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署名捺印・記名押印の留意点

署名捺印・記名押印の留意点

解説動画

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署名・記名、押印・捺印、割印・契印の違い

署名とは

「署名」とは、自らの氏名を手書きで書くこと、つまり自書(サイン)することをいいます。一方「記名」とは、署名以外の方法(氏名を彫ったゴム印を押す、パソコンで氏名を記載する等)で自らの氏名を記すことをいいます。

すなわち、「記名」と「署名」の違いは、自署か自署でないかということです。

法律の規定においては、「署名または記名押印」と定められていることから、署名はそれ自体で効力を有しますが、記名には印鑑[1]を押すことが必要といえます。

押印と捺印

「押印」と「捺印」は、どちらも印鑑を押すという行為を表す言葉です。実際には、この二つを使い分けられずに使われていることもよくあります。しかし、厳密には「押印」と「捺印」には違いがあります。

「押印」は、「記名押印」の略語であり、自署以外によって記された氏名に印鑑を押すことを意味します。一方「捺印」は、「署名捺印」の略語であり、自署に印鑑を押すことを意味します。そのため、「記名」に印鑑を押すときは「押印」を使い、「署名」のときには「捺印」が使われます。

割印

「割印」とは、契約締結の際、作成した契約書の原本と写し、正本と副本などのように2部以上の独立した文書が同一である(または関連している)ことを示すために各文書にまたがるように押印する印鑑のことを指します。自社と他社(相手方)との間で作成した契約書が「同じ時に作成された同じ契約書である」ことを証明し、後から契約書が改ざんされたり複製されたりすることを防止する目的があります。

契印

「契印」とは、2枚以上にわたる契約書のつながりが正しいことを証明するために、契約書のつなぎ目や綴じ目に押す印鑑のことを指します。割印は2部以上の書類の同一性または関連性を証明する印鑑ですが、契印は割印と違い、一つの契約書の内容が正しくつながっているかを証明し、契約書のページの差替えや抜取りなどを防止する目的があります。

なぜ日本はハンコ文化なのか? 民事訴訟法のルール

ハンコの文化の歴史

現在、日本で印鑑を使う場面はとても多く、印鑑の種類も実印、銀行印、認印等様々です。

日本で最古の印鑑は北九州で発見された「漢倭奴国王」と刻まれた金印であるとされています。印鑑は、まず、政府や地方の支配者の公の印として使われ始め、平安・鎌倉時代になって、個人の印として印鑑を押す習慣が定着したようです。明治になって、公の印はすべて、法律の規定に従って管理・使用されることになり、個人の印は印鑑登録制度が導入され現在に至っています。

日本においてハンコ文化が普及したのは、署名(サイン)よりも偽造されにくいこと、識字率が低かったこと、紙での処理が簡便であること等が理由とされています。1900年(明治33年)に施行された「商法中署名すべき場合に関する法律」では、記名捺印を署名に代用することが定められ、商法32条に引き継がれました(現在は規定が廃止されています)。

このような日本のハンコ文化をもとに、民事訴訟法では次のようなルールが決められています。

民事訴訟法のルール

民事裁判において、私文書が作成者の認識等を示したものとして証拠(書証)になるためには、その文書の作成者とされている人(作成名義人)が真実の作成者であると相手方が認めるか、そのことが立証されることが必要であり、これが認められる文書は、「真正に成立した」ものとして取り扱われます。民事裁判上、真正に成立した文書は、その中に作成名義人の認識等が示されているという意味での証拠力(形式的証拠力) が認められます。

民事訴訟法(以下、「民訴法」といいます。)228条4項は、「私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定しており、契約書等の私文書の中に、本人の押印(本人の意思に基づく押印と解釈される)があれば、 その私文書は、本人が作成したものであることが推定されます。

この規定を簡単に言い換えれば、 裁判所は、ある人が自分の押印をした文書は、特に疑わしい事情がない限り、真正に成立したものとして、証拠に使ってよいという意味です。そのため、文書の真正が裁判上争いとなった場合でも、本人による押印があれば、証明の負担が軽減されることになります。

もっとも、この規定は、文書の真正な成立を推定するに過ぎません。その文書が事実の証明にどこまで役立つのか(=作成名義人によってその文書に示された内容が信用できるものか)といった中身の問題(実質的証拠力)は、別の問題であり、民訴法228項4項は、実質的証拠力については何も規定していません。

なお、文書に押印があるかないかにかかわらず、民事訴訟において、故意又は重過失により真実に反して文書の成立を争ったときは、過料に処せられます(民訴法230条1項)。

内閣府の方針

内閣府は、新型コロナウイルス感染拡大への対応として、2020年7月8日、「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識の抜本的見直しに向けた共同宣言〜デジタル技術の積極活用による行政手続・ビジネス様式の再構築〜」[2]において、押印に関する民事基本法上の規定の意味や押印を廃止した場合の懸念点に応える整理(内閣府・法務省・経済産業省作成の「押印についての Q&A」[3])に基づき、押印が必須でない旨を周知し、民間事業者による押印廃止の取組を推進するとともに、押印が必要な場合においても、書面の電子化のために電子署名等の電子認証の周知・活用が図られるよう取組む方針を示しました。

内閣府は、私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていないことから、原則として、「契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない」ことを明確に示しました。

また、民訴法228条4項の効果は限定的であり、本人による押印があったとしても万全というわけではないこと等を理由として、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であるとしています。そして、文書の成立の真正を証明する手段として、電子署名や電子認証サービスの活用のほか、契約締結前段階での本人確認情報の保存、メールやSNS等のやり取りでの文書・契約の成立過程の保存等を挙げています。

このように、本人による押印がなくても契約の効力に影響が生じないとの考え方が浸透すれば、いずれ日本のハンコ文化は消えることになるかもしれません。

引用・出典

[1] ハンコの物体としての正式名称は「印章」ですが、このchapterでは便宜上「印鑑」と呼称します。また、ハンコを紙に押したときに残る朱肉の跡のことは「印影」です。「印鑑」は、役所や銀行などに登録してある印影のことです。

[2] 内閣府HP|「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識の 抜本的見直しに向けた共同宣言 ~デジタル技術の積極活用による行政手続・ビジネス様式の再構築~(PDF)

[3] 内閣府HP|押印についてのQ&A(PDF)

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