はじめに
美容室や理容室などを新たに開業したいと考えている方にとって、まず押さえておきたいのが、「開業に必要な許認可」や「関連する法律・手続き」です。特に美容室の場合は、美容師法に基づいた美容所開設届の提出や、保健所への手続きなど、多岐にわたる準備が求められます。
また、開業形態についても、「個人事業主として始めるか」「法人を設立して始めるか」といった比較が必要です。どのような形でサロンを開業するにしても、最低限守らなければならない法律や手続きが存在します。
本記事では、サロン開業に必要な主な許認可や関連する法律、具体的な手続きの流れ、そして法人設立を含めた開業準備のポイントについて解説します。サロン開業をスムーズに進めるための基礎知識を身につけていただければ幸いです。
Q&A
ここでは、サロン開業に関して多くの方が疑問に思うポイントをQ&A形式でまとめました。
Q1.サロンを開業するには、必ず美容師免許が必要ですか?
美容師免許を持つ方が開業する場合は、店舗責任者として「管理美容師」の要件を満たす人を配置したり、衛生管理に関する基準を遵守したりする必要があります。一方、代表者自身が美容師免許を持たずとも、適切な人材を雇用し、その人が美容師免許を持ち「管理美容師」として要件を満たすことで開業は可能です。ただし、美容師法上のルールや保健所への届出義務は免れないため、免許の有無にかかわらず注意が必要です。
Q2. 美容所開設届はどのように提出すればよいですか?
美容所開設届は、都道府県や地域の保健所に対して提出します。開設予定の店舗所在地を管轄する保健所に、必要書類を揃えて申請を行う形が基本です。書類の内容としては、「施設の平面図」「従業員名簿」「設備概要」などの提出が求められるケースが多いです。各自治体で求める資料が若干異なる場合があるため、事前に保健所へ確認することをおすすめします。
Q3. 個人事業主で開業と法人で開業、どちらがよいでしょうか?
個人事業主として開業する場合は、開業届を税務署に提出するだけで始められるため、手間や費用が比較的少ないというメリットがあります。しかし、事業資金や負債に関して個人責任を負うリスクが高い点や、法人と比較した場合の信用力・節税対策で劣る点がデメリットになることもあります。
一方、法人設立をして開業する場合は、設立費用(登録免許税・定款認証費用など)がかかるうえ、定款作成や登記といった手続きが必要です。とはいえ、法人としての信用度が高まり、場合によっては融資を受けやすくなるなどの利点もあります。具体的な資金計画や今後の展望によって、どちらがベターかを検討するとよいでしょう。
Q4. 美容所の開業時に注意すべき衛生基準や設備要件は?
美容所として開業する場合、シャンプー台の設置や排水設備、照明・換気、タオルや器具の保管方法など、衛生管理上のルールが美容師法及び関連省令・条例によって定められています。保健所の検査で不備があると、開設届が受理されない可能性もあるため、内装工事の段階から基準をしっかり確認しておきましょう。
Q5. 法人設立する場合と個人事業のまま開業する場合の税制面の違いは何でしょうか?
個人事業主の場合は所得税が課税され、超過累進課税制度が適用されます。一方、法人の場合は法人税が課税されるほか、代表者給与は「役員報酬」として経費計上できます。また、税制優遇や経費計上の範囲が拡大するケースもあるため、事業規模が拡大しそうな場合は法人化するメリットが出てくることが多いです。
ただし、法人の場合は毎年「法人住民税の均等割(地方税)」が課税されたり、決算公告義務や税務申告の手間なども増えます。そのため、自身の事業規模や将来性、資金調達計画などを踏まえた総合的な判断が必要です。
解説
美容所開設届と関連法律の概要
美容所開設届とは
美容所開設届は、「美容師法」に基づき、美容所として営業を開始する前に、管轄の保健所へ提出が義務付けられている届出です。この届出を行わずに事業をスタートすると、違法状態となり罰則を科される可能性があります。
ポイント
- 開業予定日の10日前までの提出が一般的(自治体により異なる場合あり)。
- 「施設の平面図」「美容師免許証の写し(管理美容師の確認)」など、必要書類を同時に提出する。
- 保健所の実地検査(現地確認)を受けることがある。
美容師法の基本的なルール
美容師法には、美容師免許の取得や管理美容師の設置、衛生管理基準などが定められています。サロンを経営する上で重要な規定としては、以下が挙げられます。
- 管理美容師の配置
- 常時2人以上の美容師が働く場合には、管理美容師を置くことが義務付けられている。
- 管理美容師は衛生管理やスタッフへの指導監督など、サロン全体の管理責任を負う。
- 衛生管理基準の遵守
- 器具の消毒やタオルの清潔保管、店舗の換気設備や照明の確保などが義務付けられる。
- 定期的に美容師法に基づく保健所の指導や検査が行われる。
保健所手続きの重要性
保健所は、サロンの衛生環境や安全性を担保するための監督機関といえます。開業前の審査に通らなければ、正式に営業を開始することができません。また、開業後も改善の指示や営業停止などの行政処分が科される場合があります。
保健所に提出する主な書類例
- 美容所開設届出書
- 美容所の構造設備の概要書(平面図、配置図、衛生設備の説明など)
- 従業員名簿、雇用契約書の写し(管理美容師の有無を確認する場合)
- 各種資格証明書(美容師免許、管理美容師資格など)
開業準備の流れ
サロン開業の一般的な流れを簡単にまとめると、以下のようになります。
- 事業計画・資金計画の策定
- 開業資金、運転資金、収支予測などを立てる。
- 融資や助成金を検討する場合は、金融機関や自治体の制度を調べる。
- 物件探し・テナント契約
- 店舗の候補地を決め、賃貸契約やテナント契約を結ぶ。
- 店舗契約時には契約書の内容をよく確認し、更新料や原状回復義務などを明確にする。
- 内装工事・設備準備
- 美容所に必要な衛生基準を満たす内装工事を実施。
- シャンプー台や椅子、鏡などの設備を導入し、動線を確認。
- 法人設立か個人事業主かの選択
- 法人を設立する場合は、定款作成・認証、登記申請、税務署などへの届出を行う。
- 個人事業主の場合は税務署に「開業届」を出すだけで済むが、事業内容や将来展望に応じて慎重に判断する。
- 保健所への届出・検査
- 美容所開設届を提出し、保健所の検査を受ける。
- 衛生管理基準をクリアできるよう事前にチェックしておく。
- スタッフ採用・研修
- 美容師免許の有無を確認し、雇用契約書を作成。
- 業務委託形態(フリーランス)での採用場合は、偽装請負リスクに注意する。
- 広告宣伝・集客準備
- ホームページやSNS、クーポンサイト等を活用し、オープン告知。
- 開店前に地域にチラシを配布したり、プレオープンを行ったりして、事前集客を図る。
- 開業・運営開始
- オープン後も定期的に衛生管理や労務管理をチェックし、問題の早期発見に努める。
法人設立の比較ポイント
サロン開業時に「個人事業主で始めるか、法人化するか」は重要な分岐点です。両者を比較する際の主なチェックポイントは次のとおりです。
- 信用力・融資面
- 法人の方が社会的信用度が高く、金融機関から融資を受けやすいケースが多い。
- 取引先との契約上、法人の方が取引しやすい場面もある。
- 税務面
- 個人事業主は所得税、法人は法人税と税制が異なる。
- 個人事業主は赤字でも所得控除可能だが、法人には「欠損金の繰越控除」など法人向けの優遇策がある場合もある。
- 責任範囲
- 個人事業主は事業の負債を個人が無制限に負う。
- 法人の場合は原則として法人が責任を負うため、代表者の個人財産が守られることが多い(ただし代表者保証など例外あり)。
- 設立手続き・維持コスト
- 個人事業は開業届のみで開始可能。法人設立には定款認証費用・登録免許税など、初期費用や維持費用がかかる。
- 法人の場合は決算公告義務や役員変更などの手続きが必要となる。
事業内容や規模、今後の拡張性を踏まえ、自身の状況に合った開業形態を選ぶことが大切です。
弁護士に相談するメリット
サロン開業にあたっては、美容師法などの業法上の規制だけでなく、賃貸借契約や雇用契約、法人化時の定款作成など、幅広い法的手続きや交渉ごとが発生します。こうした場面で弁護士に相談しておくと、以下のようなメリットを得られます。
- 必要書類の整備や契約書レビュー
- サロン開業に必要な書類(美容所開設届、雇用契約書、業務委託契約書など)のチェックやアドバイスを受けられる。
- 不利な条項やリスクを見逃さず、トラブルを未然に防止できる。
- 法人設立手続きのサポート
- 定款の作成や登記の流れ、出資比率などの検討事項をスムーズに進めることができる。
- 事業計画や融資に関しても、法的観点からアドバイスをもらえるため、金融機関との交渉にも役立つ。
- 労務管理のトラブル予防
- 美容師・スタッフを雇用する際の労働条件通知や残業代対策、ハラスメント防止措置などの整備をサポートできる。
- 開業後に起こりがちな労務トラブルのリスクを減らせる。
- トラブル発生時の迅速な対応
- 顧客トラブルやクレーム、契約解除、金銭問題などが発生した場合に、早期に適切な対応策を立案できる。
- 紛争を裁判に発展させずに解決できる可能性が高まる。
- 安心して経営に集中できる
- 法的リスクを継続的に管理してもらうことで、経営者は集客やサービス品質向上などの本業に専念しやすくなる。
特に「弁護士法人長瀬総合法律事務所」では、美容業界の法的トラブルや契約に精通した弁護士がサポートいたします。サロン開業を検討されている方や、すでに経営中の方で何らかの法的課題を抱えている方は、お早めに専門家へご相談ください。
まとめ
サロンを開業するには、「美容所開設届」の提出から、保健所の衛生検査、従業員の雇用契約や労働条件の設定など、多岐にわたる準備を行わなければなりません。さらに、個人事業主として開業するか、法人設立して開業するかによっても手続きや税制面のメリット・デメリットが大きく異なります。
いずれの場合でも、美容師法や衛生管理基準などの法律を正しく理解し、保健所の指導をクリアすることが必要不可欠です。違反した場合は、開業が認められなかったり、開業後に行政処分を受けたりするリスクもあるため、注意しながら準備を進めましょう。
もし法律や手続きに関する不安がある場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、サロン経営に関わる法的問題についてサポートいたします。安心して開業・運営を進めるためにも、専門家の知見を活用し、トラブルリスクを最小限にとどめましょう。
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