はじめに
企業によっては、業務量が多い時期と少ない時期がはっきりしている、あるいは曜日ごとに来客数が大きく変動するなど、一定ではない稼働状況があります。そんなときに有効な手段のひとつが「変形労働時間制」の導入です。
通常、労働基準法は「1日8時間・週40時間」を上限としていますが、変形労働時間制を導入すると、繁忙期に労働時間を長めに設定し、閑散期に短くするなど、平均して週40時間に収まれば合法という制度設計が可能です。
しかし、導入には労使協定の締結や就業規則への定めなど、いくつかの要件を満たす必要があります。本記事では、1年単位・1カ月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制などの特徴や要件、実務での注意点をまとめました。
変形労働時間制導入を検討中の方にとってご参考となれば幸いです。
Q&A
Q1. 変形労働時間制とは、どのような制度ですか?
一定の期間内(例:1年、1カ月など)で平均して週40時間を超えなければ、繁忙期・閑散期などに応じて1日の労働時間を伸縮できる仕組みです。繁忙期に1日10時間労働を設定しても、その代わり閑散期に1日6時間などとし、トータルで週40時間に納めれば割増賃金は不要となります。
Q2. 1カ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制、何が違うのですか?
- 1カ月単位
主にシフト制で導入されることが多い。1カ月間の労働時間総枠をあらかじめ設定し、週平均40時間以内に収まるよう日々の労働時間を変動させる。 - 1年単位
繁忙期と閑散期が明確な業種(製造業や観光業など)で使われ、最長1年間のサイクルで週平均40時間以内に収まる設計。
Q3. フレックスタイム制も変形労働時間制の一種ですか?
法的には「変形労働時間制」の一種とされます。フレックスタイム制は、一定の清算期間(最長3カ月)内の総労働時間数を定め、その範囲内で従業員が自由に始業・終業時刻を決められる仕組みです。ただし、フレックスタイム制独自の要件(コアタイム、清算期間の最長3カ月など)があります。
Q4. 変形労働時間制を導入すると、割増賃金は一切不要になるのですか?
いいえ。変形労働時間制でも、あらかじめ定めた「所定労働時間」を超えて働いた分や、週40時間の平均を超えるような時間外労働は割増賃金が発生します。制度を正しく設計して運用しないと、未払い残業代のリスクが高まります。
Q5. 導入にあたって必要な手続きは何ですか?
労使協定の締結と就業規則への記載が必要です。1カ月単位や1年単位、フレックスタイム制など、制度ごとに定めるべき具体的事項(対象労働者、期間、勤務割表の作成方法など)がありますので、それぞれの要件を満たす形で協定書を作成し、労働基準監督署へ届出を行う必要があります。
解説
1カ月単位の変形労働時間制
特徴
1カ月以内の期間で週平均40時間を超えないように、日ごとに労働時間を変動させる。
要件
- 就業規則に定める。
- 労使協定または就業規則で、対象期間・各日の労働時間を予め具体的に定める。
- 対象期間が1カ月以内。
例
小売店や飲食店などで週末の稼働が多い場合、週末は1日9時間労働、平日は1日7時間などとシフトを組み、月のトータルを週平均40時間以内に調整する。
1年単位の変形労働時間制
特徴
最長1年のサイクルで繁閑に応じて1日の労働時間を変動させることができる。
要件
- 就業規則への定めと労使協定の締結が必要。
- 対象期間を1年以上(最長1年)とし、期間中の各日・各週の労働時間をあらかじめ定める。
- 年間労働日数が多いと、短い閑散期でも残業が発生する恐れがあるため注意。
例
季節による受注量変動が大きい製造業や観光業、イベント業など。夏や年末が繁忙期ならその時期の労働時間を10時間程度にし、閑散期は6~7時間などに調整して総計を週平均40時間以内にする。
フレックスタイム制
特徴
- 清算期間(最長3カ月)内の「総労働時間」を設定し、その範囲内で従業員が始業・終業を選べる制度。
- コアタイム(全員が勤務すべき時間帯)とフレキシブルタイム(自由に出退勤できる時間帯)を定める場合が多い。
要件
- 就業規則や労使協定で、清算期間・総労働時間・コアタイムなどを定める。
- 清算期間終了後に実際の労働時間を精算し、超過分を時間外労働として扱う。
例
プロジェクトベースの開発職やクリエイティブ職などで導入され、出勤時間や退勤時間を各自の裁量に委ねることで生産性アップを図る。
実務で注意すべきポイント
- 事前の労働時間割表
1カ月単位・1年単位の変形労働時間制では、日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要がある。直前の変更は無効化リスクがあるため、労使協議で柔軟な運用ができるようにルール設定が重要。 - 超過分の割増賃金対応
設定した時間を超えた場合や、結果的に週平均40時間を上回った場合は時間外労働として割増賃金を支払う必要がある。 - 管理監督者の適用有無
変形労働時間制でも、管理監督者が対象となるかどうかは別問題。名ばかり管理職問題に注意。 - 健康管理と36協定
変形労働時間制下でも、長時間労働が連続すれば健康リスクが高まる。36協定の遵守や健康診断・ストレスチェックの活用も必須。
弁護士に相談するメリット
変形労働時間制の導入やフレックスタイム制の運用は、要件を正しく満たさないと違法と判断されるリスクが高まります。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
- 制度選択のアドバイス
企業の業種や繁閑状況に応じて、1年単位・1カ月単位・フレックスなど最適な制度設計を提案。 - 労使協定・就業規則の整備
法律や判例に基づき、必要事項を漏れなく定めた協定書を作成し、監督署への届出をサポート。 - 運用上の注意点・トラブル防止
繁忙期の急なシフト変更や割増賃金の精算ミスなど、実務的なリスクを事前に洗い出し回避策を提示。 - 紛争対応
未払い残業代や制度無効を主張されるケースにおいて、証拠収集や交渉・裁判対応をサポート可能。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、変形労働時間制やフレックスタイム制の導入実績が豊富で、企業規模を問わず柔軟に対応いたします。
まとめ
- 変形労働時間制は、繁忙期と閑散期を組み合わせて週平均40時間を超えない限り、1日の労働時間を伸縮させられる仕組みです。
- 1カ月単位・1年単位の制度や、フレックスタイム制が代表的な形態で、それぞれ導入要件や手続き、管理方法が異なります。
- 就業規則への記載や労使協定の締結、監督署への届出が必要となるため、法令に従わない設計をすると違法リスクが高まります。
- 弁護士に相談することで、自社に合った制度を合法的に導入・運用し、未払い残業代や労使紛争を未然に防ぐことができます。
企業の働き方改革の一環として、変形労働時間制の導入を検討する際は、ぜひ法的視点を踏まえて制度設計を行い、従業員の理解を得ながらスムーズに導入していきましょう。
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