はじめに:過失割合は「交渉結果」である

交通事故の損害賠償額を決定する上で、最大の争点となるのが「過失割合」です。これは、発生した事故に対する当事者双方の責任の度合いをパーセンテージで表したもので、会社の負担額に直接影響します。

この過失割合は、過去の裁判例を基に類型化された「基本過失割合」をスタート地点とし、個別の事故状況を考慮した「修正要素」を双方で主張し合うことで決定されます。これは固定されたスコアではなく、証拠に基づいた交渉の結果なのです。そして、トラックなどの大型車両が関わる事故では、乗用車同士の事故とは異なる、特有の考え方や修正要素が存在します。

本稿では、トラック事故で特に争点となりやすいケースを取り上げ、判例で認められている特有の過失割合の考え方や修正要素について、弁護士が解説します。

過失割合判断の基本 – 「判例タイムズ」の役割

実務上、過失割合は、東京地裁民事交通訴訟研究会が編集している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(通称「判例タイムズ」)に掲載されている基準が、示談交渉や裁判において極めて重要な参考資料として用いられます。実際の交渉は、この本に示された基本割合をスタート地点とし、個別の事故状況に応じた修正要素を主張し合う形で進められます。

トラック事故で特有の争点① – 左折時の巻き込み事故

トラック事故の中で最も多く、争点となりやすいのが、交差点などでの左折時に、左側を直進してきたバイクや自転車を巻き込んでしまう事故です。

  • 基本過失割合
    トラック 80%:バイク20% が基本です。
  • トラック側の重い注意義務
    なぜこれほどトラック側の過失が重いのか。それは、トラックには内輪差(後輪が前輪より内側を通る)や大きな死角といった特性があるためです。そのため、トラックの運転者には、左折する際にあらかじめ十分に道路の左端に寄り、後方の安全を目視で確認する義務(道路交通法第34条)が、普通車以上に求められます。
  • 過失割合の修正要素
    基本割合は絶対ではありません。以下のような事情があれば割合は修正されます。

    • トラック側の過失が加算される要素: 大回り左折(あらかじめ左に寄らず、中央線側から大きく膨らんで左折)、左折合図の遅れや無合図。
    • バイク側の過失が加算される要素: バイクの著しい速度超過や前方不注意、トラックが既に左折を開始しているのに無理に側方を通過しようとした場合など。

トラック事故で特有の争点② – 追突事故

追突事故は、原則として追突した側に100%の過失があるとされます(100:0)。しかし、一定の状況下では例外が認められます。

  • 被追突車に過失が認められるケース
    追突された側の車に「理由のない急ブレーキ」があった場合などです。

トラック事故全般に影響する「大型車補正」

事故の当事者の一方がトラックなどの大型車である場合、基本の過失割合が大型車側に不利な方向に修正されることがあります。これを「大型車補正」と言います。

  • 法的趣旨
    これは単に「大きいから不利」というわけではありません。大型車は衝突時の破壊力が大きく、死角も広いため、より高度な危険予測運転が求められるという高い注意義務を法的に反映したものです。この法的な背景を理解することが、安全運転教育の質を高める上で重要です。
  • 適用場面
    四輪車同士の事故で、一方が大型車の場合、大型車側に一定の過失が加算されることがあります。

過失割合の交渉における主な修正要素

事故類型 基本過失割合(トラック:相手方) トラック側の過失を加算する主な要素 トラック側の過失を減算する主な要素(判例参考)
左折時巻き込み(vs バイク) 80:20 大回り左折、合図の遅れ・不履行 バイクの著しい速度超過、無理な追抜き
追突 100:0 (原則なし) 相手方の理由なき急ブレーキ

まとめ

トラック事故における過失割合は、「トラックだから仕方ない」と安易に不利な割合を受け入れる必要はありません。事故の具体的な状況、相手方の運転態様、自社のドライバーが尽くした安全への配慮などを、ドライブレコーダーの映像といった客観的な証拠に基づいて一つ一つ丁寧に主張・立証していくことで、過失割合は変わり得ます。そして、その数パーセントの違いが、会社の損害額に大きな影響を与えます。保険会社から提示された過失割合に納得がいかない場合は、示談が成立する前に、ぜひ一度、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。


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