【ポイント】

  • 議長の定めについて、会社の定款を確認し、会社の定款に議長についての定めがなければ株主総会において議長を選任する必要がある。
  • 社長が帰国できず、株主総会の議長として参加できない場合であっても、定款に「社長に事故があるとき」についての規定が定められている場合には、当該規定により、予め定めた代表順位に従って、他の者が議長を務めることが可能である。
  • 社長がテレビ会議等により、株主総会に出席できる場合には、議長を務めることが可能である。

【相談例】

株主総会の議長となる社長が、外国にいるところ、新型コロナウィルスの影響により、当該外国から日本への入国が制限されているため、株主総会の当日に日本の開催場所に来ることができなくなりました。このような場合、どのように対応すべきでしょうか?

【回答】

・社長がテレビ会議等により、株主総会に出席できる場合には、社長が議長を務めることで問題ございません。

・社長が株主総会に出席できない場合には、まず定款の定めを確認しましょう。多くの定款には、「社長に事故があるとき」についての定めがあり、当該定めにより、予め定めた代表順位に従って、他の者が議長を務めることが可能です。

【解説】

1 問題点

新型コロナウイルスの影響による入国制限措置などにより、株主総会の議長である社長が日本に帰れないといった事態も生じるおそれがございます。

このような場合に、株主総会の議長は誰が務めるのかという問題があります。

2 原則

会社法には、株主総会の議長を誰が務めかということについて定めがありません。そこで、定款に定めがない場合には、議長は株主総会によって選任されますが、定款上、社長である取締役が議長となる旨が定められているのが通例です。また、定款上多くの例では「社長に事故」がある場合には、あらかじめ取締役会の定める順序により、他の取締役が議長に代わる旨の規定があります。

議長についての定款の定めがなく、その都度株主総会決議で選任している場合には問題となりませんが、定款で議長についての定めをしており、かつ「社長に事故」がある場合についての議長の交代規定を定めている場合には、当該定款の規定により、議長を交代できるかという問題がございます。

3 「社長(会長)に事故があるとき」の解釈について

高松地判昭和38年12月24日判決(下民14巻12号2615頁)

上記判決は、「株主総会の議長には会長が当たり、会長に事故があるときは他の取締役がこれに当たる旨の定款の解釈」が争われた事案について下記のとおりの判断を下しております。

「会長に事故があるとき」とは、会長が病気、負傷、旅行等の事実的障害があつて、株主総会への出席が物理的に不可能なる場合のみを指称すにとどまらず、その事情はともあれ、会長自らの意思によつて当初から総会に出席せず、もしくは中途より退場した場合等株主総会の運営、議事進行に実際上支障を来す場合をもすべて含むものと解するのが相当であり〈中略〉「会長に事故があるとき」に該当するものというべきである。

上記判例の解釈

上記判決からすれば、新型コロナウイルスによる入国制限により、社長が日本に帰国できない場合には、事実的障害により、株主総会の出席が物理的に不可能になる場合にあたるといえるため、「社長に事故があるとき」にあたるものと解されます。

したがって、予め定めた代表順位に従って、他の者が議長を務めることが可能です。

なお、議長が株主総会の開催場所にいることを求める会社法上の規定はないことから、併せてテレビ会議による社長(議長)の出席を考えることも良いものと思われます。