はじめに
中小企業においては、金融機関から融資を受ける際、代表取締役が個人で連帯保証をするのが一般的です。会社が破綻して法人破産を申し立てても、代表者個人の連帯保証債務は自動的に免除されるわけではありません。その結果、会社は清算できても、代表者個人が多額の借金を背負い続けるケースが少なくありません。
本記事では、代表者保証と個人破産との関係について、よくある疑問や具体的な対処法を解説します。法人破産だけでなく、代表者自身の債務整理も視野に入れることで、経営者が再スタートを切りやすくする仕組みがある一方、個人破産には自宅や車など資産を失うリスクも伴います。正しい知識を身に付け、最適な選択を行いましょう。
Q&A
Q1. 会社が破産しても、代表者保証の借金は残ってしまうのですか?
はい。法人破産を行っても、代表者個人が連帯保証している負債は免除されません。金融機関や取引先が連帯保証契約をもとに、代表者個人へ返済請求を行う可能性があります。
Q2. 代表者保証の金額が大きい場合、個人破産しか方法はありませんか?
状況次第では、任意整理(金融機関との交渉)や個人再生(小規模個人再生など)といった手段も選択肢になります。債務額や収入見込み、資産の有無によって最適解が変わるため、まずは弁護士へ相談して複数のシミュレーションを行うことをおすすめします。
Q3. 代表者保証付きの借金を個人で返済し続けることは可能でしょうか?
経営者個人の収入や財産が十分であれば、会社は破産しても個人で返済を続ける方法は理論上可能です。しかし、負担が大きすぎる場合には生活破綻を招きかねず、個人破産など法的整理を検討するのが現実的でしょう。
Q4. 個人破産すると、家や車はどうなりますか?
個人破産の場合、原則として20万円以上の資産(不動産、車、預金など)は換価され、債権者に配当されます。ただし、車や自宅にローンが残っている場合などは、ローン契約内容によって扱いが変わることもあるため、弁護士と詳細を確認してください。
Q5. 個人破産すると、今後の事業再開は不可能になりますか?
個人破産をしても、将来的に起業や事業再開が完全に不可能になるわけではありません。信用情報や融資面でのハードルは上がりますが、破産後に再挑戦して成功している経営者も多く存在します。早期の再スタートを目指す場合、弁護士のアドバイスが有用です。
解説
代表者保証の仕組みと破産手続の関係
- 代表者保証とは
銀行やノンバンクが中小企業に融資する際、企業だけでなく代表者個人が連帯保証人となることを求める慣行があります。これにより、会社が返済不能になった場合でも、個人の資産から回収できる体制を確保するわけです。 - 法人破産時の処理
法人破産を申し立てると、会社の負債は清算されますが、代表者個人の保証債務はそのまま残ります。金融機関は会社からの回収を諦めたとしても、連帯保証人に請求する権利を持ち続けるのです。 - 個人破産(または個人再生)の必要性
代表者が多額の連帯保証債務を負っている場合、個人破産(または給与所得者等再生など)の手続きを行わなければ負債を完全に整理できません。法人破産だけで済ませると、代表者個人には高額な借金が残る可能性が高いといえます。
個人破産・個人再生の選択肢
- 個人破産
- メリット:全ての債務(税金など一部例外を除く)が免責され、借金から解放される。
- デメリット:資産を失う可能性(自宅や車など)、破産手続期間中の資格制限(士業など)や信用情報への影響が大きい。
- 個人再生(民事再生手続の一種)
- メリット:住宅ローン特則を利用すれば自宅を残しつつ大幅な債務圧縮が可能。資格制限がない。
- デメリット:一定の安定収入が必要であり、再生計画の遂行が求められる。債務額や収入状況によっては不可能なケースもある。
- 任意整理
- メリット:裁判所を介さず、金融機関と直接交渉して返済条件を緩和できる。
- デメリット:大幅な減額は期待しにくい。あくまで将来利息カットや返済期間の延長などがメイン。多額の連帯保証債務には対応が難しいケースが多い。
同時破産申立の実務
- 法人破産と個人破産を同時に申立てるケース
中小企業では、代表者が会社の借入れに連帯保証しているケースが多いため、法人破産と個人破産を同時進行させるのが一般的です。これにより、代表者は会社の負債と個人の連帯保証債務の両方から解放され、再スタートを図りやすくなります。 - 手続の連動と費用
法人破産と個人破産を並行で進める場合、書類作成量や弁護士費用が増大する傾向がありますが、個別に行うより同時申立ての方がトータルコストが抑えられる場合もあります。また、時期的なズレがあると偏頗弁済や免責不許可リスクが高まるケースもあるため、弁護士と早期に方針を固めることが重要です。 - 個人資産の扱い
自宅や車など代表者個人の資産については、個人破産の中で処分の有無を判断します。住宅ローンがある場合は民事再生の利用も検討し、どの手続が最適かを弁護士と協議しましょう。
実務ポイント:代表者保証をめぐる交渉
- 銀行との私的整理・相続承継型取引など
近年では、事業承継ガイドラインの普及により、銀行側も一律の連帯保証を強要しないケースが増えてきています。将来的な経営再建やM&Aを見据えるなら、銀行との協議で代表者保証を外す・縮減する交渉も検討に値します。 - 信用保証協会保証付融資の場合
信用保証協会の保証がついている融資では、協会が代位弁済を行い、代表者が保証協会に返済する立場となることがあります。協会との交渉姿勢も重要で、弁護士が間に入ると話し合いがスムーズになりやすいです。 - 連帯保証リスクの再認識
若い起業家や後継者が初めて融資を受ける際、軽い気持ちで連帯保証書にサインすることがありますが、倒産時の個人負担は想像以上に重いものです。事前に弁護士や公的機関の助言を得てリスクを十分に理解しておくべきでしょう。
弁護士に相談するメリット
- 法人破産と個人破産の一体的進行
弁護士が法人破産・個人破産を同時にサポートすることで、書類作成や裁判所対応、債権者調整などを効率化でき、矛盾や抜け漏れを回避できます。 - 任意整理・個人再生との比較検討
いきなり個人破産を選ぶのではなく、状況に応じて任意整理や個人再生など他の選択肢を弁護士が提案してくれます。自宅を残したい場合や、収入が安定している場合などは民事再生が適するかもしれません。 - 金融機関対応・交渉
弁護士を通じて銀行や信用保証協会と交渉することで、返済スケジュールの緩和や和解案をまとめる道が開けることもあります。独力で交渉するよりも法的根拠を示しやすく、有利に進めやすいです。 - トラブル・リスクの事前回避
代表者保証問題は家族や親族にも波及しやすく、感情的な対立が生じることがあります。弁護士が法的に正しい手続きを踏むよう助言し、トラブルを未然に防ぐことで、倒産後の再起を早めることができます。
まとめ
代表者保証と個人破産との関係は、中小企業の倒産において避けて通れない問題です。法人破産だけでは債務を整理できないため、代表者個人の保証債務が大きい場合は個人破産や民事再生、任意整理などの同時検討が必須となります。主なポイントは以下のとおりです。
- 連帯保証は、会社破産後も個人負債として残る
- 大きな保証債務がある場合、個人破産や個人再生を合わせて検討
- 個人破産では資産や信用情報への影響が大きいが、借金から解放され再起しやすい
- 任意整理や住宅資金特則付き民事再生など、多様な手段を比較検討する
- 早期に弁護士へ相談し、法人・個人双方を一体的に解決できるよう準備する
倒産後に代表者だけが莫大な負債を抱え、身動きが取れなくなるケースは少なくありません。しかし、適切な法的手段を活用すれば、会社と個人の両面から負債を整理し、新たな事業や再就職への道を切り拓くことも可能です。迷っている段階でこそ、弁護士に早期に相談し、最良の判断を下してください。
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