相談事例
当社(甲社)の執行役員Xは、競合他社(乙社)の役員を兼務しており、当社と競合する取引に関与しているとの噂を入手しました。
執行役員が競合他社の役員を兼務し、当社と競合する取引に従事することは許されるのでしょうか。
回答
執行役員であるXがライバル会社乙社の役員を兼務していていも、当然に取締役・支配人に対する競業避止義務を定めた会社法上の規定が適用されるものではありません。
実務上は、執行役員の競業を禁止する執行役員規程等をあらかじめ設けておき、当該社内規程違反を理由に責任を追及することになります。
解説
執行役員の法的地位
しばしば誤解されていることではありますが、「執行役員」なる言葉は会社法上規定されておらず、会社法上の法的地位ではありません。
したがって、執行役員は、「役員」という名称が含まれているものの、会社法上の機関たる「役員」である取締役(会社法326条1項)とは異なり、法的には「重要な使用人」(会社法362条4項3号)であり、いわゆる従業員のトップに過ぎません。
そのため、「執行役員」という名称自体、会社内部での取り決めに過ぎず、いかなる名称を用いても基本的に問題はありません。実務上は、専務、常務等の肩書が与えられることが多いかと思います。
なお、委員会設置会社における「執行役」は、「執行役員」ではなく、取締役と同様、会社の機関なので混同しないよう注意が必要です。
執行役員の競業避止義務
前述のとおり、執行役員は取締役のように会社法上の「役員」ではなく、従業員のトップであるところ、会社法356条1項1号は、「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」を競業避止義務の対象として規定しており、取締役を兼務しない執行役員についてもかかる競業避止義務の規定が適用されるかが問題となります。
この点、競業避止義務は取締役に限定されるものではなく、会社の支配人についても競業避止義務がある(会社法12条1項2号)こと、執行役員は実質的に取締役に等しいことから、会社法356条1項1号の類推適用を肯定する見解があります。
しかし、前述のとおり、執行役員と取締役とは異なるものである以上、執行役員に対して会社法356条1項1号の適用はなく、また、一般的な準用も認められないと解する見解が多数派と思われます。
また、執行役員は法定の包括的権限を有する「支配人」とも異なりますので、支配人に関する会社法12条1項2号の規定が当然に適用されるべき根拠もありません。
したがって、執行役員の競業避止義務については、実務上は、取締役・支配人に対する競業避止義務を規定した会社法の規定は適用されないものとして、会社の内部規程である執行役員規程に規程しておくべき事項といえます。
ご相談のケースについて
執行役員であるXがライバル会社乙社の役員を兼務していていも、当然に取締役・支配人に対する競業避止義務を定めた会社法上の規定が適用されるものではありません。
実務上は、執行役員の競業を禁止する執行役員規程等をあらかじめ設けておき、当該社内規程違反を理由に責任を追及することになります。
なお、執行役員規程の規定の仕方としては、
-
- 従業員である執行役員の場合には、従業員の職務専念義務の対象であるとして原則として競業を認めないこととする。
- 執行役員の地位の高さに鑑み、取締役会の承認を条件に競業を認める。仮にこれに反して競業を行った場合には、競業によって得た利益の提供を当該執行役員に対して請求する権利を会社に認める旨の規定を置く。
という対応が考えられます。
参考文献
江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)
(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。
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