はじめに

「ネットの悪口なんて、いちいち相手にするだけ無駄。無視するのが一番だよ」

ネット上で誹謗中傷の被害を相談したとき、友人や知人からこのようにアドバイスされた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。確かに、一過性の「荒らし」行為などに対しては、「反応しないこと(無視)」が有効な場合もあります。

しかし、この「無視が一番」という言説を鵜呑みにし、悪質な誹謗中傷を安易に放置してしまうと、事態が沈静化するどころか、あなたの人生やビジネスに深刻かつ取り返しのつかないダメージを与えてしまう危険性があります。

この記事では、「無視」という対応の有効性と限界を明らかにし、誹謗中傷を放置した場合に起こりうる重大なリスクと、放置せずにすぐ弁護士に相談すべきケースの判断基準について解説します。

Q&A

Q1. SNSで一度だけ「きもい」と書かれました。腹は立ちますが、これくらいなら無視しても大丈夫ですよね?

はい、その書き込みが単発のものであり、ご自身の個人情報などが含まれておらず、実生活に影響が出ていないのであれば、「無視する」というのも一つの有効な選択肢です。相手は単なる気まぐれや「荒らし」目的の可能性があり、反応せずに静観することで、相手が飽きて自然と収まることが期待できます。ただし、同じ相手から執拗に繰り返される場合や、他の人も同調して攻撃が広がるような場合は、放置すべきではありません。

Q2. 最初は些細な悪口だったので放置していたら、内容がエスカレートし、他のサイトにも拡散されてしまいました。今からでも対処できますか?

放置した結果、被害が拡大してしまったのですね。今からでも対処できる可能性は十分にありますが、放置する前と比べて、解決のための労力や時間がより多くかかる可能性があります。拡散された投稿を全て削除するには、複数のサイトに個別に請求する必要があります。また、時間が経過すると投稿者を特定するための重要な情報(ログ)が消えてしまうリスクも高まります。被害の拡大に気づいた時点で、一刻も早く弁護士に相談し、これ以上の拡散を防ぐための対策を講じることが重要です。

Q3. 半年以上前に書かれた会社の悪評を今になって発見しました。もう時間が経ちすぎているので、法的措置は取れないのでしょうか?

時間の経過は、法的措置を取る上で不利に働く可能性があります。特に、投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」は、プロバイダがログ(通信記録)を保存している期間内に行う必要があります。半年以上経過していると、このログがすでに消去されている可能性があり、投稿者の特定は困難になるかもしれません。ただし、サイトによってはログが長く保存されている場合もありますし、削除請求自体は可能なケースもあります。諦めてしまう前に、一度弁護士に相談し、今からでも取れる手段がないか検討することをお勧めします。

解説

なぜ「無視が一番」と言われるのか?その理由と限界

そもそも、なぜ誹謗中傷に対して「無視」が有効な対策として語られるのでしょうか。その主な理由は以下の通りです。

  • 相手を利するだけだから
    いわゆる「荒らし」は、相手の反応を見て楽しんでいます。無視を貫くことで、相手は手応えのなさに飽きて、攻撃をやめることがあります。
  • 炎上を避けるため
    下手に反論すると、それが新たな燃料となってしまい、事態がさらに燃え広がる「炎上」のリスクがあるからです。
  • 自然に風化することを期待する
    インターネット上の情報は日々膨大に更新されるため、軽微な書き込みであれば、時間の経過とともに人々の関心から外れ、忘れ去られることもあります。

このように、「無視」は、影響が軽微で、一過性の嫌がらせに対しては、確かに有効な場合があります。

しかし、その限界も明確に認識しておく必要があります。個人の名誉やプライバシーを著しく侵害するような悪意のある投稿や、企業の評判を貶める目的で計画的に行われる誹謗中傷に対して、「無視」は全くの無力です。それどころか、加害者に「何をしても許される」という誤ったメッセージを与え、事態をさらに悪化させることにつながります。

放置する5つの重大なリスク

悪質な誹謗中傷を「そのうち消えるだろう」と安易に放置すると、以下のような深刻なリスクが生じます。

リスク1:情報の拡散と「デジタルタトゥー化」

一度ネット上に公開された情報は、あなたが放置している間に、他の掲示板やSNS、まとめサイトなどにコピー&ペーストされ、瞬く間に拡散していきます。一度拡散してしまうと、全ての情報を完全に削除することは不可能に近くなり、半永久的にネット上に残り続ける「デジタルタトゥー」となってしまいます。

リスク2:社会的信用の失墜と実生活への悪影響

放置された誹謗中傷が事実であるかのように受け取られ、あなたの社会的信用が著しく損なわれる可能性があります。

  • 個人
    友人関係の悪化、就職・転職活動での不採用、結婚の破談など。
  • 企業
    売上の減少、顧客離れ、取引停止、採用活動の困難化、株価の下落など。

リスク3:深刻な精神的苦痛

誹謗中傷の投稿がネット上に存在し続ける限り、あなたは「また誰かに見られているのではないか」という不安に苛まれ続けます。終わりの見えないストレスは、不眠やうつ病など、心身の健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。

リスク4:法的措置が「手遅れ」になる

誹謗中傷への法的措置には、多くの場合「時間制限」があります。

  • ログの保存期間
    投稿者を特定するための通信記録(IPアドレスログ)は、プロバイダによって異なりますが、一定期間で消去されてしまいます。この期間を過ぎると、投稿者の特定は絶望的になります。
  • 損害賠償請求の時効
    不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として「被害者が損害及び加害者を知った時から3年」で時効により消滅します。
  • 刑事告訴の時効
    名誉毀損罪や侮辱罪(2022年の厳罰化以降)の公訴時効は「3年」です。

放置すればするほど、取れる選択肢はどんどん狭まっていくのです。

リスク5:誹謗中傷行為のエスカレート

被害者が何も対応してこないことを見た加害者は、「この相手なら何を言っても大丈夫だ」と増長し、さらに悪質で執拗な攻撃を加えてくる危険性があります。最初は些細な悪口だったものが、個人情報の暴露や家族への攻撃など、より深刻な被害に発展するケースも少なくありません。

【判断基準】無視せず、すぐに対処すべきケース

では、どのような書き込みを発見した場合に、「無視」という選択肢を捨てて、すぐに行動を起こすべきなのでしょうか。以下のいずれかに該当する場合は、放置せず、速やかに専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

  • 実名、住所、電話番号、勤務先、顔写真など個人情報が晒されている場合(プライバシー侵害)
  • 「〇〇は前科持ちだ」「〇〇は不倫している」など、社会的評価を低下させる具体的な嘘を書かれている場合(名誉毀損)
  • 「殺すぞ」「お前の家族に危害を加える」など、生命・身体・財産への危険を感じる内容の場合(脅迫)
  • 「あの店の食品は腐っている」など、企業や店舗の信用を毀損し、営業を妨害するような嘘を流されている場合(信用毀損・業務妨害)
  • 単発ではなく、執拗に、継続的に誹謗中傷の投稿が繰り返されている場合
  • 複数のアカウントや複数のサイトを使って、計画的に誹謗中傷が行われている場合
  • すでに売上減少や内定辞退など、現実世界で具体的な被害が発生している場合

これらのケースでは、放置しても事態が自然に好転することは期待できません。むしろ、時間が経つほど状況は悪化していきます。

弁護士に相談するメリット

「このケースは放置していいのか、対処すべきか」という判断に迷ったときこそ、弁護士に相談する価値があります。

  1. 客観的なリスク判断
    あなたの状況を法的な観点から分析し、その誹謗中傷を放置した場合に起こりうるリスクの大きさや、対処すべきか否かの緊急性を客観的に判断します。
  2. 迅速な対応
    ログの保存期間や時効といった時間的制約を熟知しているため、対処すべきと判断した場合には、手遅れになる前に、迅速に削除請求や開示請求などの法的手続きに着手できます。
  3. リスクをコントロールした解決策の実行
    被害者自身が行動すると炎上しかねないようなデリケートな事案でも、弁護士であれば、水面下での交渉など、リスクを最小限に抑えながら問題解決を図るためのノウハウを持っています。
  4. 根本的な解決と再発防止
    単に投稿を削除するだけでなく、投稿者を特定して損害賠償を請求し、さらに「今後一切誹謗中傷を行わない」という誓約書を取り付けるなど、問題の根本的な解決と将来的な再発防止までを目指すことができます。

まとめ

「ネットの誹謗中傷は無視が一番」という言葉は、ごく一部の軽微なケースにしか当てはまらない、危険な思い込みです。悪質な誹謗中傷を放置することは、デジタルタトゥー、信用の失墜、精神的苦痛、法的措置の困難化、被害のエスカレートという、数多くの深刻なリスクを自ら招き入れる行為に他なりません。

特に、あなたの個人情報や、社会的評価に関わる具体的な嘘、脅迫的な文言が含まれている場合は、「無視」という選択肢は最善とは限りません。

「これは少しまずいかもしれない」と感じたら、その直感を検証しましょう。手遅れになり、取り返しのつかない事態に陥る前に、ぜひ一度、私たち弁護士にご相談ください。あなたと、あなたの大切なものを守るため、専門家として最善の道を提示します。

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