企業法務リーガルメディア

労使協定と労働組合との交渉術:円滑な団体交渉・労働条件合意のためのポイント

はじめに

企業においては、就業規則の改定や労働条件の変更を行う際、労使協定労働組合との交渉を通じて合意を得る場面がしばしば発生します。特に、36協定(時間外・休日労働に関する協定)をはじめとする法定の労使協定は、企業の労働時間管理や賃金体系に直結する重要なものです。また、労働組合が存在する場合には、団体交渉を通じて賃金や労働条件について協議し、合意に至るまでのプロセスが法的に厳格に求められます。

もし労働組合との交渉が難航したり、企業が組合との団体交渉を拒否した場合には、不当労働行為として労働委員会の救済申し立てを受けるリスクがあります。本記事では、労使協定の基本から労働組合との交渉ポイント、不当労働行為の回避策などを弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

労使協定と就業規則の違いは何ですか?

労使協定は、法令で締結が義務付けられた場面や、労働条件の特別な定めを行う場合に、使用者従業員代表(または労働組合)が合意して結ぶ文書を指します。たとえば36協定1年単位の変形労働時間制の協定などが典型例です。一方、就業規則は企業が一定の労働条件や服務規律を定める社内規程ですが、作成にあたって従業員代表への意見聴取が必要となります。労使協定は個別のポイントを取り決める文書、就業規則は全社的ルールブックというイメージです。

労働組合との団体交渉には必ず応じなければならないのですか?

はい、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、原則として企業は応諾義務を負います(正当な理由がない限り、交渉を拒否してはいけない)。もし正当な理由なく拒否・引き延ばし・形だけの交渉に終始すると、不当労働行為として処分や救済を受ける可能性があります。

団体交渉で合意が得られなかった場合、どうすればいいですか?

企業と組合の間で合意に至らない場合、より上位機関である労働委員会に斡旋・調停・仲裁を申請することが考えられます。ただし、斡旋や調停はあくまで第三者の提案による話し合いの延長であり、最終的には当事者の合意が必要です。合意がなければ不調に終わる可能性もあります。また、ストライキなどの争議行為が発生する恐れもあるため、企業としては誠実に交渉を継続し、第三者の助力も検討しながら妥協点を探ることが重要です。

不当労働行為にはどのような種類がありますか?

不当労働行為には主に、組合員であることを理由とする差別的取扱い団体交渉拒否支配介入などがあります。たとえば、組合活動を理由に従業員を解雇したり、団体交渉を形だけで終わらせる、企業が“御用組合”を作って本来の組合を排除するなどが典型例です。これらに該当すると、労働委員会から救済命令が出ることがあります。

解説

主要な労使協定の種類

  1. 36協定(時間外・休日労働協定)
    • 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて残業させたり、休日労働を行う場合に必須となる協定。これがないと原則として違法な長時間労働になり、企業が労働基準監督署から是正勧告や罰則を受ける可能性が高まります。
    • 特別条項付き36協定では、繁忙期に限って一定時間以上の残業が可能になりますが、上限時間や手続きが厳格化されています。
  2. 変形労働時間制に関する労使協定
    1年単位や1か月単位の変形労働時間制を導入する場合に締結が必要です。業務の繁閑に合わせて労働時間を調整する制度ですが、協定内容の不備や運用ミスがあると未払い残業代のリスクが発生します。
  3. フレックスタイム制に関する協定
    フレックスタイム制を導入する際にも、清算期間コアタイムなどについて協定で定める必要があります。適切に運用しないと法令違反に問われる可能性があります。
  4. 裁量労働制に関する協定
    企画業務型や専門業務型裁量労働制を導入する場合は、対象業務や労働時間のみなし方などを労使協定で規定します。対象業務の範囲が不適切だと未払い残業代が発生する恐れがあります。

団体交渉と労働組合対応のポイント

  1. 誠実交渉義務
    • 企業は組合との団体交渉において、誠実に話し合いに応じる義務があります。形だけの交渉や不十分な情報開示は、団交拒否とみなされる可能性があります。
    • 賃金台帳や労働条件の資料など、交渉に必要な情報をできる限り提供し、建設的な話し合いを行いましょう。
  2. 交渉記録・議事録の作成
    交渉の過程を文書化しておくことは、後日の紛争を防ぐうえで非常に重要です。双方の主張や合意事項を議事録にまとめ、労使双方がサイン・押印しておくと、後で「言った、言わない」のトラブルを避けやすくなります。
  3. 労働協約の締結
    組合との団体交渉で合意に至った内容は、労働協約として文書化することが推奨されます。就業規則よりも労働協約が優先する場合もあるため、合意内容を正確に反映した文章を作成し、手続きを踏んで締結しましょう。
  4. 争議行為への対応
    • 交渉が決裂すると、組合がストライキや職場放棄などの争議行為を行う可能性があります。ストライキ自体は労働組合に保障された権利ですが、正当性の範囲を逸脱すると不法行為となり得ます。
    • 企業は争議行為が起きても冷静に対処し、警備体制や情報共有を万全にするとともに、トラブルが激化しそうな場合は早めに弁護士へ相談することが賢明です。

不当労働行為を回避するための注意点

  1. 組合員差別の禁止
    組合活動を理由とした解雇、降格、賃金低下は厳しく禁止されています。たとえ業務上の理由があるとしても、組合活動への報復とみなされる行為は不当労働行為認定を受けるリスクが高いです。
  2. 団交拒否の禁止
    組合からの正当な交渉申入れを拒否したり、長期にわたり引き延ばすことは不当労働行為の典型例です。どうしても都合がつかない場合でも、誠意をもって別日程を提案するなど柔軟に対応しましょう。
  3. 支配介入・経費援助の禁止
    企業が特定の組合を優遇したり、組合運営に資金援助を行う行為は、不当労働行為となる可能性があります。自社に都合の良い“御用組合”を作ることは避けましょう。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労使協定や労働組合との交渉に関して、以下のようなサポートを提供しています。

  1. 各種労使協定のリーガルチェックと作成支援
    36協定や変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制などの労使協定を最新の法令・判例に即して点検し、適法で実務に合った形に整備します。
  2. 団体交渉の代理人・同席支援
    団体交渉の場に弁護士が代理人として出席し、交渉が混乱しないようにサポートします。企業側のリスクを見極めながら、円滑な話し合いが進むようアドバイスを行います。
  3. 不当労働行為に関する防止策・トラブル対応
    組合員差別の防止や団交拒否を回避する具体策を提示し、不当労働行為のリスクを最小限に抑えるよう支援します。万が一、労働委員会に申し立てがあった場合でも、迅速に対応方針を立案します。
  4. 就業規則や労働協約との整合性確保
    労使協定や労働協約が就業規則と矛盾しないようにチェックし、法的リスクを排除します。将来的な運用トラブルを未然に防ぐためのコンサルティングを提供します。

まとめ

動画・メルマガのご紹介

労使協定の基礎知識から労働組合との交渉術、不当労働行為の事例解説など、弁護士法人長瀬総合法律事務所が運営するYouTubeチャンネルでは、企業法務担当者必見の動画をご用意しています。実務の参考になる具体的なノウハウをご紹介していますので、ぜひご覧ください。

【企業法務の動画のプレイリストはこちら】

また、当事務所では最新の法務ニュースやセミナーのご案内等を配信するメールマガジンも運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


ご相談はお気軽に|全国対応

 


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了