はじめに
経営危機に陥った企業が事業再生を成功させるには、金融機関からのリスケだけでなく、スポンサーや投資家を見つけて新規資金を投入してもらうことが欠かせないケースが多いです。スポンサー企業が業務提携や増資の形で参画することで、資金だけでなく経営ノウハウや販路、ブランド力を得られるメリットがあります。ただし、交渉の際には企業価値評価や出資条件、議決権など多くの争点が生じるため、専門家のサポートが重要です。
本記事では、スポンサー・投資家探しを進めるうえで留意すべきポイントや、資金調達手段(増資・社債・ABLなど)の選択肢を解説します。再生企業の視点はもちろん、投資家側のニーズを理解しながら対等な交渉を行い、Win-Winの関係を築く方法を学びましょう。
Q&A
Q1:スポンサーと投資家は同じ概念ですか?
一般的にスポンサーという用語は、経営危機に陥った企業を再建するために資金支援や事業面の支援を提供する企業やファンドを指します。スポンサーは事業面でのシナジーを狙うことが多く、筆頭株主になる場合もあれば、業務提携を行うケースもあります。一方、投資家は純粋にリターンを目的に出資する立場で、必ずしも事業連携を伴わないこともあります。ただし、実務では両者の線引きが曖昧な場合も少なくありません。
Q2:スポンサー探しを行う際に企業はどんな準備をすべきでしょうか?
主に下記の準備が必須です。
- ビジネスモデルや財務状態の開示資料
売上推移、損益計画、資金繰り表、顧客リストなど、現状と将来性を説得するデータ。 - 再建計画
どのように負債処理やコスト削減、売上拡大を実行して復活するのか、具体的なシナリオを明示。 - 企業価値評価
スポンサーが出資する際の基準となるため、DCFなどで算定し、適正な株式価格や出資比率を交渉する素地を準備。 - 法的リスクの確認
担保や債務保証、訴訟リスクなどを洗い出し、スポンサーに不測の負担が及ばないよう整理する。
Q3:資金調達の方法にはどんなものがありますか?
- 増資(株式発行)
スポンサーや投資家に株式を引き受けてもらい資金を得る。議決権や配当設定などの条件を交渉。 - 社債発行
公募や私募により社債を発行し、資金を調達。信用力が低い場合は困難。 - ABL(Asset Based Lending)
在庫や売掛金などの動産・債権を担保に融資を受ける。事業再生の橋渡しとして利用される。 - M&A
スポンサー企業に一部または全部株式を譲渡し、資本注入を受ける。 - ファンド投資
投資ファンド(VC・PEファンドなど)から出資を受ける。将来的なExit戦略(株式売却、IPO)を踏まえた交渉が多い。
Q4:スポンサーとの交渉で注意すべき点は?
- 出資条件と経営権
スポンサーが過半数株式を取得する場合、現経営陣の権限はどうなるかを明確化。 - 経営方針の調整
再建計画の方向性や事業戦略が一致しているか事前にしっかり合意する。 - 優先株・議決権設定
投資家側が優先株式を要求する場合、配当・清算優先などの条件を慎重に検討。 - 表明保証条項
企業側の不正や隠れ債務などが後から発覚した際の責任範囲を明示し、紛争を防ぐ。
解説
スポンサー・投資家探しの方法
- 金融機関・取引先の紹介
- メインバンクや顧問会計士・弁護士、取引先が再生支援に興味ある企業を紹介してくれる場合がある。
- 業界内でシナジーを期待できる企業がスポンサー候補になることが多い。
- M&A仲介会社・投資銀行
- M&Aブティックや証券会社などが企業価値評価を行い、買収希望の企業やファンドにマッチングする。手数料がかかるが幅広い選択肢を得られる。
- 再建途中でのM&Aは難易度が高いが、うまく合意できれば大幅に負債整理が可能。
- 公的支援機関
- 事業再生支援を行う公的機関(地域経済活性化支援機構、中小企業再生支援協議会など)がスポンサー候補探しをサポートしてくれる場合もある。
- 地域の自治体や商工会議所が協力する事例もある。
投資家との出資契約や投資契約
- 投資契約の主要条項
- 投資額・株式比率
いくらの出資で何%の株式を取得するか。 - 優先株か普通株か
清算時・配当時の優先順位、議決権などを設定。 - 表明保証条項
企業が提示する財務・法務情報が正確であることを保証し、違反時には賠償責任などを定める。 - Exit戦略
投資家がいつどのように株式を売却(IPO、バイアウトなど)するかを規定。
- 投資額・株式比率
- 経営権と取締役選任
- 投資家が一定比率以上を取得する場合、取締役会の過半数を指名する権利を要求することもある。
- 経営者が続投を希望するなら、議決権や取締役任免権のバランス調整が必要。
- 表明保証保険
- 大型の投資契約では表明保証保険(R&W保険)を導入し、万一企業側の表明に虚偽があっても一部保険でカバーできる仕組みを取り入れる場合もある。
資金調達スキームの選択肢
- 新株発行(増資)
- 株式を発行し投資家やスポンサーに引き受けてもらう。企業価値評価を基準に株価を決定し、出資額を会社に払込むことで資本増強。
- 負債返済ではなく、純資産が増えるため財務健全化。既存株主の持分希薄化に留意。
- 社債発行
- 社債を発行して投資家から資金を集める。信用力や格付がないと引受手が限られるが、株式を売却したくない場合の選択肢に。
- 金利や償還条件を設定し、償還期限までに返済しないとデフォルトとなる。
- ABL(Asset Based Lending)
- 在庫や売掛債権などを担保として融資を受ける。企業に評価可能な動産や売掛があれば資金調達手段となり、法的再建中でも活用する例が増加。
- 担保管理が複雑化する可能性あり、専門業者や銀行との協議が必要。
- 融資以外の手段
- クラウドファンディングや投資型クラウドファンディング、PFIスキームなど新たな資金調達モデルも。
- ただしリスク説明や法令遵守(金融商品取引法など)をしっかり行うことが重要。
注意点
- スポンサーや投資家側にもリスクがあり、デューデリジェンスで不正や潜在負債が見つかると交渉決裂の可能性がある。
- 経営陣とスポンサーがビジョンを共有できないまま契約すると、経営方針の衝突で再建失敗に至るリスク。
弁護士に相談するメリット
- 企業価値評価と投資契約設計
- M&Aアドバイザーや公認会計士と連携し、企業価値を客観的に算定。スポンサーや投資家との交渉で納得感ある株価設定を行う。
- 投資契約で優先株や表明保証、役員人事など複雑な条件をリーガルに整理し、両者が納得できる文案を起案。
- 法的リスク洗い出し
- 潜在的な訴訟リスクや未払債務、担保の状況などを調査し、投資家に正確な開示をサポート。
- 必要に応じて表明保証保険を検討し、不測の負担を軽減する仕組みを提案。
- 交渉代理・ドキュメンテーション
- 企業がスポンサー企業や投資ファンドと協議するとき、弁護士が代理として契約条件を調整。
- 契約締結後の追加出資やオプション行使などのフォローアップも含め、一貫した法務支援を提供。
- 再編・倒産法との連携
- もし企業が民事再生や会社更生手続きを進める中でスポンサーを探すなら、弁護士がスポンサー選定や計画案への組み込みを円滑化。
- 私的整理と併用する場合にも包括的戦略を設計し、企業の再建を成功に導くサポートを行う。
まとめ
- 経営危機においてスポンサー・投資家を探すことは、資金面やノウハウ面で企業再建の大きな原動力となるが、出資条件や経営権などの交渉が難航する場合が多い。
- 企業側は十分な情報開示や再建計画の策定、公正な株式評価を示すことで投資家の信頼を得やすくなる。一方、投資契約では議決権配分や優先株の設定など複雑な条項が出やすく、専門家のサポートが重要。
- 資金調達方法としては増資、社債、ABLなど多様な選択肢があり、企業の状況やリスク特性に応じて組み合わせることで最適な結果を狙う。
- 弁護士と協力することで、投資契約やスポンサー契約におけるリスクを整理し、将来の紛争を防ぎながら再建成功の道を切り開ける。
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