紙代と郵便切手代を合わせても10,000円前後と経済的です。

手続きが簡単

訴状を作成するとなると難しいイメージがありますが、少額訴訟の場合は、簡易裁判所の職員も相談に乗ってくれますので、簡単に作成することができます。

少額訴訟のデメリット

債権額が60万円を超える場合には少額訴訟は提起できない

少額訴訟を提起できるのは、債権額が60万円以下の場合で、それ以上の債権額の場合は少額訴訟を提起することはできません。

利用回数に制限がある

債権回収業者や金融業者のみならず、一般市民も広くこの制度を利用できるようにするため、少額訴訟の場合は、同一の債権者が同一の裁判所で訴訟を提起できる回数が年10回までと制限されています。

債務者が通常訴訟へ移行を求めてきた場合は少額訴訟を提起できない

少額訴訟の場合は、反訴が認められないことや判決に不服があっても控訴することができない等、通常訴訟とは異なる点があるため、債務者が通常訴訟を望む場合、債権者は少額訴訟の提起はできません。

少額訴訟のまとめ

少額訴訟の場合は、手続きも簡単で、1回の裁判で判決が出るため、迅速に債権回収ができる可能性があるというメリットもありますが、逆に1回で終わってしまうからこそミスが許されないともいえます。また、債務者が少額訴訟ではなく通常訴訟を望む場合もあり、途中から債権者だけでの対応が難しくなることもあります。

そこで、訴訟に慣れている顧問弁護士に依頼することで、少額訴訟を提起すべきか否かアドバイスをもらったり、提起する場合の証拠収集や書面の作成まで万全を期して準備をしたりすることが可能になります。また、通常訴訟へ移行した場合でも、弁護士のサポートがあれば安心して裁判に臨むことができます。

少額訴訟を提起するか否かご検討されているのであれば、まずはお気軽にご相談ください。

仮差押

仮差押とは

なかなか支払いをしてくれない債務者から強制的に債権を回収するには、訴訟を提起し、勝訴判決を得て強制執行をするのが通常の流れですが、その場合、訴訟提起から実際に回収するまでには数か月かかります。その間に債務者が財産を隠匿したり破産したりしてしまうと、せっかく勝訴しても結局債権を回収できない、ということになります。

仮差押は、こういった事態を防ぐために、裁判所が暫定処分として債務者が財産を動かさないよう命じるという制度です。

仮差押のメリット

仮差押には、以下のメリットがあります。

迅速に行うことができる

仮差押は、債務者の財産の散逸を防ぐための制度になりますので、早急に行う必要があり、申立てから1週間程度で裁判所の決定が出ます。

債務者には秘密にして行うことができる

債権者が自分の財産を差押えようとしていると債務者に知れると、財産の隠匿を行う可能性があります。そのため、仮差押は債務者に秘密裡に行うことができ、債務者が仮差押の決定を知ったときには、財産を動かすことができない状態になっています。

債務者へのプレッシャーになる

仮差押によって財産を凍結されることは、もともと資金繰りがうまくいっていない債務者にとっては致命的な打撃になりかねず、急いで債務を解消しようと一括で支払ってくることもあります。

仮差押のデメリット

仮差押には以下のようなデメリットもあります

手続きが容易ではない

仮差押は、口頭での説明や証人尋問もなく、書類審査のみで行われます。

一口に書類と言っても申立書、証拠書類、陳述書等があり、これらを迅速に正確に行うには、経験と知識が必要であり、債権者本人のみで行うことは難しいと思われます。

担保金(保証金)を用意する必要がある

仮差押を申立てるには、法務局に保証金を供託する必要があります。保証金の額は、概ね請求額の2~3割くらいの金額で、現金で用意しなければなりません。

この保証金は、債権回収に対する手続きが終わるなど、保証金を預けておく理由がなくなるまで預けておかなければなりません。そのため、保証金の用意ができなければ、申立てができないことも考えられます。

訴訟で敗訴した場合、債務者から損害賠償請求をされることもある

仮差押をして、後々翻案訴訟を提起したものの、敗訴することもあります。

その場合は、債務者に対して損害賠償責任を負うことになります。そのために、保証金を供託していても、債務者の損害が供託額を上回った場合は、追加で賠償しなくてはならないことになります。

仮差押のまとめ

仮差押は、メリットも大きい反面、デメリットも大きい制度です。どの財産をどの段階で差押えるのか、そもそも仮差押をした方が良い事案かどうかの見極めが大変重要になります。

回収しやすそうだからと言って安易に仮差押の手続きを始めると、後々困ることもありますので、早めに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

通常訴訟

通常訴訟とは

通常訴訟とは、民事訴訟法の原則に則って行う通常の訴訟になります。つまりお互いの話し合いがうまくいかず争いになった場合に、裁判所に訴えて専門家に判断して解決するという方法です。

通常訴訟のメリット

通常訴訟には、以下のメリットがあります。

裁判への参加をほぼ強制できる

これまで任意の支払いを無視してきた債務者でも、裁判所からの呼び出し状まで無視できる人はそうそういません。また、何もせずに無視をするだけでは敗訴してしまう旨も記載されており、否が応でも何らのアクションを起こす必要がでてきます。

裁判所が支払いを命じてくれる

裁判の中で双方の言い分を言い合っても調整・解決できない場合には、裁判所が公平な判断を下してくれます。裁判所が、債権者の言い分が正当と認めた場合には、債務者に判決という形で支払いを命じてくれることになります。判決には強制力がありますので、債務者が支払ってくれる可能性は非常に高くなります。

判決を得ると財産の差押えが可能になる

債務者が支払いをしないからといって、債務者の財産を強引に奪うことはできませんが、判決を得ると裁判所での手続きを経て債務者の財産を差押えることが可能になります。債務者側にとって、財産の差押えはデメリットが大きいので、差押えられる前に支払いに応じることが考えられます。

通常訴訟のデメリット

通常訴訟は債権回収の正攻法ですが、以下のようなデメリットもあります。

時間と労力がかかる

裁判は月に1回のペースで、判決が出るまでに数か月かかるのが通常です。慣れていなければ書類を作成することも大変ですし、裁判所まで毎回赴くことも大変です。

費用がかかる

裁判自体にかかる費用は、100万円を請求する裁判で1万円の手数料、500万円の請求で3万円、1000万円の請求で5万円の手数料にプラスして切手代がかかる程度です。

ただし、専門的な知識が必要とされる裁判を債権者だけで行うのは難しく、大抵は弁護士に依頼することになるため、弁護士費用が別途かかり、全体として通常訴訟の費用が高くなる、ということになります。

通常訴訟のまとめ

ある程度の時間、労力、費用をかけて通常訴訟を起こすかどうか、については事案に応じて慎重に検討する必要があります。内容によっては、弁護士に依頼せずに裁判を起こすことも可能ですし、逆に時間や費用をかけてでも弁護士に依頼して回収すべき事案もあります。

どの手続きをとるのが良いのか迷っているうちに時間だけが過ぎてしまい、債権回収に影響が出てしまうこともありますので、まずは一度ご相談ください。

強制執行

強制執行とは

裁判所の判決を得ても、債務者がそれに従わずに支払ってくれない場合、判決に基づき強制的に債権回収を図るのが強制執行手続になります。強制執行手続は非常に有効な方法で、債権回収における最終的手段です。

強制執行には、「不動産執行」「動産執行」「債権執行」がありますが、企業活動おける債権回収の場合、一番よく行われるのは「債権執行」です。具体的には、銀行預金の差押えや債務者が取引先に持っている債権の差押えを行います。

強制執行のメリット

不動産執行のメリット

不動産自体の価値は一般的には高額であるため、競売にかけたとしても、大きな金銭に換えることが可能なため、債権額が高額であっても一括で回収できる可能性があります。

動産執行のメリット

競売手続が不動産の場合よりも簡単で一人で行うことも可能です。また、家財道具に差押えの札が貼られることが、債務者への心理的プレッシャーになり、支払いに応じてくれることもあります。

債権執行のメリット

債権執行は、不動産執行や動産執行とは異なり、差押え後に競売等の手続きを経る必要がありません。差押命令の送達から1週間が経過すると、第三債務者(預金債権の場合は銀行、債務者の取引先への債権の場合はその取引先)へ直接取立てを行うことができます。

強制執行のデメリット

不動産執行のデメリット

不動産執行の場合、不動産の調査や鑑定評価費用として納める金額が高額な上、更に登記費用もかかります。また、配当までは長時間を要するため、不動産執行は費用と時間のかかる債権回収方法になります。

動産執行のデメリットとは

動産執行の場合、動産は、実際に建物の中に入って現物を見なければ、どれほどの価値があるものなのかがわかりません。債務者が高価な動産を所有していれば、配当にも期待できますが、そうでなければ、競売にかけても落札者はほぼいない、ということになってしまいます。

債権執行のデメリットとは

債権の場合は、債務者が「誰に対して」「どのような債権」を持っているのかわからず、債権を特定しづらいというデメリットがあります。また債権を特定できた特定できても、すでに別の債権者に差し押さえられているような場合は、結局債権を回収できないこともあります。

強制執行のまとめ

強制執行は、債権回収にはとても有効な手段といえます。もっとも、どの執行を行うのかは、回収を目指す債権額、債務者の財産状況等を考慮して、慎重にその方法を決めなければなりません。

迅速かつ適切な方法を選択し、債権回収の実効性を上げ、企業経営の安定化を図るために、採るためには顧問弁護士による専門的なアドバイスを受けることをお勧めいたします。

担保権実行

担保権実行とは

訴訟の後に強制執行を行うという債権回収手段のほかに、あらかじめ債権回収の目的となる契約について担保を設けていた場合に、その担保を換金することにより債権を回収する方法が担保権の実行です。

代表的な担保権としては、抵当権(債務が履行されない場合、目的不動産を競売にかけ、その代金から債権の回収を行うもの)、質権(お金を貸す代わりにあらかじめ担保として他の財産を預かり、お金の返済が無い場合にその財産から返済を受けるもの)があります。また、ビジネスの場では、譲渡担保権(表面的に目的物の所有権を債権者に移転し、債務が返済されたら所有権を元に戻す形で利用されるもの)が使われることもあります。

担保権実行のメリット

抵当権のメリット

抵当権の実行をする際には、裁判所の判決等は不要で、抵当権の登記をしていれば、直接実行することができます。言い換えれば、裁判を起こす手間を省くことができ、すぐに差押えが可能になります。

また、抵当権を持っている債権者は、一般の債権者よりも優先的に、売却代金の中から支払いを受けることができます。

質権のメリット

質権の場合は、債権者が質物を実際に預かります(占有)ので、高価なものを質入れした債務者にとっては心理的プレッシャーになり得ます。

また、抵当権とは異なり、登記できない動産や債権等にも質権を設定することができ、債権が回収できる可能性の幅は広がります。

譲渡担保権のメリット

時間や費用のかかる競売手続きを経る必要がなく、優先的に弁済を受けることができます。質権の場合は、実際に債権者が質物を預かる必要がありますが、譲渡担保の場合は、債務者の手元に目的物を置いたまま担保とすることができます。

担保権実行のデメリット

抵当件のデメリット

抵当権は不動産にしか設定できないので、債務者が不動産をもっていなければ、そもそも抵当件を利用することができません。逆に、資産価値の高い不動産を持っていると、自分より順位の高い抵当権者が既にいる可能性が高く、十分に回収できない可能性もあります。

質権のデメリット

債権者が質物を占有しなくてはなりませんので、管理がしづらいものやあまりに大きなものには設定が難しくなります。また管理義務も債権者が負いますので、万が一滅失させたりした場合は、損害賠償責任を負うこともあります。

譲渡担保権のデメリット

譲渡担保は、目的物の所有権は債権者に移転するものの、目的物自体は債務者の手元においておくことが多いので、債務者が処分してしまったりして、債権者、債務者及び第三者との間で新たなトラブルが起こることもあります。

担保権実行のまとめ

担保権については、上記以外にも様々なものがありますので、契約締結段階でどのような担保をとるべきかは専門的な知識を有する弁護士に確認しながら担保権の設定をすることが望ましいといえます。

また、担保権の実行で一般的によく利用されているのは抵当権で、有効な債権回収手段ではあるのですが、不動産は競売ではなく、任意売却のほうが高く売れ、且つ短い時間で債権を回収できるということもあります。担保権の実行は、裁判の判決を得ることなく債権回収ができる手段なのですが、注意すべき点も多々あります。

代物弁済

代物弁済とは

代物弁済とは、債務者が売掛金等を支払ってくれない場合に、他の資産を債権者に引き渡すことによって弁済したことにする手続きです。

本来はお金で弁済しなくてはならないものであっても、債権者がお金以外の資産での弁済を承諾すれば、債務は消滅することになります。対象となる資産は、動産、不動産、債権ですが、不動産の譲渡をなされることが多いです。

代物弁済のメリット

代物弁済のメリットは、以下のとおりです。

裁判所を介さずに債権回収を行うことができる

強制執行や担保権実行ですと、裁判所での手続きや競売を経てから、債権の回収を行うことになりますが、代物弁済の場合は、①債権と債務の存在②本来の給付とは異なる内容の給付③当事者の合意④弁済があることの4つの要件を満たせば有効に成立します。

代物弁済予約をすることができる

当事者間で代物弁済の合意をした後も、債務者から債権者へ所有権が移転されるまでは、資産の所有権は債務者にあります。そのため、他の債権者に譲渡されてしまったりすると結局弁済を受けられなくなってしまうことがあります。

このようなことを防ぐため、代物弁弁済予約(所有権移転の仮登記)をすることができます。

代物弁済のデメリット

代物弁済のデメリットは、以下のとおりです。

資産価値の評価は慎重に行う可能性がある

代物弁済では、対象となる資産の価値がもともとの債権の金額に及ばない場合であっても、一度資産が譲渡されたらその時点で弁済が完了になります。また、対象となる資産の価値が、もともとの債権の金額を大きく上回る場合は、価値が上回る部分の金額を債務者に対して返還する必要があり、場合によっては代物弁済自体が取消されてしまうこともあります。

代物弁済には税金がかかる

代物弁済では、債権者・債務者ともに税金がかかります。

  • 債務者の場合
    資産の譲渡によって免除される債務額は、資産の売却益であり、所得であると捉えられるので、消費税や譲渡所得税がかかります。また、譲渡した資産の価値より、債務額が上回る場合には、その差額については債務の免除がされたと考えれらますので、債務免除益における法人税がかかります。
  • 債権者の場合
    債務者から譲渡された資産の価値が、債務額を上回る場合には、その差額分について贈与税がかかります。また、代物弁済として不動産が譲渡された場合には、不動産取得税がかかります。

代物弁済のまとめ

当事者の合意により行うことができる代物弁済ですが、合意の証となる契約書の作成や、資産価値の正しい評価や、完了後の税金の処理など、専門的な知識が必要になります。顧問弁護士に相談すると、その地域で連携している税理士を紹介してもらえることもあります。

債権回収の方法で何か適切については、ケースにより異なりますので、代物弁済が最適かどうかを含め、早めに弁護士に相談することをお勧め致します。

保証人への回収

保証人とは

債権回収の手段には、強制執行など裁判所の判決を得て行う手段のほかに、予め担保を設定しておき債務が弁済されない場合に実行するという手段があります。

担保には、抵当権や質権など物に対して設定する物的担保と、債務者に保証人をたててもらうという人的担保があります。人的担保は、債務者に資産がなく物的担保が設定できないような場合に使用されることが多いです。

人的担保の種類には、債務の弁済がなされない場合に、債務者に代わって保証人が債務を弁済する義務を負う「保証」や、保証人が債務者に連帯して同等の義務を負う「連帯保証」があります。

人的担保のメリット

物的担保の場合は契約だけでなく、資産について担保権設定の登記が必要なこともありますが、人的担保の場合は契約のみで成立するため、比較的取得が簡単です。また、登記手続きも不要なことから、余分な費用がかかりません。

人的担保のデメリット

人的担保のデメリットは、担保の価値が不安定なことです。人的担保は、人に対する信用という変動しやすいものに頼ることになりますので、担保としては不確実です。担保してくれる人に資力がなければ結局のところ債権は回収できないことになります。

保証人と連帯保証人

人的担保の中には、通常の「保証人」と「連帯保証人」があります。どちらも万が一債務者に代わって弁済の義務を負う可能性があるという点は同じなのですが、通常の「保証人」は、どうしても債務者が債務を弁済できないときにだけ弁済しなければならないのに対し、「連帯保証人」は債務者と同様の義務を負うという違いがあります。

具体的に言うと、通常の「保証人」は債権者に対して、まずは債務者の方に十分な請求をしてほしいと求めることができます(催告の抗弁権)。また、債務者に財産がある場合は、債権者に対して債務者の財産から回収してほしいと求めることもできます(検索の抗弁権)。ところが、「連帯保証人」はいずれの抗弁権も有しないため、債務者に十分な資力があったとしても債務者よりも先に債権者から請求されることもあります。

保証人のまとめ

以上より、人的担保は、債務者のみならず保証人の財産からも回収できるという点で、債権回収の方法としては有効です。債権者にとっては、通常の「保証人」よりも「連帯保証人」をたててもらった方が、債権回収のためには有利になります。

従って、保証契約を締結する際には、連帯保証にしてもらえるよう提案をしていくことが重要です。

また、確実な債権回収のためには、保証人の財産状況の調査や確認も十分に行う必要があります。人的担保を検討している場合は、顧問弁護士のアドバイスのもと、より良い契約交渉をして債権回収に向けて準備を進めましょう。

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