相談例

業績の拡大を目指して人員の増強をしたいと思いますが、一方でトラック運転手は労働時間の管理が難しいと感じています。

トラック運転手との契約を、雇用契約ではなく業務委託契約にすれば、労働時間の管理をしなくともよいという話を聞いたのですが、本当でしょうか。

解説

問題の所在

従業員が「労働者」に該当するかどうかは、企業と従業員との契約関係が雇用契約と解釈されるかどうか、ひいては労働基準法や労働契約法等、労働関係法規の適用があるかどうかを左右することになります。

「労働者」に該当すると判断された場合、①残業代支払義務の発生、②従業者との契約関係終了時における解雇規制の適用、③労災補償の対象や業務上災害に対する使用者責任等、様々な法的負担を受けることになり、労務管理コストが増大することになります。企業の人事戦略も左右することになるため、慎重に検討する必要があります。

労働者性の判断基準

この点、個別的労働関係法(労基法、労基法から派生した労安衛法・労災保険法等の労働保護法規、労働契約法、均等法など)の適用対象である「労働者」に該当するか否かは、実態として使用者の指揮命令の下で労働し、かつ、「賃金」を支払われていると認められるか否かにより決まると解されます(労働基準法9条、労働契約法2条1項)。

かかる基準を具体化したものとして、昭和60年厚生労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下「研究会報告書」といいます。)[1]が参考となります。

研究会報告書は、労働者性の判断基準の要素を、以下のように整理しています。

使用従属性に関する判断基準

「指揮監督下の労働」に関する判断基準
  • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
    • 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
    • その他
  • 拘束性の有無
  • 代替性の有無
報酬の労務対償性

労働者性の判断を補強する要

事業者性の有無
  • 機械、器具の負担関係
  • 報酬の額
  • その他
専属性の程度
その他

トラック運転手における労働者性の判断基準

運送業でみた場合、トラック運転手、特に「傭車運転手」が「労働者」に該当するかどうかが問題となります。

「傭車運転手」とは、自己所有のトラック等により、他人の依頼、命令等に基づいて製品等の運送業務に従事する者をいいます。

「傭車運転手」の「労働者」性の判断は、一般にその所有するトラック等が高価なことから、「使用従属性」の有無の判断とともに、「事業者」としての性格の有無の判断も必要となります。

この点、研究会報告書では、「傭車運転手」の「労働者」性の判断に関する具体的な判断基準を示していますので参考となります。

使用従属性に関する判断基準

「指揮監督下の労働」に関する判断基準
  • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
    当該諾否の自由があることは、指揮監督関孫の存在を否定する重要な要素となりますが、一方、当該諾否の自由がないことは、契約内容等による場合もあり、指輝監督関孫の存在を補強するひとつの要素に過ぎないものと考えられます。
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
    • 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
      業運送物品、運送先及び納入時刻の指定は、運送という業務の性格上当然であり、これらが指定されていることは業務遂行上の指揮監督の有無に関係するものではありません。
      運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示等がなされ、運送業務の遂行が「使用者」の管理下で行われていると認められる場合には、業務遂行上の指揮命令を受けているものと考えられ、指揮監督関係の存在を肯定する重要な要素となります。
    • その他
      当該「傭車運転手」が契約による運送という通常の業務のほか、「使用者」の依頼、命令等により他の業務に従事する場合があることは、当該運送業務及び他の業務全体を通じて指揮監督を受けていることを補強する重要な要素となります。
  • 拘束性の有無
    勤務場所及び勤務時間が指定、管理されていないことは、指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となります。
    一方、これらが指定、管理されていても、それはその業務内容から必然的に必要となる場合もあり、指揮監督関係の存在を肯定するひとつの要素となるに過ぎないものと考えられます。
  • 代替性の有無
    他の者が代わって労務提供を行う、補助者を使う等労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素となりますが、一方、代替性が認められていない場合には、指揮監督関係の存在を補強する要素のひとつとなります。
報酬の労務対償性

報酬が、出来高制ではなく、時間単位、日単位で支払われる場合には、その額が高い場合であっても、報酬の労務対償性が強く、「使用従属性」の存在を補強する重要な要素となります。

労働者性の判断を補強する要素

事業者性の有無
  • 機械、器具の負担関係
    「傭車運転手」は高価なトラック等を自ら所有するのであるから、一応、「事業者性」があるものと推認されます。
  • 報酬の額
    報酬の額が同社の同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額な場合には、当該報酬は、事業者に対する運送代金の支払と考えられ、「労働者性」を弱める要素となります。
    ただし、報酬の算定方法によっては、報酬の額が著しく高額なことそのことが「労働者性」を弱める要素とはならない場合もあります。
専属性の程度
  • 他社の業務に従事することが制約され、又は他社の業務に従事する場合であっても、それが「使用者」の紹介、斡旋等によるものであるということは、専属性の程度を高めるという意味であり、「労働者性」を補強する要素のひとつとなる場合もあるものと考えられます。
  • 報酬に固定給部分がある等生活保障的要素が強いと認められる場合も、「労働者性」を補強する要素のひとつになるものと考えられます。
その他

報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか否か、労働保険の適用対象としているか否か、服務規律を適用しているか否か等は、「労働者性」の判断に当たって重要な要素となるものではありませんが、当事者の認識を推認する要素であり、当該判断を補強するものとして考えて差し支えないといえます。

  (事例1)傭車運転手A 労働者に該当しないと判断される事例 (事例2)傭車運転手B 労働者に該当すると判断される事例
事業等の概要 事業の内容 建築用コンクリートブロックの製造及び販売 主として公共土木工事の設計、施工
傭車運転手の業務の種類、内容 自己所有のトラック(4トン及び11トン車、1人1車による製品(コンクリートブロック))の運送 会社施工の工事現場において土砂の運殼の業務に従事するいわゆる白ナンバーのダンプ運転手
当該傭車運転手の契約内容及び就業の実態 契約関係 書面契約ではなく、口頭により、製品を県外の得意先に運送することを約したもので、その報酬(運貸)は製品の種類、行先及び鐘数により定めている 傭車運転手は、積載量10トンのダンプカー1台を所有し、会社と契約して会社施工の工事現場で土砂運搬を行っている。契約等は作成しておらず、専属として土砂運搬を行うもので、本人が自己の意志で他社の建設現場へダンプ持ちで簡きに行くことは暗黙のうちに会社を退社するに等しいものと考えられている。
業務従事の諾否の自由 会社は配車表を作成し、配車伝票によって業務を処理しており、一般的にはこれに従って運送していたが、時にこれを拒否するケース(特段の不利益扱いはない)もあり、基本的には傭車運転手の自由意志が認められている。 ダンプを稼働した場合の報酬は1日につき35,000円であり、その請求は本人が毎月末に締め切って計算のうえ会社に対し行っている。会社は、この請求に基づいて稼働日数をチェックし、本人の銀行口座へ翌月10日に振り込んでいるが、この報酬については、給与所得としての源泉徴収をせず、傭車運転手本人が事業所得として青色申告している。
稼働時間は、午前8時から午後5時までとなっているが、ダンプによる土砂運搬がない場合は、現場作業員として就労することもできる。この場合には、賃金として1日につき5,500円が支払われる。
したがって、本人は土砂運搬作業の有無にかかわらず、士業時間までに現場に出勤しており、現場では、いずれの場合にも現場責任者の指示を受け、出面表にはそれぞれの時間数が記録されている。現場作業員として就労した場合の賃金は、一般労働者と同様、月末締切りで翌月5日に現金で支払われ、この分については、給与所得としての源泉徴収がされている。
指揮命令 運送業務の方法等に関して具体的な指揮命令はなく、業務遂行に当たって補助者を使用すること等も備車運転手の自由な判断にまかされ、時に上記配車伝票に納入時刻の指定がされる程度で傭車運転手地震に業務遂行についての裁量が広く認められている。
就業時間の拘束性 通常、傭車運転手は午後会社で裁荷して自宅に帰り、翌日、自宅から運送先に直行しており、出勤時刻等の定め、日又は週当たりの就業時間等の定めはない。
報酬の性格 報酬は運賃のみで、運賃には車両維持費、ガソリン代、保険料等の経費と運転業務の報酬が含まれていたと考えられるが、その区分は明確にされていない。 ダンプの所有は傭車運転手本人となっており、ローン返済費(月15万円)、燃料費(月20日稼働で15〜16万円)、修理費、自動車税等は本人負担となっている。
専属性 契約上他社への就業禁止は定めておらず、現に他の傭車運転手2名程度は他社の運送にも従事している。  
社会保険、税金等 社会保険、雇用保険等には加入せず(各人は国民健康保険に加入)、また報酬については給与所得としての源泉徴収が行われず、備車運転手本人が事業所得として申告している。 社会保険、雇用保険には加入していない。
「労働者性」の判断 「使用従属性」について ①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があること、②業務遂行についての裁量が広く認められており、他人から業務遂行上の指揮監督を受けているとは認められないこと、③勤務時間が指定、管理されていないこと、④自らの判断で補助者を使うことが認められており、労務提供の代替性が認められていること、から使用従属性はないものと考えられ、⑤報酬は出来高払いであって、労働対償性が希薄であることは、当該判断を補強する要素である。 ①業務遂行について現場責任者の指示を受けていること、②土砂運搬がない場合は、現場責任者の指示を受け現場作業員として就労することがあること、③勤務時間は午前8時から午後5時までと指定され、実際の労働時間数が現場において出面表により記録されていること、に加え、④土砂運搬の報酬はかなり高額ではあるが、出来高ではなく日額で計算されていることから、「使用従属性」があるものと考えられる。
「労働者性」の判断を補強する要素について ①高価なトラックを自ら所有していること、②報酬の額は同社の社内運転手に対してかなり高いこと、③他社への就業が禁止されておらず、専属性が希薄であること、④社会保険の加入、税金の面で同社の労働者として取り扱われていなかったことは「労働者性」を弱める要素である。 ①高価なトラックを自ら所有していること、②報酬の額は月20日稼働で70万円(ローン返済費及び燃料費を差し引くと約40万円)であって、その他の事情を考慮してもかなり高額であること、③社会保険の加入、税金の面で同社の労働者として取り扱われていないことは「労働者性」を弱める要素であはあるが、「使用従属性」の判断を覆すものではない。
結論 本事例の傭車運転手は、労働基準法第9条の「労働者」ではないと考えられる。 本事例の傭車運転手は、労働基準法第9条の「労働者」であると考えられる。

ご相談のケースについて

相談企業は、いわゆる「傭車運転手」を増員する予定とのことですが、「傭車運転手」であっても、「労働者」に該当する可能性は否定できません。

研究会報告書にもある「傭車運転手」の「労働者」性の判断基準や判断例を参照し、相談企業が予定している「傭車運転手」との契約関係を整理し、「労働者」に該当する可能性があるかどうかを慎重に検討する必要があります。

運送業向け 顧問サービスのご案内

運送業向け顧問サービスのご案内

私たち「弁護士法人 長瀬総合事務所」は、企業法務や人事労務・労務管理等でお悩みの運送会社・運送事業者を多数サポートしてきた実績とノウハウがあります。

私たちは、ただ紛争を解決するだけではなく、紛争を予防するとともに、より企業が発展するための制度設計を構築するサポートをすることこそが弁護士と法律事務所の役割であると自負しています。

私たちは、より多くの企業のお役に立つことができるよう、複数の費用体系にわけた顧問契約サービスを提供しています。

 

運送業のための書籍のご紹介

運送会社のための労務管理・働き方改革対応マニュアル

典型的な労働集約型産業である運送会社にとって、労務管理は大きな経営課題の一つです。

私たちは多数の運送会社との間で顧問契約を締結し、労務管理のサポートをしてきましたが、これまでに培った知見を整理した書籍を執筆しました。

働き方改革関連法、パワハラ防止法、民法改正、貨物自動車運送事業法改正に対応した内容となっています。労務管理に悩む運送会社やこれを支える士業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

運送会社のための労務管理・働き方改革対応マニュアル 働き方改革関連法、パワハラ防止法、民法改正、 貨物自動車運送事業法改正に対応!
運送会社のための労務管理・働き方改革対応マニュアル
著:弁護士 長瀨 佑志(茨城県弁護士会所属)
2021年3月12日 発売 定価4,290円(本体3,900円)

 

メールマガジン登録のご案内

  1. メールマガジン登録者のみに、セミナー動画を限定公開
  2. セミナーの最新情報をいち早くお知らせ
  3. 実務に使用可能な書式のダウンロードが可能

「弁護士法人 長瀬総合法律事務所」では、定期的にメールマガジンを配信しております。

メールマガジンでは、セミナーのお知らせ、所属弁護士が執筆した人気コラムのご紹介のほか、登録者限定で、当事務所の所属弁護士監修の「実務に使用できる書式」を無料でダウンロードが可能になるほか、セミナーを丸ごと収録した動画の限定配信を行なっております。メールマガジンに興味を持たれた方は、下記よりご登録下さい。

引用・出典

[1] 厚生労働省|労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)