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判例からみる不合理な待遇差の具体例

はじめに

同一労働同一賃金の原則が叫ばれる中、正社員と非正規社員(パート・アルバイト・有期契約社員)との間に生じる賃金・手当・福利厚生の不合理な差をめぐる裁判例が相次いで注目を集めています。なかでも長澤運輸事件やハマキョウレックス事件など、最高裁判所の判断は企業側に大きなインパクトを与え、実際の待遇差がどのように違法と認定されうるかの具体例を示すこととなりました。

本記事では、判例からみる不合理な待遇差の具体例として、主要な裁判例の内容や、企業が注意すべきポイントを弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。これら判例の示す方向性を理解することで、企業は同一労働同一賃金への対応を誤らず、労務リスクを最小限に抑えつつ多様な人材活用を進めることが可能です。

Q&A

Q1. 「長澤運輸事件」「ハマキョウレックス事件」とは何でしょうか?

どちらも有期契約社員と正社員の待遇差が争われた裁判で、最高裁が最終判断を示した重要判例です。長澤運輸事件は、定年後再雇用された嘱託社員の賃金差が不合理かどうかが争点となり、ハマキョウレックス事件では、パート社員に対する賞与・各種手当の不支給が不合理かどうかが焦点でした。

Q2. なぜこれらの裁判例が注目されているのですか?

これら最高裁判例が、パートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)による同一労働同一賃金原則の理解を深め、不合理な待遇差の具体例を示したからです。企業は自身の賃金テーブルや手当の運用を、この判例基準に照らして点検する必要があります。

Q3. 判例で違法と判断された例はどのようなものですか?

例として、

Q4. 長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の判決概要を教えてください。
Q5. 判例が示す教訓を踏まえ、企業は具体的にどのような対応が必要でしょうか?

まず正社員と非正規社員の業務内容・責任範囲を明確化し、それに応じた手当・賞与・福利厚生の支給基準を整備することです。差を設けるなら合理的根拠を説明可能にし、必要な場合は段階的に差を是正する計画を立てる。就業規則・賃金規程の見直しと、従業員への説明をセットで行うことが重要となります。

解説

長澤運輸事件の概要とポイント

  1. 事案
    定年後再雇用された嘱託社員の賃金が定年前と大幅に異なり、正社員と同様の業務を行っているのに手当などが大きく減額されていることが争点。
  2. 最高裁の判断
    定年後の継続雇用に一定の賃金差を設けること自体は再雇用の趣旨から必ずしも不合理とは言えないが、職務内容が同じ部分にまで賃金差を設けるのは不合理差となる可能性。具体的には個別手当ごとに合理性を判断する。
  3. 企業への教訓
    再雇用社員も実質正社員と同じ仕事をしているなら、大きな差を設けると裁判所に不合理とみなされるリスクがある。

ハマキョウレックス事件の概要とポイント

  1. 事案
    物流会社のパート社員が正社員とほぼ同じ業務内容を担い、賞与・退職金・各種手当が正社員のみ支給されるのは不合理差だとして争った。
  2. 最高裁の判断
    通勤手当だけでなく、無事故手当、作業手当、給食手当に加えて、さらに皆勤手当についても、契約社員と正社員との間で格差を設けることは、期間の定めがあることによる不合理な相違であり、労働契約法20条に違反する判断するべきとした。
  3. 企業への教訓
    各手当を一律で非正規に不支給としている場合、職務内容や成果が同じなら裁判所に不当とされるリスクがある。個別の手当の趣旨を明示し、非正規社員にも支給対象を広げるか適正化が必要。

その他の主要判例・ガイドライン例

  1. 大阪医科薬科大学事件(最高裁判所第三小法廷判決令和2年10月13日)
    嘱託職員と正職員で病院内の実質的業務内容が同様にもかかわらず、休日手当などの支給格差を設けていた事例。部分的に不合理差と認定された。
  2. ガイドラインの活用
    手当・賞与・福利厚生などについて、厚生労働省の示すガイドラインを参考に企業は制度設計を行う必要がある。
  3. 不合理差の具体例
    ガイドラインでは、各種手当や教育訓練、福利厚生等々の差を付ける際の考え方を示しており、職務内容・責任・成果などを反映して説明できるかが鍵とされている。

不合理差是正の実務対応

  1. 現状把握
    賃金テーブル・手当支給要件・福利厚生利用可否をリスト化し、正社員と非正規の差額を把握。
  2. 職務分析
    正社員と非正規の業務内容・責任範囲を比較し、どこまでが同等なのか、どの部分が異なるかを整理。
  3. 各項目ごとに差の有無を検証
    通勤手当や賞与、退職金、手当(住宅・家族など)について、差があるなら根拠や目的を明示し、合理的説明が可能か検討。
  4. 段階的是正
    全項目を完全一致させるのが難しい場合、労使協議で段階的に改善計画を進めることも考えられる。

弁護士に相談するメリット

判例が示す不合理差の具体例を踏まえ、企業がどこまで差を設けられるかは非常に難しい判断です。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。

  1. 判例基準の適用
    企業内で設けられている差を、長澤運輸事件やハマキョウレックス事件などの裁判例に照らして精査し、違法リスクを指摘。
  2. 就業規則・賃金規程の改訂
    不合理差を是正する形で手当・賞与・福利厚生を整備し、法的に問題ない運用方針を文書化。
  3. 段階的導入サポート
    経営上の負担を一気に拡大できない場合、段階的な是正方法や労使協議の支援など、紛争予防に向けたアドバイス。
  4. トラブル時対応
    既に非正規社員から不合理差を理由に差額賃金を請求されている場合、企業側代理として交渉・労働審判・裁判に対応し、リスクを最小化。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、判例・ガイドラインに基づく実践的な制度設計・紛争解決をご提案いたします。

まとめ

企業がこれら判例を他人事とせず、不合理差を放置しないよう早期に取り組むことが大切です。


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