はじめに

有期雇用契約(例えば1年契約、3カ月契約など)の終了時に、契約更新をせず打ち切ることを「雇止め」といいます。企業が「更新しない」と判断すれば終了できるように思われがちですが、実際には契約更新が繰り返されて長期就業しているケースなどで「更新期待権」が認められると、不当な雇止めとして違法となる可能性があるので注意が必要です。

本記事では、雇止めが問題となる典型例、無期転換ルール(5年ルール)との関連、事前の予告義務や解雇権濫用法理との関係などをまとめました。有期契約の更新拒否を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。

Q&A

Q1. 有期契約は契約期間満了で自然に終わるのではないのですか?

原則的にはそのとおりですが、何度も契約更新を繰り返し長期間勤務している場合など、労働者に更新期待権が認められる状況だと簡単には終了できません。雇止めが実質的には解雇に近い扱いとされ、正当な理由や手続きを要するケースが多々あります。

Q2. 更新期待権とは何ですか?

有期契約社員が「今後も契約が更新されるだろう」と期待できる状況を指し、裁判所は長期反復更新や会社側の言動(口約束など)によって更新が当然視される事例でこれを認めます。一度この期待権が認められると、契約満了時でも正当な理由なしに更新拒否すると違法(解雇権濫用類推適用)と判断されるリスクがあります。

Q3. 無期転換ルール(5年ルール)との関係は?

2013年の労働契約法改正で導入されたルールにより、有期契約が同一の企業で通算5年超となれば、労働者からの申し出で無期雇用契約への転換ができるようになりました。つまり通算契約期間が5年に近づくと、企業が雇止めを選択しやすいという状況が生まれがちですが、安易な雇止めは更新期待権の問題とも絡んで違法とされる可能性が高まります。

Q4. 雇止めのリスクを減らすにはどうすればよいですか?
  1. 契約書の明確化(契約期間、更新有無、更新基準などを文書で記載)
  2. 口約束や期待を与えない(「ずっといていいよ」など曖昧な言動を控える)
  3. 契約満了前の適切な手続き(予告義務があるなら早めに通知し、理由を説明)
  4. 解雇権濫用類推適用の回避(合理的な雇止め理由を用意し、労働者と十分な協議を行う)

解説

有期契約の更新と雇止めの法的枠組み

  1. 労働契約法第17条:雇止めの予告
    有期契約が1年以上継続している場合など、契約満了の30日前までに「更新しない旨」を通知する義務。
  2. 労働契約法第18条:無期転換ルール
    同一企業での有期契約が通算5年を超えたら労働者は無期雇用契約への転換を請求できる。
  3. 労働契約法第19条:雇止めの制限
    労働者が更新に期待を持つ場合や一定の長期契約更新の実績がある場合は解雇権濫用類推適用されるので、正当な理由なしに雇止めが無効となる恐れがある。

更新期待権が認められるパターン

  • 通算契約期間が長い
    2年以上・複数回の契約更新で継続雇用実績がある。
  • 会社側の言動
    面談や普段の言動で「契約は更新されるよ」と暗示・明言した。
  • 就業規則や社内慣行
    「自動的に更新される」「殆どの契約社員が更新されている」という慣習がある。

このような状況では、契約満了時に突然「更新しない」と通告しても「実質的な解雇だ」と見なされるリスクがあります。

雇止めが違法とされる典型例

  1. 業績悪化の原因が会社都合だが、従業員に責任転嫁
    経営不振という理由で有期社員の契約だけ打ち切るが、十分な説明もなく他の回避策も試みていない。
  2. 無期転換直前の雇止め
    5年ルール適用寸前で契約終了を図るが、明確な理由がない場合「転換逃れ」とみなされ無効になる可能性。
  3. 実際には更新を示唆してきたのに突然終了
    「次もお願いね」と言っていたが、急に「更新しない」。従業員に強い更新期待があったと判断される事例。

雇止めリスク管理と手続き

  1. 契約書・労働条件通知書の明確化
    更新の有無や更新基準を文書で示し、従業員に周知する。
  2. 契約更新時の評価・面談記録
    毎回更新のたびに面談し「次回更新するかは業績や勤務態度次第」と説明、書面で残す。
  3. 雇止めの通知と説明
    満了30日前までに「今回で契約終了」の意思を伝え、理由を丁寧に説明。労働者の納得を得る努力が重要。
  4. 異議手続きや社内紛争処理
    従業員が異議を申し立てた場合に備え、社内で話し合う場(労働組合・従業員代表・人事など)を設け、十分に協議。

弁護士に相談するメリット

雇止めは解雇ほど厳格な制限ではないと思われがちですが、実態は「更新期待権」が認められる事案でのリスクは非常に高く、適正手続きを踏まないと無効となる可能性が大きいです。弁護士に相談することで以下のサポートが期待できます。

  1. 雇止めの必要性・正当性の検証
    現状の契約更新履歴や社内慣行を踏まえ、更新期待権がどれほどあるかを分析し、雇止めのリスクを評価。
  2. 手続きアドバイス
    雇止め予告、通知のタイミング、説明内容など具体的な進め方を指導し、違法リスクを低減。
  3. 書類作成・証拠収集
    契約書や更新基準の整備、面談記録作成など、後日紛争になったときの備えをサポート。
  4. 紛争対応
    従業員が「雇止め無効」と主張し労働審判や裁判を起こした際、証拠整理や代理交渉を行い、企業の立場を守る。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、有期契約に関するトラブル・紛争対応のほか、無期転換制度への対応などサポートしています。

まとめ

  • 有期雇用契約でも、繰り返し更新されて長期化すると「更新期待権」が認められ、単に「契約満了だから終了」とは言えない場合がある。
  • 無期転換ルール(通算5年)前の雇止めは、転換逃れと認識され違法リスクが高まるので要注意。
  • 弁護士に相談し、契約書や更新基準の明確化、適切な手続きを踏むことで、雇止めリスクを大幅に低減できる。

企業として、有期契約社員の労働条件や更新履歴を整理し、必要に応じて継続的な雇用方針を明確化することが求められます。安易な雇止めは紛争に直結するため、慎重な判断と対応が不可欠です。


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