はじめに
発信者情報開示請求が認められ、誹謗中傷を行っていた投稿者(加害者)の身元がついに判明した――。
長く苦しい手続きを経て、ようやく相手の氏名や住所を手にしたとき、多くの被害者の方は「やっと終わった」と安堵されると同時に、「これからどうやって責任を取らせればよいのか」という新たな悩みに直面します。
特定はあくまで通過点であり、真の解決(損害賠償の獲得、謝罪、再発防止)に向けたスタートラインに過ぎません。ここから先は、特定された加害者に対して、具体的にどのようなアクションを起こすかが重要になります。
その中心となるのが「和解交渉(示談交渉)」です。
本記事では、情報管理法務の実績豊富な弁護士法人長瀬総合法律事務所が、投稿者特定後の手続きの流れ、特に加害者との和解交渉における「謝罪要求」や「謝罪文」の取り扱い、そして有利な条件で解決するためのポイントについて解説します。
Q&A:特定後の和解交渉に関するよくある質問
Q1. 加害者が「和解交渉」に応じない、または無視した場合はどうなりますか?
交渉が決裂したとみなし、「損害賠償請求訴訟(民事裁判)」へ移行することになります。
弁護士名義で内容証明郵便を送付しても相手が無視を決め込むケースは残念ながら存在します。その場合、任意の話し合いによる解決(和解)は難しいため、裁判所を通じて法的に支払いを命じてもらう手続き(訴訟)をとります。訴訟になれば、相手が欠席しても証拠に基づき判決が下されます。また、悪質性が高い場合は、並行して刑事告訴を行うことも検討します。
Q2. ネット上に「謝罪広告」を出させて、公に謝らせることはできますか?
任意の交渉であれば可能性がありますが、裁判で強制するのはハードルが高いのが実情です。
名誉毀損の場合、法律上は「名誉を回復するのに適当な処分(謝罪広告など)」が認められていますが、裁判所がこれを命じるのは、新聞記事のような社会的影響力が極めて大きい媒体での毀損など、限定的なケースが多い傾向にあります。
しかし、裁判外の「和解交渉」であれば、双方が合意する限り内容は自由ですので、解決条件として「自身のSNSアカウントやブログへの謝罪文掲載」を求め、相手がこれに応じれば実現可能です。
Q3. 加害者に直接会って、目を見て謝罪させたいのですが?
お気持ちは痛いほど分かりますが、当事者同士の直接対面は推奨されません。
誹謗中傷を行う加害者は、逆恨みや偏った正義感を持っているケースも多く、直接対面することで口論になったり、新たなトラブル(脅迫や暴行など)に発展したりするリスクがあります。また、加害者側も被害者と会うことを恐れて交渉自体を拒絶する可能性があります。冷静かつ安全に手続きを進めるためには、弁護士等の代理人を介してやり取りを行うのが有効です。
解説:特定後の手続きと和解交渉のポイント
投稿者が特定された後、被害者が採り得る手段は大きく分けて「民事上の請求(損害賠償)」と「刑事上の責任追及(刑事告訴)」の2つがあります。ここでは、金銭的な被害回復や謝罪を目指す「民事」の側面、特に和解交渉に焦点を当てて解説します。
1. 「訴訟」か「和解(示談)」か? それぞれの特徴
特定直後の最初のステップは、通常、加害者に対して内容証明郵便などで請求書を送付することから始まります。この際、いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは示談(和解)による解決を目指すケースが一般的です。
訴訟(裁判)
- メリット: 裁判所の判決という公的な債務名義が得られる(強制執行が可能になる)。相手が話し合いに応じなくても手続きが進む。
- デメリット: 解決までに時間がかかる(半年〜1年以上)。判決で認められる慰謝料額や弁護士費用相当額は、裁判所の基準に基づくため、必ずしも被害者の納得いく金額になるとは限らない。
和解(示談交渉)
- メリット: 早期解決が可能(数週間〜数ヶ月)。裁判基準に縛られず、双方が合意すれば柔軟な解決内容(高額な慰謝料、謝罪文の掲載、接触禁止など)を設定できる。
- デメリット: 相手に合意する意思や支払い能力がなければ成立しない。
2. 和解交渉における「金銭賠償」の考え方
和解交渉で最も主要なテーマは「示談金(解決金)」の金額です。示談金には、以下の要素が含まれます。
- 慰謝料: 精神的苦痛に対する賠償。
- 調査費用: 発信者情報開示請求にかかった弁護士費用や実費。
- 逸失利益: 誹謗中傷により営業停止に追い込まれた場合などの経済的損失。
裁判所の判決では、調査費用の一部しか認められない(損害として認められる範囲が限定的)こともありますが、和解交渉では「実際に被害者が負担した調査費用全額」を上乗せして請求し、加害者がそれを呑むことで合意に至るケースも多々あります。
加害者側としても、「裁判になって判決情報が公開されるのを避けたい」「前科がつかないように(刑事告訴を取り下げてもらうために)誠意を見せたい」という動機があるため、裁判基準よりも高額な支払いに応じることがあります。
3. 「謝罪要求」と「謝罪文」の取り扱い
金銭だけでなく、「謝罪」をどのように形にするかも重要なポイントです。
謝罪文の提出
最も一般的なのは、示談書とは別に「謝罪文(詫び状)」を作成させ、被害者に送付させる方法です。ここには、以下の内容を記載させます。
- 自身の行為が誹謗中傷にあたることの自認。
- 被害者に多大な精神的苦痛を与えたことへの反省。
- 今後二度と同様の行為を行わない旨の誓約。
インターネット上への謝罪広告・謝罪文掲載
被害がネット上で拡散している場合、ネット上での名誉回復措置を求めることがあります。
- 方法: 加害者のSNSアカウント、ブログ、あるいは当該掲示板に、謝罪文を投稿させる。
- 注意点: 謝罪文を掲載することで、逆に「過去の炎上」が蒸し返され(ストライサンド効果)、被害者にとってマイナスになるリスクもあります。「いつまで掲載するか」「どのような文言にするか」を慎重に協議する必要があります。
4. 再発防止のための「合意書(示談書)」作成
口頭やメールでの合意だけでは不十分です。必ず法的に有効な「合意書(示談書)」を作成し、署名押印を交わします。ここには以下の条項を盛り込むことが不可欠です。
- 清算条項: 「本件に関しては、これ以上の請求を行わない」という確認(※被害者にとっては請求権の放棄になるため、条件が履行されてから効力を生じさせる等の工夫が必要)。
- 口外禁止条項(秘密保持条項): 和解の内容や、事件の経緯を第三者に漏らさないこと。特に、加害者が「示談したからもう関係ない」とSNSで再び言及することを防ぐために重要です。
- 誹謗中傷の禁止と違約金: 今後、被害者に対して一切の誹謗中傷を行わないこと。もし違反した場合は、1回につき〇〇万円を支払うといった「違約金」を設定し、抑止力を高めます。
- 接触禁止: SNSでのダイレクトメッセージやリアクション、実生活でのつきまとい等を禁止します。
弁護士に相談・依頼するメリット
特定後の和解交渉は、被害者自身で行うことも可能ですが、実際には弁護士に依頼することで得られるメリットが大きく、結果に大きな差が生じます。
1. 相手方が交渉に応じやすくなる(本気度の伝達)
個人名で「損害賠償を請求します」と連絡しても、加害者は「どうせ訴えられないだろう」「無視すれば諦めるだろう」と高を括ることがあります。
しかし、「弁護士法人長瀬総合法律事務所 弁護士〇〇」の名義で、法的根拠に基づいた通知書が届けば、相手は事の重大さを認識し、「裁判を避けるために話し合いに応じなければならない」と考える契機になることが期待できます。
2. 感情的な対立を防ぎ、冷静な交渉が可能
被害者自身が交渉を行うと、どうしても過去の投稿内容に対する怒りや悲しみが蘇り、感情的な言葉の応酬になりがちです。その結果、話がまとまらず決裂してしまうリスクが高まります。
弁護士が代理人となることで、感情を排した冷静な交渉が可能となり、相手の反論に対しても法的な正当性を持って反論できるため、主導権を握りやすくなります。
3. 「将来の不安」を解消する合意書の作成
ネットトラブルの解決において懸念すべき事項は「再発」です。
安易に作成した簡単な合意書では、抜け穴があったり、違反時のペナルティが不明確だったりすることがあります。弁護士は、将来にわたって被害者を守るための条項(違約金の設定、間接的な言及の禁止など)を網羅した合意書を作成し、解決を実現します。
まとめ
投稿者の特定に成功した後は、いかにして「納得のいく解決」を勝ち取るかが焦点となります。
和解交渉は、裁判よりも柔軟かつ迅速な解決が期待できる手段ですが、相手(誹謗中傷の加害者)との駆け引きが必要となる難しいプロセスでもあります。
- 裁判基準以上の賠償金を回収できるか。
- 心からの謝罪文を引き出せるか。
- 二度と繰り返させないための楔(くさび)を打ち込めるか。
これらはすべて、交渉の戦略と法的知識にかかっています。
特定という大きな山を越えたからこそ、最後の一歩で妥協せず、確実な被害回復を目指しましょう。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、特定手続きからその後の損害賠償請求、示談交渉に至るまで、被害者の方に寄り添い、最良の結果を得るためのサポートを行います。
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情報に関するトラブルは、方針決定や手続の選択に複雑かつ高度な専門性が要求されるだけでなく、迅速性が求められます。誹謗中傷対応に傾注する弁護士が、個人・事業者の皆様をサポートし、適切な問題の解決、心理的負担の軽減、事業の発展を支えます。
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