はじめに
インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損の投稿者を特定するために、「発信者情報開示請求」などの法的手続きを行う際、しばしば問題となるのが「プライバシーへの配慮」とのバランスです。投稿者を特定するためにIPアドレスや個人情報を開示させる行為は、加害者側のプライバシー権などと衝突する可能性があります。
一方、被害者側も投稿者特定を行う手続きで第三者の個人情報まで取得してしまい、過剰な情報収集にあたるリスクがある、あるいは法的手続きを悪用して相手のプライバシーを侵害してしまう危険性もあります。本稿では、「プライバシーへの配慮」と「正当な目的のための情報開示手続き」をどのように調和させ、適切な境界を保つかを解説します。
Q&A
Q1:投稿者特定のためにIPアドレスを取得するのは、投稿者のプライバシーを侵害しないのでしょうか?
投稿者が誹謗中傷や名誉毀損などの違法行為を行っている場合、被害者側が正当な目的を持ってIPアドレスの開示を求めるのは法律で認められた手続き(プロバイダ責任制限法など)です。裁判所が審査し、開示の必要性が高いと判断されれば「正当な目的」として認められます。
Q2:加害者にもプライバシー権があるのでは? なぜ被害者が投稿者の個人情報を取得できるのですか?
被害者側の名誉や信用と、加害者のプライバシーの衝突ですが、違法行為による被害回復のために「必要最小限の情報」を開示することが法的に許容されています。裁判所が「権利侵害」と「開示の必要性」を慎重に審査し、正当化される範囲で許可します。
Q3:情報開示請求を行った結果、特定した投稿者の個人情報はどのように扱えばよいのでしょうか?
原則として、開示情報は誹謗中傷被害の回復(示談交渉や損害賠償請求など)という正当な目的の範囲内でのみ利用すべきです。無断で第三者に提供したり、被害者自身がネット上で公開する行為は、プライバシー侵害や個人情報保護法違反にあたる可能性があるため注意が必要です。
Q4:もし投稿者特定をしたいが、被害が軽微で裁判所が開示を認めない場合、どうすればいいですか?
判例では、権利侵害が明確かつ一定以上の深刻さがないと、裁判所が開示を命じない場合があります。その場合は削除要請や公式声明、逆SEOなど他の対策に切り替えて被害を最小化する方向を検討することが考えられます。
Q5:加害者が無職・未成年の場合、プライバシー配慮との兼ね合いはどうなるのでしょうか?
未成年者の情報開示については、さらに慎重な審査が行われる可能性があります。被害者側が強い利益を有し、加害者のプライバシー権との比較衡量の結果、やむを得ないと判断されれば開示が命じられる場合もあります。無職の場合でも、違法行為の責任を免れるものではありませんが、賠償回収は現実的に難しいかもしれません。
解説
プライバシーと法的手続きの基本的考え方
- 正当な目的の原則
- 被害者が投稿者を特定するのは、権利侵害(名誉毀損・侮辱など)の救済という正当目的があるから
- 逆に、単なる興味や悪意で個人情報を取得しようとする行為は認められない
- 必要最小限の開示
- プロバイダ責任制限法などでは、契約者氏名や住所など被害救済に必要な情報に限定して開示を求める
開示請求の境界とプライバシー保護
- 「開示不要」リスク(裁判所の判断)
- 投稿内容が軽微で権利侵害の深刻さが低いと判断されたり、被害者が十分な根拠を示せずに裁判所が「必要性なし」と結論づける場合
- この場合、加害者のプライバシー保護が優先される形で請求が否定される
- 「開示必要」リスク(加害者側の不服)
- 裁判所が開示命令を出した場合、加害者は「プライバシーを侵害された」と不服申し立てすることも
- ただし、権利侵害が明白なら加害者側の主張が認められる可能性は低い
- 未成年加害者・過度な情報収集の懸念
- 未成年者の場合、保護者との兼ね合いもあり、より強いプライバシー保護が主張されることがある
- 被害者側も、不必要にプライバシーを侵害する範囲まで開示を求めないよう注意が必要
代替手段や注意点
- 削除依頼や「必要最小限の情報」だけの取得
- 加害者が特定できなくても、SNS運営会社へ通報して投稿の削除を促す
- それでも誹謗中傷が止まらない場合、やむを得ず氏名や住所などより詳しい情報を開示させる
- 公的機関や第三者機関の利用
- 刑事事件として警察が捜査し、捜査機関が加害者情報を把握するパターン
- ただし、加害者のプライバシーをむやみに晒すのではなく、捜査機関が刑事責任を追及する形になる
- SNS運営会社ガイドラインの順守
- 大手SNSは内部ポリシーで利用者情報の保護を厳格に取り扱っている
- 被害者側としても運営会社に過剰な要求をせず、正当な範囲で協力を求める
弁護士に相談するメリット
手続き段階での不当なプライバシー侵害を回避
加害者側の情報を取得する際、専門家が「どの範囲の開示を求めるべきか」を正しく判断し、裁判所に必要最小限の範囲で説明するため、過剰な情報収集による違法リスクを下げられます。
裁判所への的確な主張で開示命令を得やすい
弁護士が加害者の投稿がどれほど権利侵害を起こしているか論理的に示し、プライバシー保護との比較衡量で「開示が妥当」と裁判所に認めてもらえるよう書面を作成。結果的に開示率を高められます。
開示情報取得後の扱い
開示された加害者の個人情報を正当な目的(示談交渉、賠償請求)以外に使ってしまうと、逆にプライバシー侵害や個人情報保護法違反になるリスクがあります。弁護士が法的に適切な範囲内で使用するようアドバイスします。
二次被害防止と社会的評価の維持
被害者が感情的に加害者情報を公表してしまうと、法的トラブルや批判を浴びかねません。弁護士の助言に従い、誹謗中傷を止めるのに必要な範囲で交渉し、被害回復とプライバシー配慮を両立することが可能です。
まとめ
プライバシーへの配慮と法的手続きの境界
- 投稿者特定の開示請求は「正当な目的」(権利侵害の救済)があれば合法的に可能
- 被害者が必要最小限を超える情報収集を行うと、逆にプライバシー侵害になるリスク
ポイント
情報が得られても、その使用は示談・賠償請求など正当な範囲に限る
弁護士に相談するメリット
- 開示請求の手続きで適切な範囲の情報開示を求める→ 過剰取得を避ける
- プライバシー保護とのバランスを踏まえ、裁判所が開示を認めやすい論点を主張
- 開示情報を正当目的以外に使用してしまうリスクを回避
- 企業や個人の社会的評価を保ちつつ、被害回復を図る
インターネットでの誹謗中傷に対抗するには、投稿者特定を目指すことが多いですが、その際には加害者のプライバシー権との調和が問題となります。専門家のサポートを受ければ、「正当な目的」と「必要最小限の情報取得」という境界を守りながら、名誉回復や再発防止を目指せるのです。
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