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答弁書の書き方・応用編|効果的な「否認」と「抗弁」で反撃する戦略

はじめに

防御から反撃へ―「抗弁」という名の武器

基本的な答弁書で争う姿勢を示した次に考えるべきは、どのようにして原告の請求を退けるか、その具体的な反撃のシナリオです。単に「違う」と否定する(否認)だけでなく、「そもそも、あなたには請求する権利がないはずだ」と積極的に別の事実を主張することで、防御はより強固なものになります。

そのための強力な武器が、被告の反撃の要となる「抗弁(こうべん)」です。「抗弁」とは、原告の主張する事実を仮に認めたとしても、その請求権を消滅させたり、その行使を妨げたりする別の事実が存在すると主張することです。これは、守りの姿勢から一転して、訴訟の主導権を握るための攻めの戦術と言えます。この記事では、基本的な答弁書の書き方から一歩進んで、受け身の防御から反撃へと転じるための、効果的な「抗弁」の主張方法について解説します。

Q&A

Q1. 「否認」と「抗弁」は、具体的にどう違うのですか?

簡単に言うと、「否認」は原告が主張する事実そのものを「そんな事実はない」と否定することです。一方、「抗弁」は、原告の主張する事実は一旦認めた上で、「しかし、別の事実があるから、あなたの請求は認められない」と反論することです。

このように、主張の骨格が全く異なるため、どちらの戦略をとるかは事件の根幹に関わる重要な判断となります。

Q2. 相手からの借金が、もう10年以上前のもので時効かもしれないのですが、答弁書で主張しないとどうなりますか?

あなたが主張しなければ、裁判所は時効を考慮してくれません。消滅時効は、当事者が「時効なので支払いません(時効を援用します)」と主張して初めて効果が生じます。たとえ時効期間が経過していることが明らかでも、被告がその事実を主張(時効の抗弁)しなければ、裁判所は時効の主張がないものとして審理を進め、敗訴判決を下すことになります。これは被告にとって致命的なミスとなり得ます。

Q3. こちらの言い分や反論がたくさんあるのですが、最初の答弁書にすべて詳しく書くべきですか?

必ずしもその必要はありません。最初の答弁書は、まず争う姿勢を示すことが第一です。詳細な反論、特に抗弁の主張は、「追って主張する」としておき、第1回期日が終わった後、弁護士と十分に戦略を練った上で、「準備書面」という書面で順次展開していくのが一般的です。焦って不正確な主張をすると、後で修正が難しくなるため、慎重に進めるべきです。

解説

被告の反撃を組み立てる主要な「抗弁」

抗弁事実は、被告が主張し、かつ、証拠によって証明(立証)しなければ、裁判所はその事実がないものとして扱ってしまうという特徴があります。ここでは、代表的な抗弁をいくつか紹介します。

弁済の抗弁

消滅時効の抗弁

消滅時効の制度は、2020年4月1日の民法改正で大きく変わりました。いつ発生した債権かによって、適用されるルールが異なるため、専門的な判断が必要です。

2020年3月31日以前に発生した債権(旧法)

原則として、商取引上の債権(消費者金融などからの借入)は5年、個人間の貸し借りなどは10年で時効となります。

2020年4月1日以降に発生した債権(新法)

原則として、以下のいずれか早い方が到来した時点で時効が完成します。

  1. 債権者が権利を行使できることを知った時から5年
  2. 権利を行使することができる時から10年

この改正により、個人間の貸し借りでも、貸主が返済期限の到来を知っていれば、原則5年で時効が成立する可能性があります。

債権の種類 改正前(2020年3月31日以前発生) 改正後(2020年4月1日以降発生)
事業者からの借入 5年 原則5年(知った時から)
個人間の借入 10年 原則5年(知った時から)
飲食店のツケなど 1年(短期消滅時効) 原則5年(知った時から)

相殺の抗弁

同時履行の抗弁

これは、売買契約のように、双方が互いに対価的な義務を負う契約(双務契約)において認められる権利です。相手が自分の義務を履行するまで、自分も義務の履行を拒むことができるという、公平の原則に基づいた主張です。この抗弁を主張するには、①同一の双務契約から生じた債務であること、②相手方の債務も弁済期にあること、③相手方が履行の提供をせずに請求してきたこと、といった要件を満たす必要があります。

これらの抗弁を的確に主張できるかどうかが、訴訟の勝敗を分けることも少なくありません。

まとめ

答弁書やその後の準備書面で主張する「抗弁」は、被告が単なる防御に留まらず、積極的に訴訟の主導権を握るための重要な戦術です。特に、主張しなければ裁判所に考慮してもらえない「消滅時効の抗弁」は、知っているか知らないかで結果が大きく変わってしまいます。自らの言い分の中に、法的に有効な反撃の材料が隠されていないか。それを発見し、効果的な武器として磨き上げるために、訴訟実務の専門家である弁護士にご相談ください。


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