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未払い残業代リスクを軽減する方法:残業代請求への対策と企業がとるべき管理手法

はじめに

企業と従業員の間で深刻なトラブルに発展しやすいのが、未払い残業代に関する問題です。

残業代や休日手当、深夜割増賃金など、正しく支払われていない場合、従業員から残業代請求を受けるリスクがあります。これらの紛争は、企業が支払うべき残業代だけでなく、付加金や遅延損害金などを合わせると莫大な金額になる可能性もあり、経営上のダメージは甚大です。

また、近年は労働基準法の改正や働き方改革の推進により、企業が労働時間管理を適正に行うことへの社会的要請が強まっています。したがって、残業代の計算方法や記録のとり方、就業規則などの整備は今や企業経営に不可欠な要素です。本記事では、残業代請求リスクの概要や未払い残業代をめぐる法的ポイント、さらに企業として講じるべき対策を、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

なぜ未払い残業代が発生しやすいのですか?

企業側が労働時間管理を適切に行えていないことや、固定残業代制度などの運用を誤っていることが大きな要因です。特に、タイムカードや勤務表があっても、上司の承認を得ない残業は「残業として認めない」といった運用をしてしまうと、従業員から「実際に働いた時間に対して賃金が未払いだ」と主張される可能性が高まります。

どんなときに残業代請求を受けるのでしょうか?

退職時や労働条件の揉め事が表面化したときに請求されるケースが多いです。特に、退職した従業員が弁護士に相談し、企業に過去3年分の残業代を一括で請求してくる場合があります。また、在職中でも、SNS等で情報が共有され、集団で請求が起きるケースも見られます。

管理監督者だから残業代は発生しないと思っていましたが、違うのでしょうか?

管理監督者として残業代の支払いが免除されるのは、労働基準法上の厳格な要件を満たす場合に限られます。肩書きや役職名が「課長」「部長」というだけでは不十分です。実質的に経営に関する重要な権限を持ち、自由な働き方が認められているかどうかが重視されます。実際に、裁判例では管理監督者と認められず、未払い残業代の支払いを命じられたケースが多数あります。

未払い残業代請求を放置するとどうなりますか?

企業が支払うべき残業代に加えて、付加金遅延損害金が課される場合があり、最終的な支払い総額が大きく膨れ上がることがあります。また、従業員との間で信頼関係が破壊され、企業の評判を損なうリスクも無視できません。

解説

残業代の基本計算と割増賃金率

  1. 所定労働時間と法定労働時間
    • 法律上の法定労働時間は1日8時間、週40時間です(例外はあります)。これを超える労働には割増賃金が発生します。
    • 企業が設定する所定労働時間(たとえば1日7時間、週35時間など)を超えて働いた分が「残業」となるケースもありますが、割増賃金として請求される対象は法定時間外が基本となります。
  2. 割増賃金率
    • 法定時間外労働の場合:割増率25%以上
    • 深夜労働(22時~翌5時):割増率25%以上
    • 休日労働(法定休日に出勤):割増率35%以上
    • 法定時間外労働+深夜労働が重複:割増率50%以上
    • ※中小企業の場合でも、一定の時間(法定時間外労働60時間超)を超えた場合には50%以上の割増率が適用されます。
  3. 計算方法
    • 通常の賃金(時給換算)×割増率×残業時間数
    • 賃金には基本給だけでなく、各種手当が含まれる場合があるため、算定基礎を誤ると未払いリスクにつながります。

未払い残業代の典型的なパターン

  1. 固定残業代の運用ミス
    • 固定残業代(みなし残業代)制度を導入している企業で、実際の残業時間に見合わない低額設定や、固定残業代を超えた分を別途支払わないといったケースが問題化しやすいです。
    • 制度を導入する場合は、就業規則や労働契約書で明確に時間数と金額の内訳を示し、実際の残業時間との差分が出た場合は追加支払いを行うなど、正確な運用が不可欠です。
  2. 管理監督者として誤って扱っている
    • 実際には管理監督者に当たらない従業員を、役職名だけで「管理職」とし、残業代を一切支払わないケースはよく見られます。
    • 裁判で認められる管理監督者要件は非常に厳しく、「勤務時間の自由度」「重要な経営上の権限」「相応の役職手当」などを総合的に判断されます。
  3. 労働時間の管理が不十分
    • タイムカードやICカードでの入退室記録、PCログなどの客観的記録を取っていない企業では、従業員から「実際はもっと働いていた」と主張されると証拠不十分となり、負けてしまうことが多いです。
    • **「36協定」**を結んでいない状況で法定時間外労働を行わせている場合も、行政指導や是正勧告の対象となります。
  4. 裁量労働制の誤適用
    • 裁量労働制は、対象業務が限定されているうえ、労使協定の締結や適正な運用が求められます。単に「裁量があるから」といって適用するのはNGで、不十分な根拠のまま導入すると未払い残業代の請求を受けかねません。

時効の延長と請求の拡大リスク

2020年4月の民法改正などに伴い、未払い賃金の時効は段階的に5年まで延長される可能性があります(当面は3年に延長)。これにより、従業員から過去にさかのぼって多額の請求を受けるリスクが増大しています。企業としては、定期的に残業代の計算や記録を精査し、未払いがないかチェックする体制を整える必要があります。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、未払い残業代対策や残業代請求をめぐる紛争の解決に関して、以下の強みがあります。

  1. 制度設計からトラブル解決まで一貫して対応
    • 固定残業代制度や裁量労働制などの労働時間制度の設計段階からアドバイスを行い、就業規則・労働契約書のリーガルチェックを実施します。
    • 万が一、従業員から残業代請求があった場合には、労働審判や訴訟対応までワンストップでサポートします。
  2. 証拠収集・反証のノウハウ
    • 企業側が未払いとされる時間の正確な記録や、管理監督者に当たるかどうかの証拠を的確に提示することで、請求額を適正に抑えたり、請求自体を退けたりするノウハウを持っています。
  3. 交渉と和解のサポート
    • 従業員との直接交渉が困難な場合、弁護士が間に入ることで冷静な話し合いが可能となり、必要に応じて早期の和解を図ることもできます。
    • 社員全体への波及リスクを最小限に抑えつつ、企業の信用を守るための対応策をアドバイスします。
  4. 法改正・判例に即したアップデート
    • 残業代に関する法改正や裁判例は、状況が変化し続けています。弁護士を通じて常に最新の情報にアクセスすることで、企業のコンプライアンス体制を強化できます。

まとめ

動画・メルマガのご紹介

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、未払い残業代問題や労働時間管理など、企業法務に関する多岐にわたるトピックをYouTubeチャンネルでわかりやすく解説しています。事例紹介や具体的な解決策のヒントが満載ですので、ぜひご覧ください。

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