はじめに

企業が破産手続を検討し始めるとき、真っ先に頭をよぎるのが「取引先との関係をどうするか」という問題です。特に仕入先(サプライヤー)からは商品や原材料を継続的に納入してもらっている場合が多く、未払い債務がある中で追加発注をかけるのは難しくなります。また、得意先(顧客)への納品や請求のタイミングが破産に重なると、代金回収や返品処理などの対応に追われる可能性もあります。

本記事では、破産手続における取引先(仕入先・得意先)とのやり取りについて、よくある疑問点や具体的な注意点を解説します。倒産を視野に入れると「取引先に迷惑をかけたくない」という気持ちと同時に、「今後の資金繰りや法律リスク」を考えた慎重な行動が求められます。事態を混乱させず、円滑に手続を進めるためのポイントを押さえておきましょう。

Q&A

Q1. 仕入先に対して、いつ破産予定を伝えるべきでしょうか?

ケースバイケースですが、基本的には倒産の可能性が高まった時点で誠実に報告する方が、後々のトラブルを防ぎやすいです。ただし、破産申立の準備を進める過程で情報が漏れると、不必要に取引先が騒ぎ、製品の納入停止や取り立てが激化するリスクもあるため、弁護士と相談のうえ、ベストなタイミングを模索しましょう。

Q2. 得意先からの受注がある場合、破産直前でも納品すべきですか?

破産を申し立てる時点では事業継続が原則的に難しくなるため、新規納品や受注活動は実質的に不可能となります。納品すれば売掛金を回収できるかもしれませんが、倒産直前の取引は偏頗弁済や詐害行為とみなされる可能性もありますので、慎重に対応すべきです。

Q3. 仕入先への未払いがある状態で追加発注をするのは問題になりませんか?

破産を見据えている状態で、既存の未払いがあるにもかかわらず追加発注し、支払いができないまま破産する行為は、不誠実な取引とみなされるリスクがあります。最悪の場合、詐欺や詐欺的取引として追及される可能性も否定できませんので、原則として控えることが賢明でしょう。

Q4. 回収できていない売掛金はどう扱われるのでしょうか?

破産手続に入ると、売掛金も含めて破産財団の一部となります。破産管財人が得意先に請求し、回収した金額は債権者への配当に回されます。倒産直前に経営者が独断で回収したり、特定の売掛先からのみ優先的に回収すると、偏頗弁済の疑いが生じることがあるので注意が必要です。

Q5. 取引先から預かった商品や部材はどうすればいいですか?

取引先が所有権を留保している商品や部材、あるいは委託販売として預かっている在庫などは、単純に「会社の財産」とはみなされない場合があります。管財人が所有権を確認したうえで、取引先に返還するケースもあるため、契約書や取引条件をしっかり把握しておきましょう。

解説

仕入先とのやり取りで注意すべきポイント

  1. 追加発注の是非
    倒産が迫っているにもかかわらず、支払い不能に陥るリスクを承知で追加発注を行うと、詐欺的取引とみなされる恐れがあります。弁護士を通じて仕入先と条件交渉を行うなど慎重な対応が必要です。
  2. 未払い分への対応
    仕入先に対する未払いがある場合、「部分的に返済して取引を続けてもらいたい」という気持ちがあっても、倒産直前に特定債権者だけを優先して支払う行為は偏頗弁済となり、後日否認される可能性があります。
  3. 契約解除リスク
    仕入先は、相手先の信用がなくなったと判断すると契約を解除する権限を持つ場合があります。とくに長期・継続契約では、「相手が破産手続を開始した場合に解除できる」という条項が含まれていることが多いため、事前に契約書を確認しておきましょう。

得意先とのやり取りで注意すべきポイント

  1. 新規受注の可否
    破産手続に入る直前に新規案件を受注しても、事業停止に伴い納品ができない可能性があります。得意先とのトラブルや損害賠償リスクを招くため、倒産の意思が固まっているなら新規案件は控えるべきです。
  2. 既存受注の履行と売掛金回収
    すでに契約済みの受注について、在庫があれば納品し、売掛金を回収できるかもしれませんが、破産手続直前の売掛金回収は偏頗弁済に該当する可能性もあるため、弁護士と協議しながら進める必要があります。管財人が選任された後は、管財人が売掛金回収を行うことになります。
  3. 返品・キャンセル対応
    倒産により製品やサービスを提供できなくなる場合、得意先がキャンセルを申し出ることがあります。キャンセルによる損害賠償や返金対応が絡むと、破産法上の整理が必要になるため、勝手に返金するなどの独断対応は控え、管財人や弁護士の指示を仰ぎましょう。

トラブルを最小限に抑えるための実務ポイント

  1. 事前の情報管理と共有
    大口の仕入先・得意先が存在する場合、早めに「経営状態が厳しい」旨を打ち明け、円満な形で契約終了や債権・債務の清算を行えるよう交渉することも一つの選択肢となります。事後的に発覚すると信頼を失うリスクがあります。
  2. 契約書・取引条件の再確認
    所有権留保、委託販売、売買代金支払い条件など、取引ごとに違う契約形態を採用しているケースがあります。破産手続中に「この在庫は仕入先の所有物ではないか」などの紛争が起こりがちなので、破産申立前に整理しておくとスムーズです。
  3. 早期の法的整理検討
    資金繰りが完全に行き詰まる前に、弁護士へ相談して「破産」「民事再生」「特別清算」「任意整理」など複数の手段を比較検討することが、取引先への被害を最低限に抑える手段となります。徒に支払いを先延ばしにすると、取引先全体を混乱に陥れる可能性があります。

弁護士に相談するメリット

  1. 取引先との交渉支援
    弁護士が代理人として仕入先・得意先へ連絡を取り、法的に正しい範囲での交渉を行うことで、トラブルや偏頗弁済リスクを抑えられます。説明が不十分なまま交渉すると、感情的対立に発展しやすいですが、弁護士が間に入ることで落ち着いた話し合いが期待できます。
  2. 偏頗弁済や不正行為の回避
    倒産直前の支払い行為や売掛金回収には、常に偏頗弁済や詐害行為の疑いがつきまとうもの。弁護士は破産法の知見をもとに「これは安全」「これは危険」と具体的にアドバイスしてくれます。
  3. 早期の手続選択とスケジュール管理
    倒産に向けた具体的なスケジュールを弁護士が組み立て、書類準備や債権者リスト作成、取引先への告知タイミングなどを一括管理してくれます。経営者が混乱しにくくなることはメリットの一つといえます。
  4. 所有権留保や債権引当の整理
    弁護士は各取引先との契約書をチェックし、どの財産が会社所有で、どの財産が取引先の所有物なのかを明確化します。これにより、管財人との協議もスムーズに進み、不毛な紛争を避けられます。

まとめ

破産手続における取引先(仕入先・得意先)とのやり取りは、倒産の過程でデリケートな領域の一つです。

  • 仕入先との追加発注や未払い対応
    倒産直前に注文を重ねるのはトラブルのもと。偏頗弁済にも注意が必要。
  • 得意先への納品・売掛金回収
    一見メリットがありそうでも、偏頗弁済や不正行為のリスクを伴う可能性がある。
  • 契約条項(所有権留保、委託販売等)の確認
    破産開始後に管財人が対処するが、事前の準備が必要。
  • 弁護士のサポート
    トラブル最小化と合法的手続に有用。

遅かれ早かれ倒産が避けられない状態で、何とか取引先にだけは迷惑をかけたくないと焦る経営者も少なくありません。しかし、その善意が不正行為や偏頗弁済として追及され、結果的にリスクや紛争を拡大する事態に陥ることもあるのです。問題を先送りせず、お早めに弁護士へ相談して、正しい手順で破産手続を進めることが大切です。


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