はじめに
「匿名の投稿者を特定したいが、弁護士費用が高そうで…」
「なんとか自分で発信者情報開示請求を行うことはできないだろうか?」
弁護士への依頼を検討する際、費用がネックとなり、ご自身で手続きを進める「セルフ開示請求」の可能性を考える方は少なくありません。被害回復のためとはいえ、決して安くない費用がかかるのは事実です。
結論から申し上げますと、発信者情報開示請求をご自身で行うことは、理論上は可能ですが、現実的には困難であり、お勧めできません。
この記事では、なぜ弁護士なしでの開示請求が難しいのか、ご自身で進める場合のメリットと、それを遥かに上回る5つの大きなデメリット・リスクについて解説します。
Q&A
Q1. とにかく費用を抑えたいです。自分で開示請求をする最大のメリットは何ですか?
最大のメリットは、成功すれば弁護士費用(数十万円)を節約できるという点です。しかし、これはあくまで「成功すれば」という仮定の話です。失敗した場合、裁判所に納めた印紙代などの実費や、費やした膨大な時間と労力は全て無駄になってしまいます。そのリスクを考えると、メリットと呼べるかは慎重に判断すべきです。
Q2. なぜ弁護士なしで開示請求をするのが、それほど難しいのですか?一番のハードルは何でしょうか?
最大のハードルは、発信者情報開示請求の多くのケースで「裁判手続き」が必要になることです。サイト運営者などが、個人の請求に任意で情報開示することは、ごく例外的なケースを除いてありません。法律の知識がない個人の方が、裁判所で、プロバイダ側の専門家(法務担当者や弁護士)を相手に、法的な主張や立証活動を行うことは、事実上困難と言わざるを得ません。
Q3. 裁判ではなく、「任意開示」なら自分でも交渉できるのではないでしょうか?
交渉すること自体はできますが、プロバイダが任意開示に応じてくれる可能性は低い傾向にあります。プロバイダには、顧客の「個人情報」や「通信の秘密」を守る法律上の義務があります。裁判所の正式な命令がないのに、個人の請求に応じて安易に情報を開示してしまうと、今度はプロバイダが投稿者から訴えられるリスクを負うことになります。そのため、プロバイダは裁判所の命令がない限り、情報を開示しないのが原則的なスタンスです。
解説
1. 自分でやる場合の「唯一のメリット」
発信者情報開示請求をご自身で行うことのメリットを挙げるとすれば、それは以下の1点に尽きます。
- 弁護士費用がかからない
弁護士に依頼した場合にかかる数十万円の着手金や報酬金が発生しないため、金銭的な負担を抑えられる可能性があります。
しかし、これは「もし成功すれば」という、非常に高いハードルをクリアできた場合の話です。失敗に終わる可能性が高く、その場合はかけた時間も労力も、裁判所に納めた実費も、全てが無に帰してしまうというリスクを伴うことを忘れてはなりません。
2. それでも弁護士に依頼すべき「5つのデメリット(=自分でやるリスク)」
メリットがほぼ一つしかないのに対し、ご自身で手続きを進める場合のデメリットは数多く存在します。
デメリット①多くのケースで「裁判」が必要になる
前述の通り、プロバイダは裁判所の命令なしに個人情報を開示しません。つまり、開示請求は裁判手続きが求められます。
- 専門的な書面の作成
裁判所に提出する「申立書」や「訴状」は、法律の要件に沿って、権利侵害の事実を論理的に記載する必要があり、素人の方が作成するのは困難です。 - 法廷での主張・立証
平日昼間に開かれる裁判所の期日に出頭し、裁判官の前で、相手方の弁護士と法的な議論を交わし、証拠を提出して主張を裏付ける必要があります。これは法律の専門家でなければ遂行できません。
デメリット②手続きに時間がかかりすぎて「ログ」が消える
発信者情報開示請求は、時間との勝負です。
- ログの保存期間
投稿者を特定するための生命線であるIPアドレスなどのログは、プロバイダによって異なりますが、一般的に3ヶ月~6ヶ月という非常に短い期間で消去されてしまいます。 - 手続きの煩雑さ
個人の方が、法律や手続きを一から調べ、書類を作成し、裁判所とやり取りをしている間に、あっという間に数ヶ月が経過してしまいます。ログが消えてしまえば、たとえ弁護士に依頼し直しても、もはや手遅れです。
デメリット③法律の専門家と渡り合わなくてはならない
あなたが交渉や裁判で対峙する相手は、サイト運営者や大手プロバイダの法務部、あるいはその顧問弁護士といった、日々インターネットの法律問題を扱っているプロフェッショナルです。法律知識も交渉経験も豊富な彼らに対し、個人の方が対等に渡り合うのは、残念ながら現実的ではありません。
デメリット④精神的・時間的負担が大きすぎる
慣れない法律用語を調べ、膨大な書類を作成し、平日に仕事を休んで裁判所へ出向く…。この一連の作業は、被害に遭って精神的に疲弊している方にとって、計り知れないほどのストレスとなります。本業や日常生活に深刻な支障をきたす可能性も高く、途中で挫折してしまう方も少なくありません。
デメリット⑤ゴールはまだ先にある
仮に、万が一、奇跡的にご自身で投稿者を特定できたとします。しかし、それで終わりではありません。次に待っているのは、特定した加害者との損害賠償交渉や裁判です。これもまた、専門的な手続きであり、結局そこで再び壁にぶつかり、泣き寝入りせざるを得なくなる可能性があります。
弁護士に依頼するということの意味
これらのデメリットは、そのまま弁護士に依頼するメリットの裏返しです。
- 弁護士なら、複雑な裁判手続きを、あなたの代理人として遂行できます。
- 弁護士なら、ログ保存期間というタイムリミットを見据え、迅速に動けます。
- 弁護士なら、相手方のプロと、法的な土俵で対等に戦えます。
- 弁護士なら、面倒な手続きを全て任せ、あなたは精神的・時間的負担から解放されます。
- 弁護士なら、投稿者の特定から、その後の損害賠償請求までサポートできます。
まとめ
発信者情報開示請求をご自身で行うことは、節約できるかもしれない弁護士費用というメリットの裏側に、「裁判」「ログ消去」「プロとの知識・経験の差」というデメリットとリスクが潜んでいます。
貴重な時間と労力を費やした結果、ログが消えてしまい、本来であれば救済されたはずの道が閉ざされてしまう…。
誹謗中傷の被害に遭い、加害者の責任を本気で追及したいと考えるのであれば、回り道をせず、最初から弁護士に依頼することが、結果的に適切かつ迅速な解決への近道となります。
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