相談事例

当社では、新入社員には必ず身元保証人をつけてもらうようにしています。

これまでも新入社員からは身元保証契約書を提出してもらっていましたが、民法改正に伴って身元保証契約書の作成方法も変わったと聞いています。

具体的にどのような点に注意する必要があるのでしょうか。

解説

身元保証とは

身元保証とは、労働者の行為によって使用者が受ける損害の担保を目的とした保証をいいます。

これまでは、企業が労働者を採用する際に、主としてその家族や近親者との間で、特に極度額を定めずに身元保証契約を締結していることがみられていました。

身元保証契約には、身元保証法(身元保証ニ関スル法律)による規制が課されており、契約の存続期間に関する規律のほか(同法2条)、身元保証人の損害賠償の責任およびその金額を裁判所が定めるにあたっては被用者の監督に関する使用者の過失の有無等一切の事情を斟酌されることになります(同法5条)。

もっとも、同法上、身元保証人が負担することとなる保証の限度額を定めることを求める規定はなく、民法改正でも条文上の直接の手当はされていません。

身元保証のメリット

身元保証のメリットは、①トラブルを起こした社員に対する損害賠償請求権を担保する、②身元保証人への影響を懸念して社員がトラブルを起こすことを抑止する、という点が挙げられます。

なお、身元保証契約を締結することを嫌がる社員も想定されることから、すべての社員との間で締結する必要まではありません。

特に責任が重大な社員に限って身元保証契約を締結するということも考えられます。

民法改正の影響

ところで、2020年4月1日以降、改正民法が施行されることになりました。

改正民法では、保証に関するルールに変更が加えられていますが、特に身元保証との関係では、個人保証人を保護するルールが拡充されたことがポイントになります。

改正民法では、個人保証人の保護を拡充する観点から、根保証契約に関して極度額を定めなければならないとする規律と、元本確定事由に関する規律について、それぞれ適用対象となる保証契約の範囲の拡大等を行っています(改正民法465条の2、465条の4、465条の5)。

根保証契約は、ある特定の債務者と特定の債権者との間の取引によって生じた不特定の主債務を、現在だけではなく、将来発生するものも含めて包括的に保証するというものです。根保証は、通常の保証契約とは異なり、保証人の伺い知れないところで保証債務が拡大する可能性もあり、保証人へ予想外の債務負担を強いる可能性があるものといえます。

改正民法では、極度額に関する規律の対象を保証人が個人である根保証契約一般に拡大することとし、主債務の範囲に含まれる債務の種別を問わず、書面または電磁的記録で、極度額を定めなければその効力を生じないとされています(改正民法465条の2)。

身元保証法には、その保証の限度額を定めるべき規定はありませんが、改正民法の保証に関する規定の直接適用または類推適用があることとなります。企業としては、改正民法施行後に身元保証を取得する場合には、極度額の定めが必要になるため、2020年4月入社となる新入社員らとの関係で身元保証を取る場合には、この点を反映した契約書とする必要があります。

ご相談のケースについて

身元保証契約をこれから入社する社員との間で締結しようとする場合、22020年4月1日以降の契約となることから、改正民法の適用を受けることになります。

そこで、新たに身元保証契約を締結する際には、極度額を設定しなければならないことになります。

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