はじめに
企業が銀行等の金融機関から借入を行っている場合、業績不振や資金繰り悪化が続くと、毎月の返済や利息負担が重くのしかかり、経営再建が困難になる可能性があります。そこで利用される手法がリスケジュール(リスケ)です。これは、金融機関に返済条件の変更(元本返済の猶予、返済期間の延長など)を要請し、キャッシュアウトを一時的に抑えながら経営改善を図るもの。
一方で、リスケ交渉が不調に終わると、金融機関が貸出金を回収すべく強制執行を行うリスクもあるため、交渉方法が非常に重要です。本記事では、金融機関とのリスケ交渉を成功させるための準備や手順、事業再生計画の作成ポイントなどを解説します。
Q&A
Q1:リスケとは具体的に何をするのですか?
リスケジュール(リスケ)は、金融機関との間で借入返済条件を改めて設定し直すことを指します。たとえば、「元本返済を1年間据え置き、利息だけ払う」「返済期間を5年から10年に延ばして月々の返済額を減らす」などが典型です。これによりキャッシュ流出を抑え、経営再建のための時間を稼ぐメリットがあります。
Q2:金融機関はなぜリスケに応じてくれるのでしょうか?
金融機関としても、借手が倒産してしまえば回収率が大幅に下がるリスクがあります。リスケによって会社が再建し債務を完済できる見込みが高いなら、単純に破綻させるより金融機関にとってもメリットがあるのです。ただし、リスケする際は、再生計画の説得力や経営者の本気度が重要で、これが曖昧だと金融機関は難色を示します。
Q3:リスケ交渉を進める際に、どんな準備が必要でしょうか?
主に以下の準備が要となります。
- 財務資料の整備
最新の貸借対照表・損益計算書や試算表、将来のキャッシュフロー計画などを用意し、金融機関に説明。 - 事業再建計画
具体的な改善策(コスト削減、販路拡大、新規事業など)やスケジュール、利益予測を作成し、リスケ終了後の返済可能性を示す。 - 経営陣の意志表明
返済を放棄するわけではなく、あくまで時期や金額を調整して再建を目指す姿勢を示すことが大切。保証協会付き融資や他金融機関との連携状況にも注意。
Q4:リスケが難航した場合、会社はどう対処すべきですか?
リスケ合意が得られないと、金融機関が貸付金を一括返済請求してくるリスクがあり、最悪の場合は差押えや担保実行に進む恐れもあります。その場合、私的整理を他の債権者含めて交渉したり、民事再生など法的整理に移行する検討が必要です。いずれにしても早期に弁護士などと相談し、法的手段も視野に入れた再建策をまとめるのが良策です。
解説
リスケ交渉の基本フロー
- 現状分析と準備
- 経理・財務担当が最新の試算表や資金繰り表、負債一覧をまとめ、債権者(主に銀行)の数や債務額を把握。
- 経営陣・役員会で再建の必要性を認識し、再建計画(収益改善策やコスト削減策)を策定。
- 金融機関との面談
- 主たる取引銀行(メインバンク)と面談し、元本返済猶予や返済期間延長の案を提示。利息支払いは継続するパターンが多い。
- 金融機関側の意見を聴き、追加資料や経営者個人保証の見直しなど、交渉材料を洗い出す。
- 合意書(覚書)の締結
- 交渉が進めばリスケ合意書または覚書を作成し、返済スケジュールや利息率を明記。定期的なモニタリング報告を義務づけられることもある。
- 必要に応じて他の金融機関(サブバンク)も同意を得るよう調整し、返済条件をそろえる。
- 事業再生計画の実行
- リスケ期間中に改善策を実行し、キャッシュフローを改善して収益回復を狙う。目標に到達できない場合、再度交渉や法的整理に移行する可能性がある。
リスケ成功のポイント
- 誠実な情報開示
- Financial statementsや今後の事業計画を丁寧に説明し、問題点を隠さず透明性を示すと、金融機関からの信頼を得やすい。
- 過去の粉飾や不明瞭会計が発覚すれば交渉は難航。誠実に開示し改善を約束する姿勢が大切。
- 現実的な再建計画
- 机上の空論では銀行は信用しない。コスト削減策や売上見込みが実行可能かどうか、根拠を示し説得。
- 役員報酬カットや社長の個人財産投入など、経営陣が痛みを共有する姿勢を示すのも重要。
- 早期相談
- 支払が回らなくなる直前に駆け込むと、銀行も対応が難しい。債務不履行に至る前のなるべく早い段階で相談すれば交渉の幅が広がる。
- 定期的に試算表を提出し、マメに連絡を取り合うと「変わろう」という意欲が伝わる。
- 複数行の同意調整
- 複数の銀行がある場合、メインバンクだけ合意しても他行が同意せず破談になるリスクあり。同時並行で交渉し、合意内容を統一する必要がある。
- 事業再生ADRを利用すれば、第三者機関が一括調整してくれるためスムーズに進む場合が多い。
私的整理ADRとの比較
- 事業再生ADRの仕組み
- 中立機関(全国銀行協会のADR委員会など)が仲介役となり、借入先企業と金融機関を集めて同時協議。裁判所を通さず私的整理を円滑化する制度。
- 各金融機関は原則参加し、同意を目指す。全員一致が原則だが、調整が難しい場合でも仲介が入り合意を取りつけやすいメリットがある。
- 通常のリスケとの違い
- 通常のリスケは個別行ごとの交渉がメイン。ADRは複数行を同時に話し合いに呼び込み、時間短縮と公正さを担保。
- 手続き費用や書類準備が必要だが、公開手続きではないため、裁判所を使う法的整理に比べれば信用不安が小さい。
トラブル事例
- リスケ後の経営努力不足で失敗
- 銀行が元本返済猶予を認めたが、経営陣が十分な改善策を行わず売上が伸びず、再度資金難に陥り結局民事再生を申立。
- 対策:リスケ合意の際にはKPIを設定し、定期的に進捗報告を行い、業績が悪化する前に追加対策を打つ。
- 主要行は同意したがサブバンクが拒否
- 複数の主要銀行がリスケに応じたが、サブバンクが抵抗して保証協会に代位弁済を要請。結果的に保証協会が取り立てに回り破談。
- 対策:全金融機関を同時に交渉のテーブルにつける、事業再生ADRを活用するなど一括調整を図る。
- リスケ情報が外部漏洩で信用不安
- リスケ中であることが取引先に漏れ、商談がキャンセルされるなど売上が急減。結果的に再建が難しくなる悪循環に。
- 対策:情報管理を徹底。社内でも最小限の関係者に限定し、銀行にも秘密保持を求める。やむを得ず公表する場合もタイミングを計る必要がある。
弁護士に相談するメリット
- 再建計画書・財務資料作成支援
- 経営者と協力して事業再生計画を策定。コスト削減や事業整理の具体策、売上増シナリオなどを論理的にまとめ、金融機関を説得できる書類を作る。
- 証拠に基づいた現実的な数字を示すことで、リスケ合意の可能性が高まる。
- 交渉代理・事業再生ADR活用
- 弁護士が銀行団との直接交渉や事業再生ADR申立を代理。各金融機関の担当者に一貫した説明を行い、混乱を防ぎながら早期合意を目指す。
- 場合によっては必要な追加担保や保証条件を調整し、過度な負担がないよう交渉。
- 私的整理から法的整理への移行検討
- リスケが困難になった場合や、全金融機関の同意が得られない場合、民事再生や会社更生を視野に入れる。申立準備やスポンサー探しまで包括的に助言。
- 企業の実態に合わせ最適な手続き選択を行い、会社の存続・債権者の回収を両立するシナリオを提示。
- アフターサポート
- リスケ後の経営改善モニタリングにも伴走し、当初計画から乖離が出た際の追加交渉や、継続的な法務リスク管理を継続支援。
- 必要に応じて内部統制強化やコンプライアンス体制の整備を提案し、再度の危機を未然に防止。
まとめ
- リスケジュール(リスケ)は、金融機関との返済条件変更により経営改善の時間を確保する私的整理手法であり、元本返済猶予や利率変更を行う一方、全債権者の同意を得る必要がある点が難しく、交渉力が鍵となる。
- リスケが成立すれば倒産回避につながるが、経営改善の実行力が乏しければ再度資金難に陥り法的整理に移行するリスクが残る。
- 法的整理(民事再生・会社更生)とは違い、非公開で柔軟に条件を設定できるのが利点だが、強制力に乏しいため不合意になりやすいデメリットも。
- 弁護士が介入すれば、金融機関との交渉を一括して行い、実行力ある事業再生計画を立案し、リスケ後のフォローアップまで専門的サポートを受けられる。
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