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退職金の不支給・減額と懲戒解雇

はじめに

退職金は、従業員にとっては将来の生活保障や功労報酬としての重要な意味を持ちますが、会社側が必ずしも法的に支払いを義務付けられているわけではありません(労働基準法に退職金支払い義務の規定はない)。しかし、就業規則や退職金規程などで会社が制度として定めている場合は、契約上の権利として大きな問題になります。とくに、懲戒解雇や重大な違反行為に対して退職金を不支給・減額することができるかどうかは、多くの企業でトラブルの火種となりがちです。

本記事では、退職金を不支給・減額する場合の法的要件や、懲戒解雇と退職金の関係、裁判所で争点となりやすいポイントなどを解説します。適切なルール作りと運用で、トラブルを未然に防ぎましょう。

Q&A

Q1. 退職金は法律で支払義務があるわけではないのですか?

はい。退職金の支払い義務は法律には明記されていません。しかし、就業規則や退職金規程、労働契約で企業が独自に制度として定めている場合、それが企業の義務として認められます。つまり、就業規則や規程の定めが決定的ということです。

Q2. 懲戒解雇の場合、退職金をゼロにすることはできますか?

就業規則や退職金規程で「懲戒解雇の場合は退職金を不支給」と明確に定めていて、懲戒解雇自体が有効であることが大前提なら、不支給が認められる可能性があります。ただし、裁判所は懲戒解雇の適法性や不支給の相当性などを厳しくチェックするため、軽微な違反で退職金ゼロとするのは「過度」と判断される恐れがあります。

Q3. 「賃金後払い説」とは何ですか?

退職金の法的性質に関して、「賃金後払い説」という考え方があります。つまり退職金は在職中の労働の対価(賃金)を後でまとめて支払うものだという考え方です。この見解に基づくと、懲戒解雇でも従業員が働いた分の対価を一切払わないのはおかしいという議論があり、一方的な不支給は無効になる可能性が高いという主張がなされることがあります。

Q4. 退職金を減額だけでなく一部だけ支払う(分割支給)という方法は認められますか?

就業規則や退職金規程で、一定の懲戒事由に該当すれば退職金の一部カットや減額ができると明記されていれば、裁判所はその規定を尊重することが多いです。とはいえ、「賃金後払い説」の考慮や、処分の軽重(過度に重くないか)も検討されますので、合理的な基準や比例性が必要です。

Q5. 退職金の不支給・減額トラブルを防ぐために何をすればいいですか?

就業規則・退職金規程を明確にし、「懲戒解雇の場合は不支給(または減額)」などルールを具体的に定め、労働者に周知することが大前提です。また、懲戒解雇の適法性を確保するため、十分な調査や弁明の機会を与え、処分が過度に重くないと判断されるよう対応が大切です。弁護士の助言を得ると安心です。

解説

退職金制度の法的性質

賃金後払い説 vs 功労報酬説

就業規則・退職金規程の決定力

基本的に退職金の支給額や不支給要件は就業規則や退職金規程の定めが中心。これに基づき、当事者間で合意が形成されているかが重要。

懲戒解雇と退職金不支給

  1. 懲戒解雇の要件
    会社が就業規則で定める懲戒事由に該当し、解雇を選択するのが相当と認められること。軽微な違反を理由に懲戒解雇とするなど過度に重い処分は無効リスク。
  2. 不支給条項の有効性
    就業規則等で「懲戒解雇の場合は退職金を支払わない」と定めていても、あまりに軽微な行為で不支給にするのは「不支給条項の濫用」として裁判所が無効と判断する可能性。
  3. 裁判所の判断基準
    • 違反行為の悪質度、損害の大きさ、会社の指導・警告歴、本人の情状などを総合的に考慮。
    • 不支給が一切認められないほど重大なのか、または一部減額にとどめるのが相当かが問われる。

退職金減額・一部支給の手法

実務での注意点

  1. 就業規則・退職金規程の整合性
    「懲戒解雇の時は退職金不支給」とだけ書かれていても、詳細な運用ルールがなければ裁判所が過剰と判断しやすい。
  2. 懲戒手続きの適正
    懲戒解雇する際の事前調査、弁明機会付与、懲戒委員会開催など手続きを踏まないと懲戒自体が無効になり、退職金不支給も無効となる。
  3. 退職金算定時期と金額
    退職日前に勤続年数が確定するのか、最終的な支給額はどの時点の給与などを基準に計算するかを規定しておく。
  4. 本人への十分な説明
    不支給や減額を行う場合、その理由や根拠を丁寧に伝える。説明不足だと不満が高まり、紛争リスク増。

弁護士に相談するメリット

退職金の不支給・減額は、従業員の将来生活やモチベーションに直結するため、紛争リスクが非常に高いです。弁護士に相談することで以下のような利点を得られます。

  1. 就業規則や退職金規程の整備
    不支給条項や減額基準を具体的かつ合理的に設定し、過度な濫用とならないよう助言。
  2. 懲戒解雇の有効性チェック
    違反行為の重大性や悪質性、過去の指導状況などを総合し、懲戒解雇や退職金不支給が正当と認められるかを法的に評価。
  3. 手続きアドバイス
    調査方法や弁明機会の付与など、懲戒手続きの適正を確保し、後日の裁判リスクを減らす。
  4. 紛争対応
    従業員が「不支給は不当」「そもそも解雇自体が無効」と争う場合に、証拠整理や交渉・裁判で企業の立場を守る戦略を構築。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、多様な懲戒解雇事例や退職金トラブルに取り組んだ実績があり、企業の状況に応じたカスタマイズしたサポートを提供します。

まとめ

企業は、懲戒解雇や重大な背信行為に対処するためにも、退職金制度をはじめとする労務ルールを明確化し、従業員に周知することが不可欠です。


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