現場で元請の担当者から口頭で追加の工事を頼まれ、施工したにもかかわらず、後になって「追加の工事ではない」「その金額では合意していない」と言われて代金が支払われない。建設業では、このような相談が少なくありません。
追加工事の合意は、書面がなくても口頭で成立しうるものであり、書面がないことだけで代金を請求できなくなるわけではありません。問題は、合意があったことや工事の内容を、どのように立証するかです。メールやメッセージ、打合せの記録、施工の写真、作業日報などの資料を整理し、当初の工事との違いを示すことが回収の出発点になります。
この記事では、追加工事代金の未払いについて、合意の考え方、証拠の整理、回収の手順、再発の防止を説明します。
追加・変更の合意
追加工事の代金をめぐる争いでは、次の点が争点になることが多くあります。
- 依頼された工事が、当初の契約に含まれる工事か、追加の工事か
- 追加の工事を依頼したのは誰か(依頼した担当者に権限があったか)
- 代金の額について合意があったか
当初の契約の範囲は、契約書、見積書、図面、仕様書で確認します。代金の額を決めないまま施工した場合でも、事業者が営業として行った仕事については、相当な額の報酬を請求できる場合があります。
なお、建設業法は、工事の請負契約の内容を書面で明らかにすることを求めており、契約の内容を変更する場合も同様です。相手方の承諾を得るなど法令上の要件を満たす電磁的方法での提供も認められます。この書面化は当事者双方に求められるもので、書面を交わさなかったことが建設業法上の問題になることもあります。ただし、書面がないことで、当事者の間の合意そのものが当然に無効になるわけではありません。
証拠の整理
工事の段階ごとに、証拠と確認のポイントを整理すると次のとおりです。
| 段階 | 証拠の例 | 確認のポイント |
| 注文・依頼 | メール、チャットのメッセージ、打合せの記録、指示書 | 誰が、いつ、何を依頼したか |
| 変更の内容 | 変更図面、見積書、仕様の変更の記録 | 当初の工事の範囲との違い |
| 施工 | 施工前後の写真、作業日報、材料の納品書 | 実際に施工した内容と数量 |
| 検収・引渡し | 検査の記録、引渡しの書面 | 相手が施工を確認し、受け取ったか |
| 請求 | 請求書、相手の回答 | 請求した日と、相手の反論の内容 |
口頭の依頼であっても、依頼を受けた後に「本日ご依頼いただいた〇〇の追加工事を、〇円で施工します」といったメールを送っていれば、合意の内容を示す資料になります。
金額と履行の確認
請求する金額は、見積書、単価の取決め、同種の工事の相場などを根拠に説明します。相手からは、工事に不具合があるとして代金の減額や損害との相殺を主張されたり、工期の遅れによる損害を主張されたりすることがあります。相手の反論の内容と、それに対する資料も整理しておきます。
元請と下請の関係では、建設業法に下請代金の支払期日などについての定めがあり、元請が支払を遅らせている場合には、その点も確認します。
交渉・回収・再発防止
まず請求書を送り、支払を求めて協議します。応じない場合は、内容証明郵便による請求や裁判手続を検討します。内容証明郵便の送付が裁判手続の必須条件というわけではありません。そのうえで、次のような手続から、請求額や争いの内容に応じて選択します。
- 民事調停:裁判所で話し合いによる解決を目指す
- 建設工事紛争審査会:建設工事の請負契約に関する紛争を扱う機関によるあっせん・調停・仲裁
- 支払督促:相手が争わない場合に、書面の審査で支払を命じてもらう
- 訴訟:少額の場合の少額訴訟を含む
相手の財産が失われるおそれがある場合には、仮差押えを検討することもあります。代金の請求権には時効があり、2020年4月以降に結ばれた契約では、原則として権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年の、いずれか早い時点で時効が完成します。催告だけで時効が更新されるわけではないため、期限が迫っている場合は裁判上の請求等も検討します。
再発を防ぐためには、追加や変更の都度、建設業法19条の書面交付または要件を満たす電磁的方法で内容と金額を確認する運用を社内で定め、施工の前後の写真を残すことが有効です。
よくある質問
Q 書面がなくても、追加工事代金を請求できますか?
請求できる場合があります。合意の内容を示すメール、打合せの記録、施工の写真などの資料が重要になります。
Q 元請から「追加ではなく、当初の工事の範囲だ」と言われました。
当初の契約書、見積書、図面などで、工事の範囲を確認します。追加の工事であることを示す資料をそろえて説明することになります。
Q 請求できる期限はありますか?
2020年4月以降に結ばれた契約では、原則として権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年の、いずれか早い時点です。それより前の契約では、改正前の民法が適用される場合があるため、契約の時期を確認してください。
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