はじめに
近年、少子高齢化や核家族化の進行、さらには「墓じまい」への関心の高まりを背景に、従来型の墓地ではなく「納骨堂」を選択する方が増えています。
天候に左右されずにお参りができ、永代供養とセットになっていることも多い納骨堂は、利用者にとって利便性が高いだけでなく、寺院にとっても、限られた境内地を有効活用し、安定的な護持運営を図るための重要な選択肢となりつつあります。
しかし、納骨堂の経営は、誰でも自由に始められるものではありません。「墓地、埋葬等に関する法律(以下、墓埋法)」に基づく厳格な許可が必要であり、その基準は各自治体の条例によって細かく定められています。また、多額の建設費用がかかる事業であるため、コンサルタントや建設業者から提案を受けることもあるかと思いますが、中には「名義貸し」などの法的に問題のあるスキームが含まれているケースもあり、慎重な判断が求められます。
本記事では、寺院が納骨堂の経営を検討する際に知っておくべき法律上の許可基準、経営主体の要件、そして運営開始後のトラブルを防ぐための法的留意点について解説します。
Q&A
Q1. お寺の境内であれば、自由に納骨堂を建てて経営を始めることができますか?
いいえ、たとえ自己所有の境内地であっても、納骨堂を経営するためには、都道府県知事(政令指定都市等は市長)の許可を受けなければなりません。
許可を得るためには、各自治体が定める条例の基準(設置場所の距離制限、構造設備の基準、経営主体の財産的基礎など)をすべてクリアする必要があります。無許可で納骨堂を経営すると、法的な処罰の対象となります。
Q2. 建設業者から「運営はすべて任せてくれればよいので、お寺の名義だけ貸してほしい」と提案されました。問題ありますか?
大きな法的問題があります。これは「名義貸し」と呼ばれる行為であり、行政指針等で明確に禁止されています。
納骨堂の経営主体は、永続性と非営利性を持つ宗教法人などでなければならず、実質的な経営権を営利企業が握ることは認められません。名義貸しが発覚した場合、許可の取消し処分を受ける可能性が高く、寺院としての社会的信用も失墜することになります。
Q3. 納骨堂の許可申請にあたり、近隣住民の同意は絶対に必要ですか?
多くの自治体の条例において、近隣住民への事前説明会の開催や、同意書の取得が許可の要件(または努力義務)とされています。
同意が「絶対条件」であるかは条例の規定ぶりや裁判所の判断によりますが、近隣住民との合意形成が不十分なまま計画を進めると、反対運動や建設差止訴訟などの深刻なトラブルに発展するリスクがあります。したがって、法的な義務の有無にかかわらず、丁寧な説明と協議を行うことが重要です。
解説
1. 納骨堂経営の法的根拠と「許可主義」
日本において、遺骨を埋蔵・収蔵する施設(墓地や納骨堂)を経営するためには、行政の許可が必須です。
墓地、埋葬等に関する法律 第10条
1 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
この許可は、一度取得すれば終わりではなく、施設の区域や構造を変更する場合(増改築など)や、廃止する場合にも同様に許可が必要です。
重要なのは、許可の具体的な基準(審査基準)が、法律そのものではなく、各都道府県や市町村の「条例」や「規則」に委ねられている点です。そのため、東京都と大阪府、あるいは同じ県内でも市町村によって、求められる条件が大きく異なる場合があります。まずは、建設予定地を管轄する自治体の条例を確認することがスタートラインとなります。
2. 誰が経営できるのか?(経営主体の適格性)
納骨堂は、利用者の遺骨を長期間(場合によっては数十年~永代)にわたって預かる施設であり、経営が途中で頓挫することは許されません。また、人の死を扱う尊厳ある施設であるため、営利目的での運営はなじまないとされています。
そのため、経営主体には「永続性」と「非営利性」が求められます。
原則は地方公共団体、例外として宗教法人
厚生労働省の通達や各自治体の条例では、経営主体は原則として市町村などの地方公共団体であるべきとされています。
しかし、これに準ずるものとして、宗教法人や公益法人(公益社団・財団法人)による経営も認められています。
宗教法人が経営主体として認められるためには、一般的に以下の要件を満たす必要があります。
- 活動実績: その宗教法人が設立されてから一定期間(例:3年以上など)経過しており、適正な宗教活動の実績があること。
- 財務基盤: 納骨堂の建設費を賄えるだけの資金力があり、かつ、将来にわたって維持管理を行える安定した財産基盤があること。
- 組織体制: 責任役員会などが適正に機能しており、欠格事由のある役員がいないこと。
「名義貸し」の禁止
前述のQ&Aでも触れましたが、株式会社などの営利法人は、原則として納骨堂の経営主体になることができません。
そこで、石材店や不動産開発業者が、資金繰りに困っている寺院などに近づき、「建設費は当社が負担する」「お寺は名義を貸すだけで、販売収益の一部を受け取れる」といった提案を持ちかけるケース(名義貸し)が見受けられます。
しかし、実質的な経営権(資金の調達、管理運営、収益の帰属)が営利企業にあると判断されれば、それは脱法行為であり、許可の取消し事由となります。最悪の場合、納骨堂の閉鎖を余儀なくされ、すでに納骨している利用者をも巻き込む問題となります。
3. 設置場所と構造設備の基準
許可を取得するためには、経営主体の適格性だけでなく、ハード面(場所・建物)の基準もクリアする必要があります。
設置場所の基準(距離制限)
多くの条例では、公衆衛生や静穏の保持の観点から、納骨堂の設置場所について距離制限を設けています。
- 対象施設: 住宅、学校、病院、保育所、公園、河川など。
- 距離: 「敷地境界から100メートル以上」「300メートル以上」など。
- 例外規定: ただし、多くの条例には「公衆衛生上支障がないと認められる場合」や「土地の状況によりやむを得ない場合」に、距離制限を緩和する規定(ただし書き)があります。特に、既存の寺院の境内地に建てる場合などは、緩和が認められやすい傾向にありますが、事前協議が必要です。
構造設備の基準
納骨堂の建物自体にも、以下のような基準が設けられています。
- 耐火構造: 建物は不燃材料を使用し、耐火構造であること。
- 区画の明確化: 納骨装置は鍵のかかる設備とし、他と明確に区画されていること。
- 換気・採光: 堂内の換気設備や採光が十分であること。
- 附帯施設: 管理事務所、駐車場、トイレ、給水設備、ゴミ集積所などを設置すること。
特に近年普及している「自動搬送式納骨堂(ビル型納骨堂)」の場合、機械設備のメンテナンス計画や、災害時の遺骨の保全方法などについても厳しい審査が行われることがあります。
4. 許可申請のプロセスと近隣調整
納骨堂の経営許可申請は、以下のような流れで進むことが一般的です。
- 事前相談: 市町村の担当窓口に構想を伝え、条例の基準に適合するか確認する。
- 標識の設置: 建設予定地に「納骨堂建設予定地」等の看板を設置し、周知を図る。
- 近隣住民への説明会: 住民説明会を開催し、計画内容を説明する。質疑応答の内容は記録に残す。
- 事前協議書の提出: 自治体によっては、本申請の前に事前協議が必要。
- 経営許可申請: 設計図書、資金計画書、権利関係書類、住民同意の状況報告書などを提出。
- 審査・許可: 書類審査と現地調査を経て、問題なければ許可指令書が交付される。
- 工事着工・完了: 工事を行い、完了検査を受ける。
- 経営開始(使用者の募集): 許可を得た後でなければ、利用者募集(広告宣伝)はできない。
近隣住民とのトラブル回避
納骨堂建設において最も高いハードルとなりがちなのが、近隣住民の反対です。「遺骨が集まる施設が近くにあるのは嫌だ(風評被害)」「交通渋滞が心配」「ビルの圧迫感がある」といった理由で反対運動が起きることがあります。
法的には、住民の同意がないことのみを理由に許可を拒否することは難しい(裁量権の逸脱となる可能性がある)という裁判例もありますが、自治体は「住民との話し合い」を強く指導します。トラブルを未然に防ぐためには、計画の初期段階から誠意を持って説明を行い、景観への配慮や目隠しの設置など、具体的な妥協点を探る姿勢が重要です。
5. 宗教法人内部の手続きと管理規則
対外的な許可手続きと並行して、宗教法人内部での手続きも必要です。
宗教法人規則の変更
多くの寺院規則には、目的として「儀式行事を行う」「教義を広める」といった内容が書かれていますが、納骨堂経営を行う場合は、事業規定に「納骨堂の経営」を明記する必要があります。
このため、責任役員会での議決を経て、所轄庁(都道府県知事または文部科学大臣)に対し、規則変更の認証申請を行わなければなりません。
管理規則と使用契約書の策定
許可申請時には、納骨堂の利用ルールを定めた「管理規則(使用規定)」の添付が求められます。
- 使用者の資格(檀家に限るのか、宗派不問か)
- 永代使用料(志納金)と管理料(護持会費)の額と支払い方法
- 使用権の承継に関する規定
- 使用許可の取消し事由(管理料滞納時の対応など)
- 経営廃止時や無縁化した場合の遺骨の取扱い(合祀墓への改葬など)
これらは、将来的に利用者との間でトラブル(「聞いていた話と違う」「勝手に遺骨を動かされた」など)が生じた際に、寺院を守るための重要な根拠となります。
6. 会計処理の留意点(収益事業課税)
宗教法人が行う本来の宗教活動は非課税ですが、納骨堂経営については、その性質によって課税関係が異なります。
- 非課税: 檀信徒に対して、実費相当額や低廉な価格で提供する場合や、お布施として受領する場合。
- 収益事業(課税): 広く一般(檀信徒以外)を対象に販売する場合や、区画販売業者のような性質を持つ場合、あるいは石材店等が販売代理を行う場合などは、法人税法上の「収益事業(倉庫業や物品販売業等)」とみなされ、課税対象となるリスクがあります。
税務上の区分についても、事前に税理士や弁護士に確認し、会計帳簿を明確に区分経理しておくことが望まれます。
弁護士に相談するメリット
納骨堂経営は、行政法、民法、宗教法人法、税法が複雑に絡み合う分野です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 許可見込みの調査と行政対応: 自治体の条例を精査し、その土地で納骨堂が可能かどうかを初期段階で診断します。また、行政との事前協議に弁護士が同席することで、スムーズな交渉が期待できます。
- 住民対応・反対運動への対処: 近隣住民への説明会の進め方や、反対運動が起きた際の法的な対応(不当な要求への対処など)についてアドバイスを行います。
- 契約書・管理規則の整備: トラブルを未然に防ぐため、将来の「墓じまい」や「管理料滞納」も見据えた、法的効力の高い管理規則や使用契約書を作成します。
- 名義貸しリスクの回避: 提携予定の業者との契約内容をチェックし、実質的な名義貸しに該当しないか、寺院に不利な条項がないかを審査し、適正な業務提携契約を結べるようサポートします。
まとめ
納骨堂の経営は、寺院にとって新たな護持の柱となり得る事業ですが、その実現には「墓埋法」や「各自治体の条例」に基づく厳格な許可基準をクリアしなければなりません。
安易な計画や、業者任せの進め方は、許可が下りないばかりか、近隣トラブルや将来的な法人の存続危機を招くおそれさえあります。
「納骨堂を作りたいが、何から始めればよいかわからない」「業者から提案を受けているが、法的に問題ないか心配だ」というご住職や寺院関係者の方は、寺院法務の専門知識を持つ弁護士法人長瀬総合法律事務所にぜひご相談ください。構想段階から運営開始後のトラブル予防まで、法的サポートを提供いたします。
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