はじめに

借地契約で土地を借りて建物を所有している借地人が、その建物を第三者に売却したいケースは少なくありません。しかし、この場合、借地権自体をどう扱うかが大きな問題となります。建物が土地と一体で売られるわけではなく、土地所有者(地主)の承諾が必要になる場合や、建物を購入しても地主が承諾しないと借地権を継承できない恐れがあるなど、法的なリスクがつきまといます。

本稿では、借地上の建物売買におけるポイントや手続き、地主との承諾問題、注意点を整理し、当事者がスムーズに売買を進めるためのガイドとします。

Q&A

Q1.借地上の建物を売るとき、なぜ地主の承諾が必要なのですか?

借地契約は、借地人が土地を借りて建物を所有するための権利を地主から得ている状態です。その権利(借地権)を第三者に譲渡しなければ、建物所有者として土地を使い続けることはできません。借地借家法第19条により、借地権譲渡や転貸には地主の承諾が必要で、承諾が得られない場合は家庭裁判所の許可を求める非訟手続きを利用することになります。

Q2.借地上の建物を売買するとき、地主の承諾料とは何でしょうか?

一般に「承諾料」や「名義書換料」と呼ばれるもので、地主が借地権譲渡を承諾する際に受け取る金銭です。法的に必須という規定はありませんが、慣行として行われることがあります。

Q3.承諾を拒否された場合、どうすればいいですか?

借地人(建物売主)は、地主が正当理由なく承諾を拒否する場合、借地借家法第19条に基づき、裁判所の許可を申立てることが可能です。裁判所が「地主の拒否は不当」と判断すれば、地主の承諾に代わる「許可決定」が出て、借地権譲渡が有効になります。

Q4.建物売買と同時に借地契約も引き継がれるのですか?

はい。建物が第三者に売却されるときは、通常借地権も一緒に継承する形が前提です。建物を購入した新所有者は、引き続き土地を使用するために地主との借地契約を継続する必要があります。そのためにも地主の承諾または裁判所許可が欠かせません。

Q5.弁護士に相談するメリットは?

借地上の建物売買には、借地権譲渡や地代改定、承諾料交渉など複雑な法的問題が絡み合います。弁護士に相談すれば、

  1. 契約書のリーガルチェック
    建物売買契約に借地権の取扱いが適切に記載されているか、地主承諾条項をどう設定するかなどを検討。
  2. 承諾交渉
    地主と交渉が難航する場合、弁護士が法的根拠と事実を整理し、納得できる承諾料や条件を調整。
  3. 裁判所許可申立支援
    地主が承諾しない場合、非訟手続きで許可を得るための書面作成や手続きを代理。
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の実績
    借地借家トラブル多数対応し、地主・借地人の双方のニーズを踏まえたスムーズな売買成立をサポート。

解説

借地上建物の売買の流れ

  1. 買主との基本合意
    • 借地人が建物を売ろうとするとき、買主(第三者)と売買金額や引き渡し条件などを仮決め。
    • 同時に、借地権譲渡が前提なので地主承諾が必要であることを認識。
  2. 地主との交渉
    • 借地人が地主に譲渡承諾の要請を行う。地主は承諾料を要求することが多く、額を交渉。
    • 地主が合意すれば、その旨を承諾書などで書面化。
  3. 承諾不成立の場合
    • 地主が承諾を拒否または不当な金額を要求 → 借地人は非訟手続き(裁判所許可申立)を検討。
    • 裁判所が許可決定を下せば、地主の承諾に代わる効果が生じる。
  4. 建物売買契約の締結・移転登記
    • 借地人と買主が売買契約締結。引渡し日に建物の所有権移転登記を行い、買主が新借地人となる。
    • 同時に地主と改めて地代契約を結ぶ場合や、従来の借地契約を継承する形を明記するケースが多い。

承諾料(名義書換料)の検討

  1. 一般的な慣行
    地主と借地人の交渉次第で、立地や建物の状態、残存契約期間などを踏まえ決定。
  2. 公的な規定はなし
    • 法律に「承諾料はいくらにすべき」という定めはなく、慣習と合意に委ねられる。
    • 過度に高額を要求された場合、非訟手続きで裁判所が妥当性を審査して減額することもある。
  3. 交渉のポイント
    • 不動産鑑定士の意見書を活用して、借地権価値から算定根拠を示す。
    • 地主と円満に合意できるよう弁護士など専門家のサポートを受けると、時間とコストを節約しやすい。

注意点・トラブル事例

  1. 無断譲渡・転貸に伴う契約解除リスク
    • 借地人が勝手に建物売買を進め、地主に無断で譲渡 → 地主側は契約解除を主張する可能性がある。
    • トラブルを避けるため、必ず先に地主承諾を求めるか、裁判所許可申立を行う。
  2. 買主が借地権を理解していない
    • 買主が「土地込みで所有できる」と誤解 → 後日トラブル化。「土地は借り物で更新料がかかる」と知らず、不満を訴えるケースがある。
    • 売主は契約書や重要事項説明などで、借地権の制限を明確に伝える義務がある。
  3. 地代改定の潜在リスク
    • 借地権譲渡後、新地主が地代増額を申し出る可能性。買主(新借地人)は地代が将来上がるリスクを織り込む必要がある。

弁護士に相談するメリット

  1. 契約書の作成・チェック
    建物売買契約書に「地主承諾条件付き」であることを明記し、承諾不成立時の処理を定めておく。弁護士が草案・レビューを行い、不備や紛争の芽を取り除く。
  2. 承諾料交渉
    地主が法外な承諾料を要求する場合、不動産鑑定結果と法的根拠を用いて弁護士が交渉し、適切な水準に落ち着かせる。
  3. 非訟手続き対応
    承諾拒否された場合、弁護士が裁判所許可申立の書類を整え、貸主・借地人双方の言い分を整理して円滑に手続きを進める。
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の知見
    当事務所では借地上の建物売買に関する紛争を数多く手がけ、地主・借地人の目線を踏まえた最適解を提供してきた実績があります。

まとめ

  • 借地上建物の売買は、土地所有者(地主)の承諾または裁判所許可が必要。
  • 承諾料(名義書換料):法的規定はなく慣行ベース。
  • 無断譲渡・転貸のリスク:地主が契約解除を主張する可能性大。紛争を回避するには事前に承諾を得るか、非訟手続きで許可を得る。
  • 買主が借地権を十分理解:土地は所有できず地代支払いが継続する等、契約前に丁寧な説明が必要。
  • 弁護士活用:承諾交渉、非訟手続き、契約書作成で法的リスクを回避し、円滑な売買を実現。

借地上の建物売買は、不動産取引の中でも地主の承諾が絡むため、慎重な準備が求められます。契約書や承諾料交渉でトラブル化しないために、弁護士や不動産専門家と協力しながら進めることが安全策といえます。


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