はじめに
企業が従業員を解雇する際、懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇など、その種類や要件によって法的ハードルが異なります。なかでも懲戒解雇は最も重い処分であり、裁判所の審査が非常に厳しいため、要件を満たさないと解雇無効と判断されるリスクが高くなります。また、諭旨解雇や普通解雇においても、解雇権濫用が認められると企業が大きなダメージを負う可能性があります。
本記事では、それぞれの解雇形態の要件や法的リスク、実務上の注意点などを、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。
Q&A
Q1:懲戒解雇と諭旨解雇の違いは何ですか?
懲戒解雇は企業の秩序や信用を著しく損なう重大な違反行為に対して行われる、最も重い懲戒処分であり、一般的に退職金の不支給や失業保険の給付制限など被処分者に大きな不利益を伴います。
一方、諭旨解雇は懲戒解雇と同等の重大な違反行為があった場合でも、企業が「自発的に退職届を提出するなら懲戒にはしない」という形で自己都合退職の形をとらせる処分です。退職金の全額または一部が支給されるなど、懲戒解雇よりは若干の救済措置が設けられるのが一般的です。
Q2:普通解雇はどんな場合に可能でしょうか?
普通解雇とは、業務上の能力不足や健康上の理由などを根拠とした解雇であり、懲戒とは異なり「制裁の意味」は含みません。
ただし、日本の労働法制では解雇に際して「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められるため、能力不足などを理由に解雇する際は改善指導や教育研修の機会を十分与えていたかがポイントになります。突然の解雇は解雇権濫用と判断される可能性が高いです。
Q3:懲戒解雇には解雇予告手当は不要なのでしょうか?
労働基準法上、解雇予告手当は基本的に全ての解雇に適用されますが、労働基準法20条が定める例外要件を満たした懲戒解雇の場合には、解雇予告手当を支払わなくても良いとされています。
具体的には、「労働者の責に帰すべき事由で、金銭補償の必要がないほど悪質」といった要件を満たす必要があり、行政官庁(労働基準監督署)への認定申請や「解雇予告除外認定」が必要となる場合もあります。
ただし、この要件は非常に厳格に判断され、実務上は解雇予告手当を支払わずに済むほどの重大違反と認められるケースは稀です。
Q4:解雇した後、従業員が不服を申し立て、解雇無効となるリスクがあると聞きましたが?
解雇は企業にとって最終手段として扱われ、法的にも解雇権濫用法理が強く働いています。従業員から「不当解雇だ」と労働審判や訴訟を提起され、最終的に解雇無効判決が出ると、解雇期間中の賃金相当額の支払いが命じられる場合もあります。
そのため、解雇を行う際は、事前の指導・警告、改善の機会の付与が十分に行われ、懲戒解雇なら就業規則の懲戒事由に該当し、普通解雇なら能力不足・健康上理由の証拠があるかなどを厳密に確認し、書面化することが重要です。
解説
懲戒解雇の要件と注意点
- 就業規則に明記された懲戒事由
- 懲戒解雇を有効に行うには、事前に就業規則や懲戒規程に「どのような行為が懲戒の対象となり、どの程度の処分を科すか」を明確化しておく必要があります。
- たとえば、横領・暴力行為・セクハラ・機密情報漏えいなど、具体的な事例を列挙し、懲戒解雇に該当し得る範囲を定義しておきましょう。
- 重大な背信行為
- 懲戒解雇は「企業秩序を根本から乱すほどの重大な違反行為」が前提となります。軽微な遅刻やミスだけでは懲戒解雇は厳しすぎると判断され、解雇無効となるリスクが大きいです。
- 裁判所では、処分の相当性(バランス)もチェックされるため、過去の指導歴や注意回数、同種事例との比較などが重要な検討要素となります。
- 手続きの適正化
- 懲戒解雇を行う前に、従業員に対して弁明の機会を与えるなど、手続き的にも公正であることが求められます。
- 懲戒委員会を設置して調査やヒアリングを行い、処分を決定する流れを明文化しておくと、後の紛争時に適正手続きがあったと主張しやすいでしょう。
諭旨解雇の特徴
- 懲戒解雇並みの重い処分
- 諭旨解雇は、懲戒解雇と同等レベルの重大な違反行為があった場合に適用されることが多く、単に「自主退職という形にする」点が違いです。
- 企業は「懲戒解雇になるけれど、自主退職扱いとするなら制裁を軽減する」というオファーを出し、労働者が受け入れれば諭旨解雇となるイメージです。
- 労働者側への救済措置
- 諭旨解雇の場合、退職金が全額または一部支給されるケースが多く、失業保険の給付にも懲戒解雇より有利な扱いがされることがあります。
- その代わり、労働者は企業の提案を受け入れて自主退職届を提出し、将来的な退職後の再就職でのイメージをいくらか軽減できる可能性があります。
- 要注意点
- 諭旨解雇であっても、企業が「退職届を出さないと懲戒解雇にするぞ」と強迫的に迫るような行為があると、無効と判断されるリスクがあります。
- 労働者が自主的かつ納得して退職届を出したことがわかる形を整え、書面や面談記録を残しておくことが肝要です。
普通解雇の要件
- 能力不足・適性欠如の場合
- 従業員が業務に必要な能力を著しく欠き、教育研修や配置転換を施しても改善が見込めず、企業の業務に重大な支障をきたす場合など、合理的理由が認められれば普通解雇が可能となります。
- ただし、突然に解雇するのではなく、指導記録や改善勧告、配置転換などの対応を取った上で、最終手段として解雇に至ったことを立証できるようにしておくべきです。
- 健康上の理由(傷病)
- 業務に支障をきたす傷病で復帰が困難な場合も、普通解雇の対象となることがあります。しかし、休職制度を設けている企業では、その休職期間を十分に経過しても回復が見込めない場合に限られるなど、要件は厳格です。
- 裁判所は「解雇以外の方法がなかったか」も厳しく審査するため、リハビリ出勤や短時間勤務といった代替案を検討した経緯を残すことが望ましいです。
- 経営上の理由(整理解雇)
- 整理解雇は「合理的な人員削減の必要性」や「解雇回避努力」などの要件(いわゆる整理解雇の四要件)が厳しく問われます。本記事では詳細は割愛しますが、普通解雇よりさらにハードルが高いと言えます。
弁護士に相談するメリット
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇を含む解雇全般に関し、以下のようなサポートを提供しています。
- 就業規則・懲戒規程の整備
- 解雇や懲戒処分の事由を具体的に規定し、処分プロセス(懲戒委員会の設置、弁明機会など)を明文化することで、後の紛争リスクを低減します。
- 不備がある就業規則を修正し、法令遵守の観点からアドバイスを行います。
- 解雇事案対応・証拠整理
- 従業員に対する解雇を検討する際、事実調査や証拠収集(メール、監視カメラ映像、面談記録など)を指導し、解雇理由の明確化をサポート。
- 労働審判や訴訟に移行する場合、企業側代理人として適切な立証戦略を構築し、法的主張を展開します。
- 諭旨解雇の実務支援
- 従業員と合意の上で諭旨解雇に移行する際の書面作成(諭旨解雇通知書、合意書など)を法的にチェックし、有効性を高めます。
- 退職届の提出や退職金支給、在職証明書の発行手順など、紛争を防ぐための丁寧なプロセスを提案します。
- 総合的労務コンサルティング
- 解雇以外の手段(配置転換、減給・出勤停止などの懲戒処分、早期退職制度など)も含め、企業の状況に応じた最適な解決策をアドバイス。
- 定期的な就業規則更新や労務監査を通じて、企業が抱えるリスクを継続的に管理し、問題が深刻化する前に手を打つ体制づくりを支援します。
まとめ
- 懲戒解雇は企業秩序を揺るがす重大な違反行為に対する最も重い処分で、要件が非常に厳しく、裁判所の審査も厳格。
- 諭旨解雇は懲戒解雇に準ずる重大事案だが、労働者に自主退職の形を取らせることで、退職金や再就職における影響を若干軽減する方法。
- 普通解雇は能力不足や健康上理由などで行われるが、やはり「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要で、指導・教育・配置転換などの努力が不十分だと解雇無効となるリスクが高い。
- いずれの解雇形態も、労働基準法や労働契約法が定める要件や手続きを満たさない限り無効となる可能性があり、企業は慎重な判断と弁護士の助言が欠かせない。
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