はじめに

近年、大型の台風や予期せぬ突風、ゲリラ豪雨などの自然災害が頻発しており、寺院の境内や墓地においても、倒木による被害が後を絶ちません。

「台風で裏山の木が倒れ、檀家さんのお墓を直撃して墓石が割れてしまった」
「墓地内の老木が強風で折れ、倒れた拍子に複数の石塔をなぎ倒してしまった」

このような事故が起きた際、被害に遭われた墓地使用者(檀信徒)は、管理者である寺院に対して修繕費用の負担や損害賠償を求めてくることが予想されます。

寺院側としては、「自然災害なのだから不可抗力であり、お寺に責任はない」と考えがちですが、法律上の判断はそう単純ではありません。倒木の原因や樹木の管理状況によっては、寺院が多額の損害賠償責任を負うケースも少なくないのです。

本記事では、墓地内の倒木によって墓石等が破損した場合の寺院の法的責任(特に工作物責任)と、その判断基準となる「瑕疵(かし)」の考え方、そして万が一に備えるための損害保険の活用について解説します。 

Q&A

Q1. 台風の強風で境内墓地の木が倒れ、墓石が壊れました。自然災害によるものですが、それでも寺院は賠償責任を負うのでしょうか?

自然災害(不可抗力)であれば原則として責任は負いませんが、樹木に「設置・保存の瑕疵(欠陥)」があった場合は責任を負う可能性があります。

具体的には、倒れた木が以前から腐っていたり、倒れる危険性が予見できていたにもかかわらず、伐採や支柱の設置などの対策を怠っていた場合には、たとえ台風がきっかけであったとしても、寺院側の管理責任(土地工作物責任)が問われ、賠償義務が生じる可能性が高くなります。

Q2. 倒木で墓石が壊れた場合、修理費用は誰が負担するべきですか?

法的な責任の所在によって異なります。

寺院に管理上の落ち度(瑕疵)があり、法的責任が認められる場合は、寺院が修理費用(損害賠償)を負担しなければなりません。

一方で、寺院が十分な管理を行っており、倒木が「予見不能かつ回避不能な不可抗力」によるものと判断される場合は、寺院に賠償責任はありません。この場合、墓石は墓地使用者の所有物ですので、原則として使用者が自らの負担で修理することになります。

Q3. 寺院が加入している「施設賠償責任保険」で、倒木による墓石の被害は補償されますか?

寺院に「法律上の損害賠償責任」が発生する場合に限り、補償の対象となるのが一般的です。

つまり、樹木の管理に不備(瑕疵)があり、寺院が賠償義務を負うケースでは保険金が支払われます。しかし、管理に全く問題がなく、純粋な自然災害(不可抗力)として寺院に責任がないケースでは、そもそも「賠償責任」が発生しないため、保険金も支払われない(使用者の自己負担となる)ことが通常です。加入している保険の特約等によっても異なりますので、約款の確認が必要です。

解説

1. 倒木事故における寺院の法的責任(土地工作物責任)

墓地内の樹木が倒れて墓石などの他人の所有物を壊した場合、法律上問題となるのは民法717条の「土地工作物責任」です。

民法第717条(土地工作物等の占有者及び所有者の責任)

  1. 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
  2. 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

民法717条2項により、樹木(竹木)の「栽植(植え方)」や「支持(支え方)」に問題があった場合も、この責任が適用されます。

この責任の最大の特徴は、所有者(寺院)にとって「無過失責任」であるという点です。つまり、「自分たちは注意していたつもりだ」という言い訳は通用せず、客観的に樹木の状態に欠陥(瑕疵)があれば、過失の有無にかかわらず責任を負わなければなりません。

2. 責任の分かれ目となる「瑕疵(かし)」とは

では、どのような場合に樹木に「瑕疵」があったとされるのでしょうか。

判例・実務上、瑕疵とは「通常備えているべき安全性(性状・性能)を欠いている状態」を指します。倒木事故においては、主に以下の要素から総合的に判断されます。

  • 樹木の状態: 幹が空洞化していた、根腐れしていた、シロアリ被害にあっていた、枯れ枝が多かった、著しく傾いていたなど、倒壊の危険性を示す兆候があったか。
  • 管理状況: 定期的な点検を行っていたか、危険な枝の剪定や伐採、支柱による補強などの措置を講じていたか。
  • 周囲の状況: 倒れた先に墓石や通路があり、被害が生じることが予測できたか。

もし、倒れた木が外見上も明らかに枯れており、いつ倒れてもおかしくない状態だったのに放置していたのであれば、「保存の瑕疵」ありと認定され、寺院は賠償責任を免れません。

3. 「不可抗力(自然災害)」の抗弁

一方で、寺院側が責任を免れることができるのは、事故が「不可抗力」によるものだったと証明できた場合です。

不可抗力とは、外部から発生した事実で、通常必要とされる注意や予防措置を尽くしてもなお防止できないものを指します。

  • 想定外の暴風雨: 過去の記録を大幅に更新するような未曾有の大型台風や竜巻などで、健全な樹木であっても倒れることが避けられないような凄まじい外力が加わった場合。
  • 十分な管理: 専門業者による点検を定期的に行い、必要な剪定や補強を行っていたなど、管理者としてやるべきことを尽くしていた場合。

裁判例では、単に「台風が来たから」というだけでは不可抗力とは認められず、その台風の規模や、倒れた樹木の管理瑕疵との因果関係が厳密に審査されます。たとえば、震度5程度の地震や、通常の台風程度で倒れてしまった場合、その樹木や地盤にはもともと瑕疵があったと判断される可能性が高いといえます。

4. 損害賠償の範囲と対応

寺院の責任が認められた場合、賠償すべき範囲は、原則として「原状回復費用」です。

破損した墓石の修理費用、あるいは修理不能な場合は同等の墓石への交換費用が含まれます。ただし、もともとの墓石が古かった場合、経年劣化分を差し引いた時価額(減価償却後の価値)が限度とされることもあります。また、墓石の撤去費用や、新しい墓石ができるまでの仮設費用なども損害として認められる可能性があります。

5. 施設賠償責任保険の活用

このようなリスクに備えるため、多くの寺院では「施設賠償責任保険」に加入されています。

この保険は、寺院が所有・管理する施設(境内、建物、墓地、樹木など)の不備(瑕疵)によって、第三者の身体や財物に損害を与え、法律上の賠償責任を負った場合に、その損害賠償金や争訟費用(弁護士費用)等をカバーするものです。

保険活用のポイント

  • 補償対象の確認: 境内地内のすべての樹木が対象になっているか、墓地エリアも管理範囲に含まれているかを確認してください。
  • 「法律上の責任」が要件: 前述の通り、この保険は「寺院に法律上の責任がある場合」に支払われます。寺院に落ち度がなく、純粋な自然災害(不可抗力)である場合には、保険金が下りないケースが一般的です。
  • 見舞金特約: 賠償責任がない場合でも、被害に遭った檀信徒に対して一定額(数万円〜数十万円程度)を支払うことができる「見舞金費用特約」などが付帯されている場合があります。法的な責任はなくとも、檀信徒との関係維持のために見舞金を支払いたい場合に役立ちます。

弁護士に相談するメリット

倒木による墓石破損事故は、感情的な対立に発展しやすく、対応を誤ると寺院経営の根幹である檀信徒との信頼関係を損なうおそれがあります。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 法的責任の有無の正確な判断
    倒木の原因が「管理瑕疵」なのか「不可抗力」なのかは、法的・専門的な判断が必要です。弁護士は、樹木の状況、気象データ、過去の管理履歴などを分析し、寺院に賠償責任があるかどうかを客観的に評価します。
  2. 保険会社への適切な対応
    保険金を請求する際、保険会社に対して事故状況や法的責任の所在を論理的に説明する必要があります。弁護士が関与することで、保険適用がスムーズに進むようサポートします。
  3. 墓地使用者(被害者)との交渉代理
    被害に遭った檀信徒への説明や示談交渉を弁護士が窓口となって行います。特に、寺院に責任がないケースで納得してもらうための説明や、過大な賠償請求を受けた場合の減額交渉など、寺院を守りつつ円満な解決を目指します。
  4. 再発防止策と管理体制の構築
    今回の事故を教訓に、今後の樹木管理のルール作り(定期点検の記録化、危険木の伐採基準など)や、墓地管理規則(免責条項など)の見直しについて、法的な観点からアドバイスを行います。

まとめ

墓地内の倒木による墓石破損事故は、寺院にとって避けて通れないリスクの一つです。

寺院が責任を負うかどうかは、その樹木に「設置・保存の瑕疵(管理不足)」があったかどうかが決定的な分かれ目となります。日頃から樹木の点検を行い、危険な木を伐採・剪定しておくことは、事故を防ぐだけでなく、万が一事故が起きた際に「管理責任を果たしていた」と主張するための重要な証拠となります。

また、事故発生時には、安易に責任を認めたり、逆に一方的に責任を否定したりせず、まずは冷静に事実関係を調査することが大切です。

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