はじめに

住宅ローンなどの不動産担保融資を返済できなくなると、抵当権者は物件を競売にかけて売却し、優先弁済を受ける権利を持ちます。しかし競売は売却価格が低くなりやすく、債務者にとっても残債が多く残るなどのデメリットがあります。そこで、競売を回避する手段として注目されるのが「任意売却」という方法です。

本稿では、任意売却と競売の違いや、それぞれの長所・短所、手続きの流れを比較して解説し、抵当権実行の場面で債権者・債務者が考慮すべきポイントを紹介します。

Q&A

Q1.任意売却と競売の違いは何でしょうか?

大きな違いは次のとおりです。

手続き主体

  • 競売
    裁判所主導。申立てを受けた裁判所が物件を競売にかける。
  • 任意売却
    債権者と債務者が合意し、一般市場を通じて不動産を売却する。

売却価格

  • 競売
    相場より安値になりやすい。
  • 任意売却
    市場価格に近い金額で売れる可能性が高い。

債務者の合意

  • 競売
    不要。債権者が抵当権を実行すれば債務者は拒めない。
  • 任意売却
    債務者の合意が必須。
Q2.競売のメリットとデメリットは?

メリット

  • 法的手続きに従って進められるため、強制力がある。
  • 債務者の合意が不要で、支払不能でも競売を進行できる。
  • 手続きが裁判所で公式に行われるため、透明性が一定程度担保。

デメリット

  • 売却価格が低くなりやすい(落札価格が市場相場の7割以下など)。
  • 時間がかかり、また債務者のプライバシー侵害や精神的負担が大きい。
  • 残債が多く残るリスクが高い。
Q3.任意売却のメリットとデメリットは?

メリット

  • 高値で売却できる見込みがあり、残債を少なくできる。
  • 債権者と債務者が協力し、柔軟に売却時期や条件を調整可能。
  • 債務者が引越しや新居準備に余裕を持てる。

デメリット

  • 債権者の同意が不可欠で、調整が難航すると時間がかかる。
  • 完済できなかった残債があれば、別途返済交渉や債務整理が必要。
  • 必ずしも競売より高値で売れるとは限らない(ただし一般的には競売より有利)。
Q4.競売と任意売却、どちらを選ぶべきかはどう決めればいいのですか?

債務者・債権者双方の状況や目的によりますが、主に以下のポイントを考慮します。

  1. 債権者の回収見込み
    • 高値売却が可能な物件なら任意売却で弁済率を上げられる。
    • 早期回収が最優先なら競売申立てが合理的な場合もある。
  2. 債務者の協力度
    • 債務者が協力的で売却活動をスムーズに行えるなら任意売却が有力。
    • 債務者が話し合いを拒否・失踪などしている場合は競売しかないことも。
  3. 物件の売却可能性
    • 需要がある立地・状態なら任意売却が有利。
    • 不人気物件だと、任意売却に時間がかかり、結局競売になるケースも。
Q5.弁護士に相談するメリットは?

競売・任意売却いずれも、手続きや交渉が複雑で専門知識が必要です。弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。

  1. 債権者・債務者双方の代理交渉
    任意売却合意や買主探索、配当案作成などを円滑に進める。
  2. 競売申立書や異議申立の作成
    裁判所手続きの書類作成・提出を代行し、法律面でミスを防止。
  3. 残債整理・債務者保護
    任意売却後に残債が残った場合、弁護士が分割払い協議や自己破産を提案。

解説

競売手続きの流れ

  1. 債務不履行→期限の利益喪失
    債務者が返済不能となり、金融機関が期限の利益喪失を宣言。
  2. 競売申立
    債権者が地方裁判所に競売開始を申し立て、物件や債権の書類を提出。
  3. 評価・公告・入札
    裁判所が物件調査、売却基準価額を設定し、入札公告。数日から1週間程度の入札期間を設ける。
  4. 開札・落札
    最終日に開札し、最高価格を提示した入札者が落札。落札者が残代金を納付後、所有権を取得。
  5. 配当
    裁判所が配当表を作成し、先順位抵当権者から順番に配当。残金あれば後順位債権者や税金・管理費へ配分。

任意売却の流れ

  1. 債権者の合意
    主に金融機関と債務者が話し合い、競売を避ける形で「任意売却」に踏み切る。
  2. 仲介業者選定
    不動産会社や弁護士事務所の任意売却専門チームを活用し、市場価格に近い適正価格で売りに出す。
  3. 債務者の協力
    内覧対応・物件情報開示などに協力し、短期間で買い手を探す。
  4. 売買契約・抵当権抹消
    売却成立時に売買代金でローンを返済し、抵当権抹消を行う。
  5. 残債処理
    売却価格でローン完済できなければ、弁護士が分割払い・減免交渉を行う場合が多い。

実務での注意点

  1. タイムリミット
    競売開始決定後に任意売却に切り替えるには債権者の同意買主確保が急務。時期を逃すと競売が進行してしまう。
  2. 複数債権者調整
    住宅ローン以外にも税金滞納や管理費滞納がある場合、全債権者から抵当権や差押えがついていると任意売却には全員の同意が必要。
  3. 購入者視点
    • 競売物件は内覧が困難、任意売却は内覧可能な場合が多いので安心度が違う。
    • ただし、任意売却は債権者との協議が必要で、成立まで不確定要素がある。

弁護士に相談するメリット

  1. 手続きの安全
    競売申立、任意売却の合意、抵当権抹消など、一連の法的手続きや契約書の不備を弁護士が防止。
  2. 利害調整・交渉代理
    債務者、債権者、他の差押権者や不動産業者など多方面との調整を弁護士が主導し、効率的にまとめる。
  3. 残債処理・債務整理
    売却後に借金が残ったとき、弁護士が分割払いや減額交渉、場合によって自己破産や個人再生を提案。

まとめ

  • 競売
    裁判所主導。売却価格が低くなりやすいが債務者の合意不要。強制力が高い。
  • 任意売却
    債権者・債務者合意で市場売却。高値が期待でき、余剰資金や残債負担の軽減が図れるが、全債権者の同意が必要。
  • どちらを選ぶか
    債務者の協力度、物件の需要、時間余裕などで判断。
  • 競売の流れ
    申立→物件調査→入札→落札→配当
  • 任意売却の流れ
    合意→仲介業者で売却→売買契約→抵当権抹消→残債対応
  • 弁護士活用
    • 競売申立・任意売却交渉の代理
    • 債権者・債務者間のトラブル調整
    • 残債処理や自己破産など債務整理

競売か任意売却か、どの手段を選ぶかで最終的な売却額や残債、債務者の立ち退きスケジュールに大きな差が出ます。債権者・債務者いずれも、弁護士など専門家の助言を受けながら最適な手段を選び、時間とコストを抑えつつ、より良い解決を目指すことが大切です。


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