はじめに
インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損被害を受けた場合、SNS運営会社や掲示板管理者へ削除依頼を行っても応じてもらえなかったり、投稿者が匿名で特定ができないことが多々あります。そうした状況で「投稿者を何とかして特定したい」「法的責任を追及したい」と考える被害者は少なくありません。
その際に非常に重要となるのが、「裁判手続きによる発信者情報開示請求」です。これは、プロバイダ責任制限法などを根拠に、投稿者のIPアドレスや契約者情報の開示を裁判所が命じる手続きであり、被害者が加害者を特定し、損害賠償や謝罪を求めるための第一歩となります。
しかし、この裁判手続きにはどのような書類が必要で、具体的にどのように進めればよいのか、実務を知らないとなかなかイメージしにくいものがあります。本稿では、「裁判手続きによる開示請求の流れ」を解説するとともに、準備すべき必要書類や注意点、弁護士へ相談するメリットなどを紹介します。
Q&A
Q1:開示請求の裁判手続きは、どのタイミングで行うのですか?
SNS運営会社や掲示板管理者への削除依頼がうまくいかなかったり、加害者を特定したうえで損害賠償請求を検討する段階で行うことが多いです。まずは削除依頼を試み、それが難しい場合に裁判手続きへ移行する流れが代表的です。
Q2:どのような書類を裁判所に提出すればいいのでしょうか
通常は「訴状(または仮処分命令申立書)」とあわせて、問題の投稿のスクリーンショットやURL、タイムスタンプ、投稿日時がわかる資料など、証拠書類一式を提出します。合わせて、被害者の権利侵害(名誉毀損やプライバシー侵害)が生じていることを立証する文書が必要です。
Q3:開示請求の裁判手続きにはどれくらいの費用と時間がかかりますか
数カ月ほど要することもあり、費用は弁護士費用(着手金・成功報酬など)や印紙代などが発生します。相手が海外サーバーや海外在住の場合はさらに時間がかかることがあります。費用面は事務所や案件によって異なるので、弁護士に見積りを依頼しましょう。
Q4:裁判所が開示請求を認めない場合もあるのですか
あります。投稿内容が法的保護に値する権利を侵害しているとは言い難い場合や、被害者の主張が立証不十分な場合など、裁判所が要件を満たさないと判断すれば却下されます。そのため、提出書類や証拠の整合性が非常に重要です。
Q5:開示請求で投稿者が判明した後、示談交渉でどんな結果を得られますか
多くの場合、謝罪文の掲載や誹謗中傷の継続停止、損害賠償金の支払いを求める形になります。示談に応じないなら裁判で最終判断を求めることもでき、判決に基づき強制執行で賠償金を回収する可能性もあります。
解説
裁判手続きによる開示請求の流れ
- 準備・証拠収集
- 問題の投稿やアカウントに関する証拠(スクリーンショット・URL・投稿日時など)を確保
- 名誉毀損やプライバシー侵害などが成立し得ることを示す法的論点を整理
- 弁護士との相談・訴訟方針の決定
- 弁護士が違法性や侵害状況を判断
- 裁判手続きを起こす場合の費用・期間・成功可能性を見積もり
- 訴状または仮処分命令申立書の作成・提出
- 被告を「プロバイダ(SNS運営会社・掲示板管理者など)」に設定し、情報開示を求める形で提訴
- 必要書類として、「投稿画面のスクショ」「侵害状況の説明書面」「契約者情報開示の必要性を述べる理由書」などを添付
- プロバイダ側・運営会社とのやり取り
- 裁判所が受理後、運営会社に対し情報開示を促す
- 運営会社が異議を唱えなければ開示される可能性が高いが、抵抗される場合は口頭弁論・審尋を経る
- 判決または仮処分決定で情報開示
- 裁判所が開示命令を出すと、被告となる運営会社やプロバイダはIPアドレスや契約者情報を被害者側に提供
- これにより投稿者特定が可能に
必要書類とそのポイント
- 訴状(または申立書)
- 開示請求の趣旨(どの情報を開示してほしいか)と理由を明確に記載
- 「どの権利(名誉・プライバシーなど)がどのように侵害されたか」を法的に論じる
- 証拠書類(書証)
- 問題の投稿のスクリーンショット:投稿日時、アカウント名、URL、投稿内容が鮮明にわかるもの
- 被害者のプロフィール、被害が拡散した様子などを示す資料
- 内容証明(削除依頼を出した経緯がある場合)やSNS運営会社とのやりとりメールなども有用
- 陳述書・理由書
- 被害者(原告)の立場から、どれだけ深刻な被害を受けているか、加害者を特定しないと回復できない理由などを述べる
- 専門家の意見書が必要なケースも(医師の診断書など、精神的被害が大きい場合)
- 印紙・切手など裁判所への提出物
- 手続きに必要な印紙代(訴訟物の価格設定による)や郵便切手を用意
- 不備があると受理が遅れるため注意
開示請求後の展開
- 情報開示が認められた場合
- 運営会社やプロバイダがIPアドレス、契約者氏名、住所などを開示
- 被害者が投稿者を特定→ 示談交渉・訴訟で謝罪や賠償金を求めるステップへ
- 情報開示が認められなかった場合
- 裁判所が要件を満たさない(違法性が明確でないなど)と判断
- 証拠不足や主張不足が原因なら、追加立証を行い再度手続きする道も
- 投稿者が海外在住・海外サーバー使用
- 情報開示まではできても、加害者に国内法を執行できるかは別問題
- 国際的な司法協力や海外の弁護士を介した手続きが必要な場合がある
弁護士に相談するメリット
手続きの効率化と成功率向上
裁判手続きによる開示請求は専門的手法を要し、書面作成や裁判所とのやりとりが複雑です。弁護士が代理人として進めることで、不備やミスを回避し、スピードアップと成功率向上が期待できます。
追加の法的措置や交渉も対応
投稿者特定後に損害賠償や謝罪を求める段階、あるいは並行して投稿削除の仮処分を申請するなど、弁護士が全過程を一貫してサポートできるため、被害者の負担が軽減されます。
証拠収集や陳述書作成の助言
弁護士が「どんなスクリーンショットを撮るべきか」「どのような論点が決定的か」を的確にアドバイスし、必要書類の作成を手伝ってくれるため、開示請求の見通しを良くします。
まとめ
裁判手続きによる開示請求とは
- SNSや掲示板の運営会社・プロバイダを被告として、投稿者(加害者)の情報開示を裁判所に求める手続き
- 誹謗中傷被害の解決に向けた第一歩
開示請求で得られるメリット
- 加害者特定
→ 示談交渉・損害賠償請求・謝罪広告 - 再発防止
→ 責任追及により、デマや嫌がらせの抑止効果 - 精神的救済
→ 「誰が攻撃しているのか」不明な恐怖から解放
必要書類・注意点
- 訴状(または申立書)
- 証拠資料(スクショ、被害状況説明)
- 印紙・切手など裁判所提出物
- ログ保存期間切れに注意→ 早期の手続きが必須
弁護士に相談するメリット
- 専門知識で手続きを効率化・成功率向上
- 削除依頼、賠償請求、仮処分など並行対応
- 証拠収集・書類作成の助言
SNS誹謗中傷や名誉毀損被害を受けた場合、投稿の削除だけでなく、投稿者特定の手続きを進めることが最終的な解決には不可欠です。時間が経つとログが消え、特定が難しくなる可能性も高いので、お早めに弁護士へ相談し、裁判手続きによる開示請求を視野に入れてみてください。
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