企業法務リーガルメディア

退職金制度の設計と見直し:確定拠出年金・退職一時金など、多様化する選択肢を徹底比較

はじめに

企業における退職金制度は、従業員の長期勤続を促し、将来への保障を与える重要な仕組みです。一方で、社会・経済の変化に伴い、確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)への移行、退職一時金制度の見直しなど、従来の退職金制度を再検討する企業が増えています。また、同一労働同一賃金の観点から非正規社員にも退職金を支給すべきか検討を迫られるケースもあり、企業にとっては制度設計の自由度が高い反面、法的リスクや運用上の課題も多い領域です。

本記事では、退職金制度の基本タイプや設計時の留意点、制度改廃時の手順、税務面の考慮点などを弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

退職金制度は法律上、必ず設けないといけないのでしょうか?

退職金制度の導入は法律上の義務ではありません。労働基準法や会社法などで必須とされているわけではないため、そもそも退職金制度を設けていない企業も存在します。ただし、日本の雇用慣行や人材確保の観点から、退職金制度を導入している企業が多いのが実情です。

確定拠出年金(DC)と確定給付年金(DB)の違いは何ですか?
退職一時金と年金形式はどちらが一般的ですか?

一般的には、退職一時金のみを支給する企業が多いですが、大企業や公的機関では退職年金(企業年金制度)を併用しているケースもあります。また、企業独自の積立制度や、加入する年金基金・保険商品などによって支給形態が多様化しています。最近では確定拠出年金を導入する企業が増加傾向にあります。

退職金制度の改定(減額など)を行う場合、従業員の同意が必要でしょうか?

退職金制度の改定は、実質的に労働条件の不利益変更となる可能性が高いため、従業員の同意を得ずに一方的に不利な改定を行うとトラブルに発展するリスクがあります。不利益変更が合理的と認められるためには、企業の経営状況や必要性、変更後の内容の相当性など、総合的に判断されます。できる限り労働組合従業員代表との協議を行い、合意形成を図ることが望ましいでしょう。

解説

退職金制度の種類

  1. 退職一時金制度
    • 従業員の退職時に、一括して退職金を支払う方式。計算方法は「勤続年数×基本給×退職金係数」などが一般的です。
    • メリット:仕組みがシンプル、企業側が運用リスクを負わない。
    • デメリット:退職時に企業の資金負担が大きくなる場合がある。
  2. 企業年金制度(DB・DC)
    • DB(確定給付企業年金):将来給付額が確定しており、企業が運用リスクを負担。
    • DC(確定拠出年金):掛金額が確定しており、従業員が運用リスクを負担。
    • メリット:年金形式で安定的な老後資金を提供可能。
    • デメリット:企業にとって運用責任や会計リスクが発生(DBの場合)、従業員にとって運用リテラシーが求められる(DCの場合)。
  3. 中小企業退職金共済(中退共)
    • 中小企業が外部機関(中退共)に掛金を拠出し、従業員の退職時に共済側から退職金が支払われる制度。
    • メリット:企業の負担が一定で、管理が比較的容易。国の補助がある場合も。
    • デメリット:支給水準が企業独自の制度と比べて柔軟に設定しづらい。

退職金制度設計・見直しの手順

  1. 目的・コンセプトの明確化
    • 長期勤続を奨励するための制度か、若年層のモチベーション向上か、老後資金確保を重視するかなど、何を目指す制度なのかを明確にします。
    • 同時に、企業の財務状況や将来的な人員構成を踏まえた負担可能性を検討します。
  2. 現行制度の課題把握
    • 既存制度で想定外の退職金コストが膨らんでいないか、勤続年数による偏りが大きすぎないか、企業年金の運用リスクが過大ではないかなどを分析します。
    • 従業員のニーズや意見も調査しておくことで、後々の合意形成が進めやすくなります。
  3. 新制度の設計・シュミレーション
    • 退職一時金や年金形式など複数の案を比較し、就業規則退職金規程に落とし込む形で詳細を詰めます。
    • シュミレーションを行い、個々の従業員の支給額がどのように変化するか、企業の将来的な積立負担や会計処理を確認します。
  4. 従業員との協議・周知
    • 不利益変更となる恐れがある場合、労働組合や従業員代表との協議を丁寧に行い、合意を目指します。
    • 変更内容が確定したら、就業規則の改定手続き(意見聴取・届出)を行い、従業員への説明会やFAQ作成などで周知徹底します。

税務・社会保険上の留意点

  1. 退職所得控除
    退職金は退職所得として扱われ、勤続年数に応じて所得控除が大きくなる特例が設けられています。一時金と年金形式では課税方法が異なるため、企業が説明責任を負う場面もあります。
  2. 確定拠出年金の企業拠出限度額
    DCを導入する場合、企業が拠出できる掛金には上限が定められています。また、他の企業年金制度との併用状況によっても上限額が変わるため、注意が必要です。
  3. 社会保険料の取り扱い
    退職金や年金は通常、社会保険料の算定対象になりません。ただし、退職間際に支給される特別手当などが実質的に報酬とみなされるケースは別途検討が必要です。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、退職金制度の設計・見直しに関し、以下のような強みを提供します。

  1. 法的リスクの見極め
    • 不利益変更が疑われる場合でも、過去の判例や実務上の運用に基づき、どの程度の説明・手続きが必要かを具体的にアドバイスします。
    • 同一労働同一賃金やパートタイマーへの退職金適用など、最新の労働法制も考慮した最適解を提示します。
  2. 就業規則・退職金規程の整備
    • 新制度の導入や既存制度の改定にあたって、就業規則や退職金規程に不備がないか、法的に問題ないかをチェック・作成を行います。
  3. トラブル対応・紛争解決
    • 退職金の支給をめぐる紛争(未払い主張、減額の不当性など)が起きた場合、労働審判や訴訟対応を迅速に行い、企業のリスクを最小限に抑えます。
    • 過去の裁判例を踏まえた論点整理や証拠提出をスムーズに進められるのが弁護士に相談する大きなメリットです。

まとめ

解説動画のご案内

退職金制度等の不利益変更時の手続き、最新の判例トレンドなど、弁護士法人長瀬総合法律事務所が運営するYouTubeチャンネルでは詳しく解説した動画を配信しています。

制度検討や見直しに着手する前に、ぜひご確認ください。


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【企業法務の動画のプレイリストはこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


ご相談はお気軽に|全国対応

 


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了