はじめに

ネット誹謗中傷の加害者が特定された後、被害者の方が直面する最大の選択肢は「裁判(訴訟)をするか」それとも「話し合い(示談)で済ませるか」という点です。

テレビドラマなどのイメージから、「法的な決着=裁判」と思われがちですが、実際の実務においては、裁判まで行かずに「示談」で解決するケースの方が圧倒的に多いのが現実です。

なぜ、あえて裁判を選ばないのか。それは、被害者にとって「時間」「費用」「精神的負担」、そして「最終的な受取額」の面で、示談の方がメリットが大きい場合が多々あるからです。

本記事では、「示談」と「和解」の法的な意味や違い、そして裁判をせずに解決を目指す具体的なメリットについて解説します。

Q&A:「示談・和解」に関するよくある質問

Q1. 「示談」と「和解」は何が違うのですか?

実質的にはほぼ同じ意味です。

一般的に、裁判所を通さずに当事者同士の話し合いで解決することを「示談」と呼びます。一方、民法上の正式名称は「和解(和解契約)」です。

また、すでに裁判が始まった後に、裁判官の仲介で話し合って解決することを「裁判上の和解」と呼びます。どちらも「互いに譲歩して争いをやめる」という点では同じです。

Q2. 裁判をしないと、慰謝料は安くなってしまいますか?

むしろ、裁判をするより高額になるケースも多くあります。

裁判の判決では「相場」という厳格な基準が適用されますが、示談には上限がありません。加害者が「会社や家族に知られたくない」「刑事告訴だけは避けてほしい」と強く望む場合、口外禁止条項(秘密を守る約束)などを条件に、相場を大きく上回る解決金が支払われることがあります。

Q3. 口約束での示談でも大丈夫ですか?

絶対に避けるべきです。

「後で払うと言ったのに払わない」「一度解決したはずなのに、また蒸し返された」といったトラブルを防ぐため、必ず合意内容を書面(示談書・合意書)に残す必要があります。特に「清算条項(これ以上はお互いに何も請求しないという約束)」を入れることは不可欠です。

解説:「示談」による解決の仕組みとメリット

ここでは、裁判(判決)と比較した際の、示談交渉による解決のメリットを4つの視点から解説します。

スピード解決(期間の短縮)

裁判は非常に時間がかかります。提訴から判決まで、早くても半年、長ければ1年以上かかることも珍しくありません。

一方、示談交渉であれば、双方が合意さえすればその日で解決します。

  • 裁判の場合: 6ヶ月〜1年以上
  • 示談の場合: 最短数日〜2、3ヶ月

早期に解決することで、いつまでも事件のことを考え続けなければならないストレスから早く解放されるという、精神的なメリットはとても大きいといえます。

柔軟な解決内容(オーダーメイドの合意)

裁判の判決は、基本的に「被告は原告に対し金〇〇万円を支払え」という金銭命令と、「投稿を削除せよ」という命令が出るのみです。

しかし、示談であれば、当事者間の合意で自由な条件を設定できます。

  • 謝罪: 「謝罪文を書き、自身のSNSに掲載する」「直接会って謝罪する」といった条件。
  • 口外禁止: 「今回の件を第三者(家族や会社含む)に漏らさない」という条項。
  • 接触禁止: 「今後一切、被害者に関わらない、SNSを見ない」という約束。
  • 再発防止: 「違反した場合は違約金を支払う」というペナルティ条項。

このように、お金以外の面でも被害者が納得できる形での解決を図れるのが示談の強みです。

プライバシーの保護

裁判は原則として「公開」されます。誰でも法廷に入って傍聴できますし、判決文や事件記録は閲覧可能です。そのため、ネットニュースなどで事件が報じられ、被害者が特定されてしまうリスク(二次被害)がゼロではありません。

一方、示談は完全にプライベートな契約です。示談書に「口外禁止条項」を盛り込むことで、事件の存在自体を秘密裏に処理し、誰にも知られずに解決することが可能です。

確実な回収(支払い能力の考慮)

実はもっとも重要なのがこの点です。

裁判で勝訴判決を得ても、相手が「金がないから払わない」と開き直れば、そこから強制執行(差押え)の手続きが必要となり、相手に財産がなければ結局1円も回収できないリスクがあります。

示談の場合、相手が「支払える範囲」で金額を設定したり、「分割払い」を認めたりすることで、相手に「任意に支払わせる」約束を取り付けます。無理やりにでも判決を取るより、結果として現実に手元に入るお金が多くなるケースは少なくありません。

刑事告訴とのバーター(取引)

誹謗中傷が悪質な場合、被害者は警察に「刑事告訴」をすることができます。加害者にとって、逮捕や前科がつくことは社会的死を意味しかねません。

そのため、「刑事告訴を取り下げる(または告訴しない)」ことを条件として提示することで、加害者から有利な条件(高額な示談金など)を引き出しやすくなります。これは裁判では使えない、示談交渉特有のカードです。

示談交渉の流れ

一般的な示談交渉は以下のように進みます。

  1. 通知書の送付
    弁護士から内容証明郵便などで、「損害賠償請求および示談の申し入れ」を送ります。
  2. 交渉開始
    加害者本人、または加害者の代理人弁護士と、金額や条件(削除、謝罪、口外禁止など)についてすり合わせを行います。
  3. 合意・示談書作成
    話がまとまれば、「示談書(和解契約書)」を作成し、双方が署名・押印します。
  4. 解決金の入金
    約束の期日までにお金が振り込まれます。
  5. 解決
    入金確認後、必要に応じて告訴の取り下げや、データの完全削除確認を行い、終了となります。

弁護士に示談交渉を依頼するメリット

「話し合いなら、自分でもできるのでは?」と思われるかもしれませんが、以下の理由から弁護士への依頼もご検討ください。

冷静かつ有利な交渉

加害者を前にして冷静でいられる被害者は稀です。感情的になって決裂したり、逆に相手に丸め込まれて不利な条件(低すぎる金額など)で合意させられたりするリスクがあります。弁護士は、法的妥当性を武器に、感情を排して最大限有利な条件を引き出します。

「無効にならない」示談書の作成

ネット上の雛形を使った自己流の示談書では、法的に重要な条項が抜けていることがよくあります。

  • 「清算条項」がないため、後から追加請求されてトラブルになる。
  • 違反した場合のペナルティ(違約金)が定まっておらず、約束が破られても対処できない。

弁護士は、将来の紛争を完全に封じるための、完璧な示談書を作成します。

加害者と会わなくて済む

これが最大のメリットかもしれません。示談交渉の場に被害者本人が出て行く必要はありません。やり取りは弁護士が窓口となるため、ストレスの原因である加害者と関わることなく解決できます。

まとめ

裁判をせずに「示談」で解決することには、多くのメリットがあります。

  • 早い: 数ヶ月で解決し、精神的負担から解放される。
  • 柔軟: 謝罪や口外禁止など、金銭以外の条件も付けられる。
  • 秘密: 事件を公にせず、プライバシーを守れる。
  • 実利: 相手の弱み(刑事処罰への恐怖など)交渉材料にすることで、裁判相場以上の金額を得られる可能性がある。

もちろん、相手が事実を認めない場合や、提示額があまりに低い場合は、毅然として裁判に進むべきです。しかし、まずは「示談による有利な解決」を模索することが、被害者にとって最も負担の少ない選択肢と言えるでしょう。

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