相談事例

当社は、人手不足による売上減少に加え、運賃単価の値上げができず、経営不振の状態が続いています。

このままでは会社の存続自体が難しいため、社員のリストラをせざるを得なくないと考えています。

そこで、営業部に所属しているAに対して、再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示した上で雇用契約の合意解約を申し入れましたが、Aはこれに応じてくれません。その後もAと交渉を重ね、報酬はカットすることになりますが、関連会社の一般事務職のポジションも提案しましたが、これについてもAは拒否してきました。

Aとの交渉を始めてから6ヶ月を経過しても解決に至らなかったことから、Xを解雇する旨の通知をしたところ、Aから当社に対して、地位保全等の仮処分を申し立てられました。当社によるAの解雇に問題があったのでしょうか。

解説

整理解雇とは

整理解雇とは、会社が経営不振の打開等、経済的理由から余剰人員削減を目的として行う解雇のことをいいます。

整理解雇には、経営困難や不振を理由にその危機を脱するために行うもの(危機回避型)と、経営困難に陥る前に経営の合理化や競争力強化を目的として行うもの(戦略的合理化型)の2種類とがあります。

いずれの類型であっても、整理解雇は多数の労働者に大きな影響を及ぼすものであることが通常であるため、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受け、正当と認められない場合には無効となります。

整理解雇の要件

整理解雇が認められるための要件については多数の判例が出されており、その中で整理解雇の正当性判断に関する4つの基準が確立されています。

具体的には、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性(労働者との協議・説明)の4つの基準が掲げられています。

かつては、上記4つの基準全てを満たさない限り、整理解雇は解雇権の濫用として無効とされてきました(4要件説。大村野上事件(長崎地裁大村支部昭和50年12月24日労判242号))が、近時の裁判例では、以上の4つの基準を総合考慮して個別に有効性を判断するようになってきています(4要素説。ワキタ事件(大阪地裁平成12年12月1日)、ナショナル・ウエストミンスター事件(東京地裁平成12年1月21日))。

もっとも、4要素説によっても、上記の4つの基準のうちどれか1つが欠ける場合には、かかる整理解雇は無効とされやすいことに変わりはありません。以下、各基準についてその中身を説明していきます。

① 人員削減の必要性

①人員削減の必要性については、裁判上、倒産必至といった高度の必要性までが要請されるものではなく、赤字があるなど高度の経営上の困難から当該措置が要請される、といった程度で足りる、と解されています。

なお、近時は①人員削減の必要性の要素については緩やかに判断しつつも、他の要素については厳格に判断する裁判例も多いといえます。

② 整理解雇の手段としての必要性(解雇回避努力義務)

人員削減の手段としての解雇は最後の手段であり、会社は指名整理解雇の実施の前に、採用募集の停止、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負い、これを欠く整理解雇は無効とされます。

4要素の中でも中核をなす要素であり、裁判でも争点となることが多いといえますが、職種ごとの専門性が高く、配置転換ができない場合などには、例外的に同要素が緩和される場合もあり得ます。

③ 被解雇者選定の妥当性

1人または複数人の整理解雇がやむを得ない場合であっても、会社は客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して被解雇者を選定する必要があります

したがって、そもそも基準を設定せずに行った整理解雇や、主観的で合理性を欠く基準による整理解雇は無効とされる可能性が高くなります。

④ 手続の妥当性

会社は、労働組合ないし労働者(代表)に対して事態を説明して了解を求め、人員整理の時期・規模・方法等について労働者側の納得が得られるよう努力する必要があります(大村野上事件)。

たとえば、労働組合からの要求があるにもかかわらず経理関係資料等の公開、事業閉鎖の理由や必要性についての客観的資料を伴った具体的な説明を欠く場合には、④手続の妥当性に欠くものと評価される可能性があります。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、必ずしも事実関係が明らかではありませんが、マーケットの悪化に伴い①人員削減の必要性があったこと、Aに対して再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示した上で雇用契約の合意解約を申し入れたり、別のポストを提案したりした上で解雇を選択しており、②人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)も認められることからすると、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が認められれば、Aの解雇は解雇権濫用法理に抵触せず、有効と判断されるものと思われます。

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