はじめに

隣地に建てられた建物の屋根や外壁、あるいは塀や庭木が、自分の敷地に越境しているというトラブルは非常に多くの方が抱えています。越境建築や越境侵入は、ほんの数センチのはみ出しでも紛争に発展し、場合によっては建物の撤去や高額な賠償にまで発展することがあります。

本稿では、越境建築や越境侵入に関する基本的な考え方や法律上のルール、そして具体的な対処策を解説します。

Q&A

Q1.「越境建築」とは何を指すのですか?

建物や工作物の一部が、本来の敷地境界を超えて隣の土地空間を侵害している状態を指します。例えば、屋根の庇が隣地上空を覆っていたり、壁や柱の一部が境界線を越えたりしている場合などが典型です。

Q2.越境がわかった場合、勝手に撤去していいのでしょうか?

原則として自力救済は禁じられています。勝手に相手方の建物を壊したり塀を撤去すると、逆に不法行為として損害賠償を請求される可能性があります。まずは協議で解決を図り、難しい場合は弁護士や裁判所の手続き(調停・訴訟)で対応します。

Q3.法的にはどんな主張ができるのですか?

民法上、所有権に基づいて越境物の撤去や損害賠償を求めることが可能です。ただし、長期間の経過などで相手方が取得時効や工作物維持権を主張する場合もあり、一筋縄ではいかないことがあります。

また、建物が既に完成している場合は撤去が困難となり、一時金や賃料相当額で解決する方法もあります。

Q4.屋根の軒先や排水設備が数センチ越境しているだけでも問題になるのでしょうか?

数センチの越境でも、隣地所有者の承諾なく敷地を侵害している事実には変わりありません。法的には、所有権侵害として争いの対象となります。実際には、相手方と話し合いで和解し、許容範囲として承認してもらうことが多いですが、それが難しい場合は法律的手続きが必要になります。

Q5.越境される側が無断で長期間放置していたらどうなりますか?

長期間放置されたことで、相手が時効取得を主張する可能性があります。土地の一部を20年間平穏・公然に継続して占有していた場合、取得時効が成立する恐れがあります。問題が発覚したら早めに対応することが肝要です。

解説

越境の典型例

  1. 新築・増築時のミス
    設計段階や工事で測量が不十分だったり、設計が境界を誤認したために屋根や壁が隣地へ越境。隣地所有者が気づいて抗議するケース。
  2. 塀やフェンスの設置位置
    ブロック塀や金属フェンスを境界線より数センチ隣の土地に食い込ませて建ててしまう。長年放置され、固定資産税評価などにも影響が出る。
  3. 排水管や雨樋(あまどい)のはみ出し
    壁からの排水管や雨樋の一部が隣地空間に突き出ており、雨水が直接隣地に落ちるなど、近隣トラブルの原因になりやすい。

法的な考え方

  1. 所有権侵害
    越境部分は、相手の土地の所有権を侵害する行為とみなされます。民法上、所有者は自己の物を自由に使用・収益・処分できるため、他人が勝手に侵害してきた場合は排除請求(撤去請求)が可能です。
  2. 取得時効や工作物維持権
    ただし、長期間にわたり越境状態を所有者が知りながら放置していたと認められると、越境者側が取得時効を主張できる可能性があります。また、特殊な事例では、工事完了後に誤差が判明した場合に民法上の工作物維持権を主張する議論もあります。
  3. 金銭解決(対価)
    建物撤去が社会経済的にもったいないと判断される場合、賃料相当額や一時金の支払いで越境部分の使用を認める形で合意する解決策があります。ただし、これはあくまでも当事者の合意が前提です。

具体的な対処法

話し合い・協議

  • 測量を行い、事実関係(越境範囲・面積など)を把握した上で相手と協議。
  • 合意に至ったら「越境部分の撤去」「使用料の支払い」「境界確認書の作成」などの条件を明文化。

専門家への相談

弁護士・土地家屋調査士など専門家が関与することで、正確な測量と法的根拠に基づく説明でスムーズに合意を得やすくなります。紛争が長期化しがちな場合でも早期対応が期待できます。

調停・裁判

  • 調停
    簡易裁判所で民事調停を申し立て、調停委員を交えて話し合い。
  • 裁判
    双方が合意できない場合、最終的に民事裁判で越境の有無や撤去の可否、損害賠償の額などを裁判所が判断。

弁護士に相談するメリット

  1. 冷静な交渉
    隣人同士の感情的対立を弁護士が客観的に整理し、合法的かつ合理的な落とし所を探ることで解決が早まる場合が多い。
  2. 測量・調査の連携
    測量士・土地家屋調査士と連携して、越境部分の正確な把握や境界確定手続きを同時に進められる。法的手続きも見据えて証拠保全を行うなどが可能。
  3. 強制力のある解決
    話し合いで決着しないとき、弁護士が調停・裁判を主導し、判決や和解条項として強制力のある解決を得ることができる。撤去命令や損害賠償請求などの強力な手段も視野に入る。
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の実績
    当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、不動産境界紛争や越境トラブルの多数案件を取り扱っています。測量段階から民事裁判まで総合的に対応し、円満解決を目指すサポートを提供しております。

まとめ

  • 越境建築・越境侵入は、隣人関係を深刻に悪化させる原因となるが、法的には所有権侵害として撤去請求や損害賠償請求が認められることがある。
  • 長年放置すると、相手方が取得時効を主張し、土地の一部を奪われるリスクが高まる。
  • 協議・合意で解決できればベストだが、合意が得られない場合は専門家(弁護士・土地家屋調査士)の助言を仰ぎ、調停・裁判などを視野に入れる。
  • 賃料相当額の支払いで越境部分を承認するなど、金銭解決も一つの方法だが、所有者の了承が必要。
  • 早めに測量し事実を把握し、専門家と連携して法的に適切な対処をするのが紛争長期化を防ぐ鍵。

自宅や事業用建物が越境されている、または越境しているかもしれないという疑いを持ったら、速やかに事実確認を行いましょう。放置して時間が経つほど状況が複雑化し、解決が困難になるケースが多いことを心得ておく必要があります。


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