はじめに

名誉毀損(めいよきそん)とは、他人の社会的評価を下げるような事実を公然と摘示する行為を指します。一方、プライバシー侵害は、個人の私生活上の情報を不当な形で暴露してしまう行為を指します。この二つは一見異なる概念ですが、インターネット上のトラブルではしばしば併発することがあります。たとえば、特定の個人情報を暴露しつつ、その人を誹謗中傷する書き込みを行うケースなどです。

本稿では、名誉毀損とプライバシー侵害がどのように関係し合うのか、双方の法的保護対象や境界線、そして実際にトラブルが起きた際の対処法について詳しく解説します。個人でも企業でも、プライバシー情報や個人データの流出を伴う中傷が起こり得る時代です。正しい知識をもって、いざというときに適切に対応できるよう備えておきましょう。

Q&A

Q1:名誉毀損とプライバシー侵害は何が違うのでしょうか?

名誉毀損は「他人の社会的評価を低下させる」行為、プライバシー侵害は「個人の私生活上の情報(私的情報)をみだりに公開する」行為という点で異なります。誹謗中傷の内容に個人の私生活や秘密が含まれている場合、名誉毀損とプライバシー侵害が同時に成立することがあります。

Q2:真実のプライバシー情報を暴露した場合、名誉毀損になることはありますか?

あり得ます。真実であっても、プライバシー情報を不必要に暴露して社会的評価を下げれば名誉毀損に該当する可能性があります。また、プライバシーを侵害した責任も追及される場合があります。

Q3:芸能人などの有名人であれば、プライバシーが保護されにくいのですか?

有名人・公人は一般の方よりもプライバシーの範囲が狭いとされる傾向がありますが、依然として一定のプライバシー保護は受けられます。例えば、芸能人が結婚や妊娠を公表していない場合、それを勝手に暴露すればプライバシー侵害になる可能性があります。

Q4:プライバシー侵害と名誉毀損の両方に該当すると、損害賠償額はどうなりますか?

名誉毀損とプライバシー侵害が同時に認められる場合、裁判所が一括して損害額を算定するケースが多いです。被害者が受けた精神的苦痛の大きさや、社会的評価の低下度合いによって、慰謝料が上乗せされる可能性があります。

Q5:個人のSNSに他人の写真を無断でアップする行為は、プライバシー侵害になりますか?

写真の内容によります。顔がはっきり判別できたり、自宅や子どもの姿など私的な情報が写り込んでいたりする場合は、プライバシー侵害や肖像権侵害に該当する可能性があります。内容次第では名誉毀損にも関わってくるため注意が必要です。

解説

名誉毀損とは

  • 法的定義
    刑法230条および民法上の不法行為(709条など)で規定されており、公然と事実を摘示して相手の社会的評価を下げる行為を指します。たとえ真実の情報でも、公益性が認められないまま公開すれば名誉毀損になる可能性があります。
  • 名誉毀損のポイント
    1. 公然性
      不特定または多数の人が認識できる状態
    2. 事実の摘示
      真偽が判断できる具体的な事実(ただの悪口ではなく、客観的に判定可能な情報)
    3. 社会的評価の低下
      被害者が第三者から信頼や評判を失う状況

プライバシー侵害とは

  • 法的保護の根拠
    プライバシー権は憲法13条による個人の尊重が根拠とされ、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められる場合があります。また、個人情報保護法や肖像権など、関連する法律も重要な役割を果たします。
  • プライバシー侵害の典型例
    1. 私生活や家族の状況、病歴や収入などの私的情報を無断で公表する
    2. 勝手に撮影・録音した動画や写真をネットで公開する
    3. 位置情報や連絡先など個人を特定できる情報を晒す(ドキシング行為)
  • 公的人物の場合
    政治家や芸能人などの社会的な関心が高い人物は、ある程度の情報公開が許容される傾向がある。しかし、その範囲を超える無関係なプライバシー情報の暴露は違法とされる場合がある。

名誉毀損とプライバシー侵害の両立

  • 重複成立するケース
    相手を貶めるために、プライバシー情報を暴露する行為が典型的です(例:「実は○○さんの家族にこういう問題があって…」と私的情報をさらけ出しつつ、相手を批判する)。
  • 判断のポイント
    1. 情報の私的性
      公開する必要性や公益性が認められないプライバシー情報かどうか
    2. 社会的評価への影響
      その情報公開によって、被害者がどれだけ評判や信用を失うか

事例:名誉毀損 + プライバシー侵害

  • 事例1:企業役員の私生活を暴露しつつ誹謗中傷
    「××社の役員Aは不倫をしている。会社の金を使って遊んでいるに違いない」という書き込みがなされ、真偽不明ながら私生活を公表して評判を落とす。

    •  私生活情報(不倫疑惑)を無断公開(プライバシー侵害)
    •  会社への信用低下を狙い、社会的評価を下げる可能性(名誉毀損)
  • 事例2:タレントの病歴を流布しイメージダウンを図る
    「この女優は昔、重い病気で入院していた」という真実の情報でも、公表していない私生活上の情報であればプライバシー侵害になる。併せて「病気を隠して仕事をしている。無責任だ」などと社会的評価を下げる発言をすれば名誉毀損が成立する場合も。

民事・刑事上の責任

  • 民事責任
    不法行為によって被害者に損害を与えたと認められれば、慰謝料や賠償金を支払う義務が生じます。名誉毀損とプライバシー侵害が重なれば、被害者の精神的苦痛や社会的信用失墜が大きく、賠償額が増加する可能性があります。
  • 刑事責任
    プライバシー侵害に特化した刑法の規定はありませんが、名誉毀損罪(刑法230条)が成立したり、侮辱罪やストーカー規制法違反など他の罪に問われるケースがあります。また、不正アクセス禁止法違反など関連犯罪が加わることも。

弁護士に相談するメリット

複数の権利侵害を総合的に判断

名誉毀損だけでなく、プライバシー侵害、肖像権侵害など、多角的に検討しなければならない場合があります。弁護士は関連する法律を総合的に踏まえ、どのように請求すれば被害回復に最も適切かを提案できます。

証拠保全と削除依頼の迅速化

プライバシーや名誉が侵害された投稿は早期に削除することで被害の拡散を防げます。弁護士が代理人として運営会社へ正式な削除依頼を行えば、対応がスムーズになるケースが少なくありません。並行してスクリーンショットやログなど、証拠を保全します。

発信者特定・示談交渉

投稿者が匿名の場合は、発信者情報開示請求が必要です。プライバシー情報を不当に暴露していたら悪質性が高いと判断されることも多く、示談交渉において謝罪広告や賠償金を得やすくなります。弁護士が代理で交渉することで、被害者本人の負担を軽減します。

刑事手続きの可能性も視野に

悪質なケースでは名誉毀損罪や侮辱罪など刑事告訴を検討する場合があります。弁護士が告訴状を作成し、警察や検察との連携をサポートすることで、捜査が円滑に進む可能性が高まります。

まとめ

  • 名誉毀損
    相手の社会的評価を低下させる行為
  • プライバシー侵害
    私生活上の秘密をみだりに公開する行為

これら二つはしばしば同時に生じ、被害者に対して大きな精神的・経済的ダメージを与えます。特にインターネット上では、匿名であることをいいことに個人情報を無断で晒し、かつ誹謗中傷する例が後を絶ちません。

もし名誉毀損とプライバシー侵害が疑われる書き込みを発見したら、証拠保全→削除依頼→発信者特定→損害賠償請求といった手順で、早期に対応を進めることが重要です。ご不安を感じたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。


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