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美容室の多店舗展開と「店長不在」のリスク|管理美容師の設置義務と権限委譲の法務

はじめに

多店舗展開を進める美容室オーナーにとって、最も頭を悩ませるのが「店長(マネージャー)人材の不足」です。

「信頼していた店長が急に退職してしまった」「新店舗を任せられる人材が育っていないが、物件契約の都合でオープンせざるを得ない」――こうした状況で、オーナーが不在のまま、あるいは経験の浅いスタッフだけで現場を回しているケースは少なくありません。

しかし、店舗に責任者が不在である状態(マネジメントの空白)は、現場の混乱を招くだけでなく、美容師法違反による行政処分や、労働基準法上の管理監督者性をめぐる紛争、さらには重大な事故が起きた際の使用者責任など、深刻な法的リスクを孕(はら)んでいます。

本稿では、支店経営において避けて通れない「店長の役割と権限」「管理美容師の設置義務」、そして本部としての監督責任について解説します。

Q&A

Q1. 店長が急に退職しました。次の店長が決まるまで、管理美容師がいない状態で営業しても大丈夫ですか?

美容師法違反となるため、早急な対応が必要です。

美容師法第12条の3に基づき、美容師が常時2人以上いる美容所では、「管理美容師」を置く義務があります。これに違反すると、保健所から店舗の閉鎖命令が出される可能性があります(美容師法第15条)。資格を持つ他のスタッフを任命するか、早急に有資格者を採用・配置転換する必要があります。

Q2. 「店長」という役職を与えれば、残業代を支払わなくてもよいですか?

役職名だけで判断されるわけではありません。

労働基準法上の「管理監督者」として残業代の支払い対象外となるには、「経営者と一体的な立場にあること」「出退勤の自由があること」「十分な賃金(役職手当など)が支払われていること」などの厳格な要件を満たす必要があります。名ばかりの店長で権限がなく、現場業務に追われているだけの場合は、残業代の支払い義務が生じます(名ばかり管理職問題)。

Q3. 店長不在の日にスタッフがお客様に怪我をさせました。現場にいなかったオーナーにも責任はありますか?

はい、責任を負います。

民法第715条の「使用者責任」により、従業員が業務中に第三者に損害を与えた場合、雇用主である会社やオーナーは賠償責任を負います。「現場にいなかったから知らなかった」という言い訳は通用しません。むしろ、監督者が不在であったこと自体が、管理体制の不備(過失)として責任を重くする可能性があります。

解説

「管理美容師」の配置義務と法的リスク

美容室の支店経営において、まず遵守しなければならないのが「管理美容師」の制度です。

設置義務の要件

美容師法では、美容師が2人以上従事する美容所には、管理美容師を置かなければならないと定めています(第12条の3)。管理美容師になるには、美容師免許取得後3年以上の実務経験があり、かつ都道府県知事が指定する講習会を修了している必要があります。

店長不在時のコンプライアンス

店長が退職や異動で不在となり、店舗に管理美容師資格を持つ者が一人もいない状態になると、その店舗は違法状態となります。

保健所の立ち入り検査で発覚すれば、改善命令や業務停止命令(閉鎖)の対象となり、ブランドイメージに致命的な傷がつきます。多店舗展開をする際は、各店舗に予備も含めて管理美容師有資格者を配置しておく計画性が求められます。

店長職への「権限委譲」と責任の所在

多店舗展開の失敗事例として多いのが、「店長」という肩書きだけを与え、具体的な権限や責任の範囲を曖昧にしたまま放置するケースです。これにより「マネジメント不在」の状況が生まれます。

権限の明確化(ジョブ・ディスクリプション)

法的なトラブルを防ぐためには、店長との雇用契約書や職務分掌規程において、以下の権限範囲を明確にする必要があります。

本部(オーナー)の指示責任

店長に権限を委譲したからといって、本部(経営者)の責任がなくなるわけではありません。

もし店長が部下にパワハラを行っていたり、違法な長時間労働を強いていた場合、本部がそれを把握し是正しなかったとすれば、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)や使用者責任を問われます。

「任せきり」にするのではなく、定期的なエリアマネージャーの巡回や、店長会議での報告義務を通じて、本部が現場をコントロール(ガバナンス)している実態が必要です。

「名ばかり店長」と残業代トラブル

支店経営の労務問題で最も多いのが、店長の残業代請求です。

管理監督者性の否定

多くの美容室で、店長がプレイングマネージャーとして朝から晩まで施術を行い、かつ閉店後の締め作業やシフト管理を行っています。

もし、この店長に「採用の権限がない」「自分のシフトを自由に決められない(遅刻・早退で給与が引かれる)」「一般スタッフと給与が大差ない」という実態があれば、法律上の「管理監督者」とは認められず、過去3年分の未払い残業代を請求されるリスクが高いといえます。

対策

店長を管理監督者として扱うのであれば、実質的な権限とふさわしい待遇を与える必要があります。それが難しい(プレイング要素が強い)場合は、無理に管理監督者扱いせず、きちんと残業代を支払うか、固定残業代制度を適切に導入するなどの設計が必要です。

マネジメント不在による現場の混乱事例

責任者が不在、または機能していない店舗では、以下のようなトラブルが頻発し、法的紛争に発展します。

これらの事態を防ぐためには、「店長が不在の時は、誰が責任者代行(サブチーフなど)を務めるか」という指揮命令系統を緊急連絡網とともに定めておくことが重要です。

弁護士に相談するメリット

店長の配置や権限委譲に関して、弁護士に相談・依頼することには以下のメリットがあります。

  1. 「管理監督者」性のリーガルチェック
    貴社の店長が、法律上の管理監督者に該当するかどうかを診断します。リスクが高い場合は、給与体系の見直しや職務権限規程の改定を行い、未払い残業代請求のリスクを低減させます。
  2. 職務分掌規程・雇用契約書の作成
    店長の権限と責任(何をしてよくて、何をしたらいけないか)を明確に定めた契約書や規程を作成します。これにより、横領や権限外の行動によるトラブルを予防し、万が一の際の懲戒処分の根拠を作ります。
  3. 管理美容師不足への法的アドバイス
    管理美容師が急に不在となった場合の緊急対応や、行政(保健所)への対応について助言を行います。
  4. ハラスメント・労務トラブルの対応
    店長が加害者、あるいは被害者となったハラスメント事案や、現場での労務トラブルが発生した際、会社側の代理人として事実調査や解決交渉を行います。

まとめ

美容室の多店舗展開において、「店長」は単なる役職名ではなく、法律上の「管理」と「責任」を担う重要な結節点です。

「人がいないからとりあえず名前だけの店長を置く」「管理美容師の配置を後回しにする」といった対応は、行政処分や多額の残業代請求、そして店舗崩壊のリスクを招く危険な経営判断です。

本部は、店長に対し「明確な権限(武器)」と「守るべきルール(規律)」を与え、孤立させないためのバックアップ体制を構築する法的義務があります。

店長の待遇決定や、管理体制の構築に不安がある経営者様は、組織が大きくなる前に、ぜひ一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社の成長を支える強固な組織づくりを、法務の面からサポートいたします。


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