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雇用契約書の作成ガイド

Q&A

Q: 雇用契約書はどのように作成すればよいでしょうか?作成時に特に注意するべき点はありますか?

A: 雇用契約書は、労働者と使用者が労働条件について合意した内容を正式に記録し、後のトラブルを防ぐための重要な書面です。契約書には、雇用期間、賃金、勤務時間、業務内容、解雇条件など、基本的な労働条件を明確に記載する必要があります。特に、日本の労働法規や就業規則に基づき、法的に有効かつ適正な内容を保証することが求められます。具体的な作成方法や注意点を押さえることで、適切な労使関係の維持が可能になります。

1. 雇用契約書とは?その役割と必要性

雇用契約書とは、労働者と使用者の間で結ばれる労働契約の内容を明確にし、法的に両者の義務や権利を定めるための書類です。この契約書には、労働条件、賃金、勤務場所、業務内容、解雇の条件など、労働者が従事する際の全ての条件が詳細に記載されます。労働基準法に基づき、労働者への労働条件の明示は義務であり、雇用契約書はその義務を果たす手段の一つとして重要な役割を果たします。

雇用契約書が必要な理由

雇用契約書は、労働者と使用者の双方が合意した条件を明文化し、後の紛争を未然に防ぐための重要な書類です。労働条件を曖昧にしておくと、解釈の違いや記憶違いからトラブルが発生しやすくなります。特に、労働条件に関する法的な要件を満たさない契約書は無効とされ、労働基準法に基づき修正が求められることがあります。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書は、労働者と使用者の双方が署名・押印することで合意を示します。一方、労働条件通知書は使用者が労働条件を労働者に一方的に通知するものであり、労働者の署名・押印は必要ありません。雇用契約書がより包括的で法的効力が強いのに対し、労働条件通知書は通知義務を果たすための簡易な書類です。

2. 雇用契約書の書き方:基本項目と具体例

正社員の雇用契約書

(1) 雇用期間の設定

雇用契約書には、雇用期間を明確に記載します。無期雇用の場合は「期間の定めなし」とし、有期雇用の場合は具体的な契約期間を記入します。例として、1年間の契約であれば「2024年4月1日から2025年3月31日まで」と明示します。有期雇用契約では、契約終了時に更新する可能性や、その判断基準を併せて記載することが推奨されます。

(2) 勤務場所の指定

2024年4月に施行された労働基準法施行規則の改正により、雇用契約書には勤務場所とその変更範囲を明記する必要があります。勤務場所が限定されない場合や、転勤がある場合はその範囲も詳細に記載します。例えば、「東京本社および全国の支社」といった形で、勤務地の範囲を具体的に示すことが求められます。

(3) 業務内容の明示

契約書には、労働者が従事する業務内容と、その変更範囲を記載します。例えば、営業職であれば「営業業務全般」とし、業務内容が変わる可能性がある場合は「全ての営業活動に従事する」といった形で包括的に記載します。業務内容の変更が予定されていない場合でも、将来的な可能性について言及することで、柔軟な対応が可能になります。

(4) 賃金の設定と支払い方法

賃金は、基本給、諸手当、残業代など、項目ごとに詳細に記載します。固定残業代を導入する場合は、その根拠や対象時間を明示する必要があります。例えば、「基本給月額30万円(その内5万円を月20時間の残業代として支給)」といった形で、何時間分の残業が含まれているかを明確にします。賃金の支払い方法や支払日についても明記し、銀行振込の場合は口座情報を含めます。

(5) 休日・休暇の設定

契約書には、所定休日や有給休暇の付与条件を明示します。通常の勤務体系であれば、「毎週土曜日および日曜日、祝日」といった形で記載し、特定の業界や企業の事情に応じた休暇制度も併せて説明します。また、有給休暇に関しては、労働基準法に基づく付与条件を明記し、労働者が正当に取得できるようにします。

3. 雇用契約書作成のポイント:法令遵守と実務的配慮

(1) 法令遵守の重要性

雇用契約書を作成する際には、労働基準法や労働契約法などの関連法規を厳格に遵守することが求められます。特に、法令に違反する契約内容が含まれている場合、その部分は無効とされ、労働基準法に基づいて修正が求められます。例えば、労働基準法では、雇用契約書に記載される労働条件が法律の基準に達していない場合、その契約は無効となり、法定基準に引き上げられます。

(2) 労働契約の変更手続き

雇用契約書に記載された内容を変更する場合、労働者と使用者の双方が合意し、変更点を明確に記載した新しい契約書を作成する必要があります。この際、労働者の署名と押印を得ることで、契約の効力が発生します。労働条件の変更が労働者に不利な場合、慎重な対応が求められます。

(3) トラブル防止のための具体的記載

雇用契約書に含まれる全ての項目は、できる限り具体的に記載することが重要です。曖昧な表現や、労働者に不利益をもたらす可能性のある条項は避け、明確かつ公正な内容にすることが、後々のトラブルを防ぐために必要です。また、トラブルが発生した場合に備えて、雇用契約書には解決手続きに関する条項を設けることも有効です。

4. 雇用契約書に違反した場合の法的影響

雇用契約書に違反した場合、使用者または労働者は法的責任を問われる可能性があります。特に、労働基準法に違反するような契約内容が含まれていた場合、その部分は無効とされ、法定基準に基づいて修正されることになります。また、労働契約に関する紛争が発生した場合、雇用契約書の内容が証拠として重要な役割を果たします。例えば、労働者が契約違反を理由に訴訟を起こした場合、契約書の内容が裁判での判断材料となります。

具体的な違反事例とその対応策

例えば、雇用契約書に「年次有給休暇は2年間継続勤務し、全労働日の80%以上出勤した場合に与える」と記載されている場合、労働基準法では「6ヶ月継続勤務」であるため、この契約内容は無効となり、「6ヶ月継続勤務」に修正されます。使用者は、労働基準法に基づいた内容で契約書を作成する必要があり、違反が見つかった場合は速やかに訂正することが求められます。

5. 雇用契約書がない場合のリスクと対応策

雇用契約書が作成されていない場合でも、労働契約そのものは口頭契約として有効です。しかし、労働条件が明確にされていないため、後々のトラブルが発生しやすくなります。特に、解雇や賃金に関するトラブルは、労使間の紛争の原因となることが多いです。

雇用契約書がない場合の法的リスク

雇用契約書がない場合、使用者は労働者に対して労働条件の明示義務を果たしていないことになり、法的責任を問われる可能性があります。労働基準法第15条では、労働者が入社する際に、労働条件を明示することが義務付けられており、この義務を果たしていない場合、使用者は罰則を受けることがあります。

トラブル防止のための対応策

雇用契約書がない場合は、速やかに契約書を作成し、労働者と合意を取り付けることが重要です。契約書には、全ての労働条件を詳細に記載し、双方が署名・押印することで、契約の有効性を確保します。過去のトラブルを防止するためにも、遡及して契約書を作成することが求められます。

6. 雇用契約書の具体的な作成手順と注意点

雇用契約書を作成する際には、以下の手順を踏むことが一般的です。これにより、労使双方が合意した内容を明確にし、契約の有効性を確保できます。

(1) 雇用条件のヒアリングと整理

まず、労働者が従事する職務内容や雇用形態、給与体系などの基本的な労働条件を整理します。これには、労働基準法や就業規則に基づいた条件を反映させることが重要です。

(2) 雛形の活用

次に、雇用契約書の雛形を活用し、必要な項目を埋めていきます。雛形は、正社員、パートタイム労働者、契約社員など、雇用形態に応じて異なるものを使用します。

(3) 条項のカスタマイズ

雛形を元に、各企業の実情に合わせて条項をカスタマイズします。特に、給与体系や労働時間、休日・休暇の取り扱いについては、法令に準拠しつつ、企業の実態に合わせた記載が求められます。

(4) 法律専門家への確認

作成した雇用契約書は、法律専門家(弁護士)に確認してもらうことが望ましいといえます。特に、法改正が頻繁に行われる労働基準法に関する内容については、最新の情報に基づいた適正な内容であるかを確認する必要があります。

(5) 労働者への説明と署名・捺印

最終的に、労働者に契約書の内容を説明し、理解を得た上で署名・捺印を行います。この際、不明点や疑問点があれば、労働者が納得するまで丁寧に説明することが重要です。

7. 雇用契約書に関する最新の法改正ポイント

2024年4月1日から施行される労働基準法施行規則の改正では、雇用契約書に記載すべき項目が追加され、これに対応した契約書の作成が求められるようになりました。特に、勤務場所の変更の範囲や、業務内容の変更範囲を記載する義務が追加され、これに伴い、企業は契約書の内容を見直す必要があります。

改正の具体的なポイント

改正後の労働基準法施行規則では、以下の事項が雇用契約書に明示される必要があります。

1. 勤務場所の変更範囲

例えば、転勤の可能性がある場合、「全国の支社」という形で勤務地の範囲を明記することが求められます。

2. 業務内容の変更範囲

労働者の業務内容が変更される可能性がある場合、その範囲を具体的に示す必要があります。

3. 契約更新の上限

有期契約の場合、契約の更新回数や通算契約期間に上限がある場合は、その内容を明記します。

8. 雇用契約書が労使関係に与える影響

(1) 雇用契約書が果たす役割

雇用契約書は、労使関係の基本を形成するものであり、双方が契約内容に基づいて誠実に業務を遂行することを求められます。契約書の内容が適正であれば、労働者は安心して業務に従事でき、企業も法的リスクを軽減することができます。

(2) トラブル防止と迅速な解決

雇用契約書に明確な条項が含まれていれば、労働者と使用者の間で生じる誤解や不満を未然に防ぐことができます。また、トラブルが発生した際には、契約書の内容を基に迅速に解決を図ることが可能です。

(3) 労働者の権利保護

雇用契約書は、労働者の権利を保護するための重要なツールです。特に、解雇や賃金未払いといった問題が発生した場合、契約書が労働者の立場を守るための証拠となります。

9. 弁護士に相談するメリット:専門家の視点からのアドバイス

雇用契約書の作成や見直しは、法的リスクを伴う重要な業務です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労働法に精通した弁護士が、企業の実情に合わせた適切なアドバイスを提供します。以下に、弁護士に相談する具体的なメリットを挙げます。

(1) 法的リスクの回避

弁護士は、雇用契約書が法令に適合しているかを確認し、将来的なリスクを回避するための助言を行います。例えば、労働基準法に基づいた適切な賃金設定や、解雇条項の明確化など、法的に問題のない契約書作成が可能です。

(2) トラブルの未然防止

雇用契約書に不備があると、労働者とのトラブルが発生しやすくなります。弁護士の助言を得ることで、契約書の内容を見直し、問題が発生する前に対応することができます。

(3) トラブル発生時の対応

万が一、労使間でトラブルが発生した場合でも、弁護士が迅速に対応し、法的手続きにおいて企業をサポートします。特に、解雇や労働条件の変更に関する問題では、弁護士の専門的な知識が役立ちます。

(4) 法改正への対応

労働法は頻繁に改正されるため、最新の法改正に対応した雇用契約書の作成が求められます。弁護士は、最新の法改正情報を把握しており、それに基づいた適切なアドバイスを提供します。

10. まとめ:雇用契約書の重要性と適切な作成のために

雇用契約書は、労働者と使用者の間で結ばれる最も基本的な契約書であり、その内容は法的に重要な意味を持ちます。正確かつ詳細な契約書を作成することで、労使関係のトラブルを防ぎ、健全な労働環境を維持することが可能です。

適切な雇用契約書の作成のために

雇用契約書を作成する際には、法令に基づいた適切な内容であることを確認し、労働者と使用者の双方が納得できる形で契約を締結することが重要です。特に、法改正や企業の状況変化に応じて、契約書を定期的に見直すことが推奨されます。また、専門的な知識が必要な場合は、弁護士に相談することで、より安全で確実な雇用契約書の作成が可能になります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、雇用契約書の作成や見直し、労使トラブルの対応など、幅広いサポートを提供しています。労働契約に関するご相談は、ぜひ当事務所にお任せください。


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