はじめに
企業活動の領域が拡大する昨今において、企業が関与するすべての業務を自社のみで完結することは事実上不可能であり、様々な他業者と連携しながら事業活動を遂行することが求められます。
また、法務や会計、税務等の高度な専門性が要求される分野では、外部専門家の知見を取り入れることも必要となる場面があります。
このように、企業が事業活動を行うにあたり、他業者に業務の一部を委託したり、専門的知見を取り入れる際に締結する契約が業務委託契約になります。
業務委託契約は、企業が円滑な事業活動を行い、さらに事業を拡大するにあたっては不可欠な契約類型であり、実務でも頻出する契約類型の一つといえます。
なお、業務委託契約には、製造や配送等の業務の一部を委託する場合もあれば、コンサルタントに知見の提供を求めるコンサルティング契約等、様々な類型があります。
本項では、業務委託契約のうち、コンサルティング契約を主眼に置いて、業務委託契約書を作成・チェックする上で押えていただきたいポイントを解説します。
業務委託契約(コンサルティング契約)の特徴とは
コンサルティング契約は業務委託契約の一種ですが、業務委託契約とは、委託者の業務の全部又は一部を受託者に任せる契約をいい、契約内容に応じて委任(準委任)契約(民法643条、656条)と請負契約(民法632条)とに分類することができます。委任契約とは、受託者が法律行為を委託する契約をいい、法律事務以外の事務を委託する場合を準委任契約といいます。コンサルティング業務の委託は、通常、受託者であるコンサルタントの専門的な知識・経験、ノウハウ等を信頼して法律事務以外の業務を委託するものであり、一定の仕事の完成を目的として業務を委託するものではありません。
そのため、たとえば、委託者の求めに応じて専門的助言を提供することを業務内容とするコンサルティング契約で、報酬については仕事の完成の有無に関係なく毎月一定額を支払うこととしている場合であれば、準委任契約に該当します。
業務委託契約書の収入印紙
報酬については仕事の完成の有無に関係なく毎月一定額を支払うこととしているコンサルティング契約であれば、通常は準委任契約として不課税文書となります。これに対して、企画書や調査書、報告書等やマニュアル、ガイドライン等を作成して委託者に提供し、これらに対して報酬が支払われることとされているコンサルティング契約など、仕事の内容が特定されており、仕事の結果と報酬の支払いが対応関係にある場合には、請負契約(第2号文書)に該当し、課税対象となるおそれがあります。
このように、コンサルティング契約は、一般的には課税文書には該当しませんが、契約内容や個々の取引の実態を十分に検討して判断する必要があります。
業務委託契約書の関係法令
前記のとおり、秘密保持契約書では、主に以下の法令が問題となります。
このほかに、特許法も問題となる場合があります。
- 民法
- 個人情報保護法
- 下請法
- 労働者派遣法
業務委託契約書の参考例
業務委託契約書の参考例を掲載します。
業務委託契約には様々な類型がありますが、本稿ではコンサルティング契約書を例に取り上げます。
こちらを踏まえ、後記のとおり各条項のチェックポイントを解説します。
コンサルティング業務委託契約書 [XXX株式会社](以下「委託者」という。)及び[YYY株式会社](以下「受託者」という。)は、次のとおり、コンサルティング業務委託契約(以下「本契約」という。)を締結する。 第1条(目的)
第2条(報酬)
第3条(権利の帰属等) 委託者は、本件業務の遂行過程において受託者が作成し、委託者に提出する報告書その他の書類等(以下「本件成果物」という。)に係る著作権及びそれらに含まれるノウハウ、コンセプトその他の知的財産権は、すべて受託者に帰属することについて同意する。 第4条(委託者による成果物の利用) 委託者は、本件業務の遂行過程において受託者より受領した本件成果物及びこれらに含まれる情報を、自己の責任と負担において利用することができる。 第5条(報告義務)
第6条(秘密保持)
第7条(競業避止義務) 受託者は、事前に委託者の書面による承諾を得ることなく、本契約期間中、委託者と競合する事業者に対して、本件業務と同一又は同種の業務を提供してはならない。 第8条(個人情報の取扱い) 受託者は、本件業務遂行に際して委託者から取扱いを委託された個人情報について、別途委託者及び受託者が締結する書面の定めるところに従い、取り扱うこととする。 第9条(労働者派遣との関係) 委託者及び受託者は、本契約に基づき行う本件業務の着手から終了に至るすべてにおいて、委託者受託者間に労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号、その後の改正を含む。)に規定される派遣先と派遣元事業主としてのいかなる関係も存在しないことを確認するものとする。 第10条(契約期間) 本契約の有効期間は、[令和5年4月1日から令和6年3月31日]とする。ただし、契約期間満了の[2ヶ月]前までに、一方当事者から別段の書面による意思表示がなされない場合で、かつ、委託者受託者間で取引が継続している場合は、新たな期間を[1]年間として自動更新されるものとし、以後も同様とする。 第11条(解除)
第12条(再委託等) 受託者は、本件業務の遂行上必要と認める場合は、委託者の事前の書面による承諾を得て、受託者が指定する第三者に本件業務の一部又は全部を委託することができる。ただし、本条に基づき受託者が第三者に対して本件業務の一部又は全部を再委託した場合であっても、受託者は本契約上の義務を免れないものとする。 第13条(契約上の地位の移転等の禁止) いずれの当事者も、本契約に基づく権利又は義務の全部若しくはその一部を相手方当事者の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に譲渡若しくは移転し又は第三者のための担保に供する等一切の処分をしてはならない。ただし、受託者が、本契約第12条の定めに基づいて本件業務の全部又はその一部を第三者に再委託する場合は、この限りではない。 第14条(契約内容の変更) 本契約の内容の変更は、当該変更内容につき事前に委託者受託者協議の上、別途、書面により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。 第15条(準拠法及び裁判管轄)
第16条(協議条項) 本契約の解釈その他の事項につき生じた疑義及び本契約に規定のない事項については、委託者及び受託者双方が誠意をもって協議の上、解決するものとする。 本契約の成立を証するため本契約書を2通作成し、委託者受託者各記名押印の上、各1通を保有する。 令和5年2月1日 所在地 [○○○○] 所在地 [○○○○] |
業務委託持契約書の作成マニュアル
業務委託契約書を作成する際には、以下の4つのステップを意識していくと整理しやすくなります。
参考書式も掲載しますので、こちらとあわせてご確認ください。
ステップ① 契約パターンの選択
- 相手方との力関係及び自社の立場に鑑み、「公平」、「開示者(自社)有利」、「受領者(相手方)有利」いずれの契約類型に該当するか
- 必要となる契約書のボリュームは「詳細」、「標準」、「簡易」いずれか
以下に掲載する9パターンのいずれを作成するかを意識しましょう。
中立公平 | 委託者有利 | 受託者有利 | |
---|---|---|---|
詳細 | |||
標準 | |||
簡易 |
ステップ② 契約に関する情報の記入
- 自社(委託者)に関する情報の記入
- 相手方(受託者)に関する情報の記入
- 委託する業務内容の記入
- 対価の記入
- 契約期間の記入
- 準拠法の記入
- 裁判管轄の記入
- 契約締結日の記入
ステップ③ 契約チェックポイント
- 受任者の自己執行義務
- 報酬に関する規律
- 委任契約の任意解除権
- 委託する業務の内容・範囲は明確か
- 下請法が適用される場合、書面交付義務等への対応
- 個人情報等の授受を伴う場合、個人情報保護法への対応
- 「偽装請負」への対応
ステップ④ 交渉上の落としどころ
- 業務の進捗に応じて段階的に報酬を設定すべき場合もある
- 業務遂行過程で作成された成果物の知的財産権の帰属について下請法に抵触しないよう留意するとともに、場合によっては報酬金額に反映することも検討する
業務委託契約書における各条項のチェックポイント
「目的」の定義(第1条)
委任(準委任)契約は、当事者の一方が法律行為をすること(法律行為以外の事務を処理すること)を相手方に委託し、相手方がこれを受託することによって成立します(民法643条・656条)。請負契約とは、仕事の完成を目的としているか否か等によって大きく異なります。
雛形では、委託者が受託者に委託する業務の内容を具体的に列挙することとしていますが、契約書中では概要のみ定め、覚書などの別紙で詳細を定める方式を採用しても構いません。
報酬(第2条)
本条のポイント
委託料金の金額及び支払い方法等は、当事者の主要な関心事となるため、詳細かつ明確に規定する必要があります。
なお、コンサルティング業務の一環として作成されるコンサルティングレポートは、通常、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの」として情報成果物に該当する(下請法2条6項3号)ことから、コンサルティング業務は、「情報成果物作成委託」として、委託者・受託者の資本金関係によっては、委託者が「親事業者」に、受託者が「下請事業者」に該当し、下請法の適用対象となりえます。
下請法が適用される場合、報酬の支払時期について、業務提供後、60日以内に報酬を支払わない場合には、下請法に違反する可能性があります(下請法2条の2)。また、下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条各号に規定する事項を記載した書面(「下請法3条書面」)の交付義務が課せられる(下請法3条)ところ、かかる下請法3条書面の記載事項については、契約書中に盛り込んで規定することでも対応可能です。その場合、以下のように規定することが考えられます。
第2条(業務及び報酬)
1 委託者及び受託者は、次に掲げる事項について別途覚書に定める。
(1)本件業務の内容及び範囲(第3条に定める本件成果物を納品する場合はその内容)に関する事項
(2)委託の期間並びに料金、その支払期日及び方法(手形で支払う場合には満期)等に関する事項
(3)作業の時間及び場所等に関する事項
(4)作業に係る報告の方法及び形式に関する事項
(5)原材料等を支給する場合には、その品名、数量及び引渡しの期日・方法並びに原材料等の対価支払の要否及び支払期日・方法
(6) 成果物を納品する場合は、その期日、場所、検収の条件及び手順並びに権利の移転に関する事項
- 本契約に定める内容と前項の覚書に定める内容との間に齟齬がある場合は、前項の覚書に定める内容が優先するものとする。
守秘義務(第3条)
本条のポイント
秘密情報の漏洩を禁止する項目であり、秘密保持契約の核心部分といえます。もっとも、第三者に対する開示を一切禁止してしまうと、たとえば会社が守秘義務を負う場合、会社とその役員等では法人格が異なるため、当該会社がその役員や従業員に対して秘密情報を共有することも禁止されることになりかねず、実務上不都合が生じるおそれがありえます。そのため、両者で公平な内容の秘密保持契約を締結する場合、雛形のように、秘密情報を開示しても構わない事由や場面を列挙し、当該事由等に該当する場合には守秘義務の例外とすることが一般的です。
委託者を有利にする場合
委託者を有利にする場合、成果物に関する知的財産権をすべて委託者に帰属するものとして規定することが考えられます。ただし、委託者が下請法上の「親事業者」に該当する場合、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によって下請事業者(受託者)の利益を不当に害してはならないとされています(下請法4条2項3号)。そして、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(令和4年1月26日公正取引委員会事務総長通達第1号)第4–7–(4)は、「情報成果物等の作成に関し,下請事業者の知的財産権が発生する場合において,親事業者が,委託した情報成果物等に加えて,無償で,作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を親事業者に譲渡・許諾させることは,法第4条第2項第3号に該当する。」と規定していることから、たとえば業務遂行過程で生じた成果物以外について生じた知的財産権についてまで委託者に帰属させることは、下請法に抵触するおそれがあり、回避すべきといえます。
そこで、委託者を有利にしつつ、下請法違反のおそれを軽減すべく、以下のように規定することが考えられます。
第3条(権利の帰属等) ※委託者側
受託者は、本件業務の遂行過程において受託者が作成し、委託者に提出する報告書その他の書類等(以下「本件成果物」という。)に係る著作権及びそれらに含まれるノウハウ、コンセプトその他の知的財産権は、すべて委託者に帰属することについて同意する。また、本件業務遂行の過程で本件成果物以外について生じる知的財産権については、原則として、発明、考案、使用又は創作をした者に帰属するものとする。ただし、受託者は、本件業務遂行に必要な範囲内において、当該知的財産権を無償で使用することができるものとする。
受領者を有利にする場合
コンサルティング業務を営む受託者にとって、依頼主である委託者に対する業務遂行過程で得られたノウハウ等を、委託者以外の第三者に対しても提供・利用することが認められればより有利になるものといえます。そこで、受託者を有利にする場合、成果物に係る知的財産権が受託者に帰属する旨定めるだけでなく、秘密保持義務や競業避止義務に抵触しない範囲で、委託者以外の第三者に対しても成果物に含まれるノウハウ等を提供・利用してよい旨明記しておくことが望ましいといえます。
第3条(守秘義務) ※受託者側
1 (略)
2 開示者及び受領者は、前項の定めに関わらず、適用ある法令及び規則等を遵守するために必要な場合、又は政府、所轄官庁、規制当局(日本国外における同様の規制当局を含む。)、裁判所による要請に応じて秘密情報を開示することが必要な場合には、当該開示を行うことができる。なお、かかる開示を行った場合、開示を行った者は可能な範囲において当該開示後、速やかに相手方に連絡するものとする。
成果物の利用(第4条)
本条のポイント
業務の遂行過程で知的財産権が生じる場合において、委託者(委託者)による当該知的財産権の利用の可否を定めた条項です。第3条において、成果物に係る知的財産権が受託者(受託者)に帰属する旨定めた場合であっても、コンサルティング業務を委託した依頼者としては、受託者が作成した成果物を一定の範囲内で利用することができるものとして期待していることが通常です。そこで、委託者による成果物の利用をどの範囲で認めるか、あらかじめ明確にしておく必要があります。
委託者を有利にする場合
委託者としては、受託者から受領したコンサルティングレポート等の成果物について、自ら原本を利用するだけでなく、コピーを作成する必要が生じる場合がありえます。また、当該成果物について、取引先に参考資料として提示したり、場合によっては第三者に公表する必要が生じる場合もありえます。そこで、委託者にとっては、これら成果物の複製や第三者提供についても自由に行うことができるよう規定しておくことが望ましいといえます。
第4条(委託者による成果物の利用) ※委託者側
1 (略)
2 委託者は、本件成果物の複製又はこれらに含まれる情報を第三者に対して提供又は公表することができる。
受託者を有利にする場合
受託者にとっては、委託者が自由に成果物を複製したり第三者に提供されたりすると、成果物作成に係る受託者のノウハウやアイデア等が流出するおそれがあることから、かかる複製や第三者提供について制限をかける必要があります。具体的には、コンサルティング契約終了後であっても、委託者が成果物を複製等する場合には、事前に受託者の書面による承諾を得る必要があるものとする等の方法が考えられます。
第4条(委託者による成果物の利用) ※受託者側
1 (略)
2 委託者が本件成果物の複製又はこれらに含まれる情報を第三者に対して提供又は公表する場合は、第9条に定める本契約の有効期間後といえども、事前に受託者の書面による承諾を得るものとする。
報告義務(第5条)
本条のポイント
業務の遂行過程に関し、受託者から委託者に対して報告義務を課す旨の規程となります。
特にコンサルティング契約では、委託業務の遂行過程が受託者に一任したために不明確になるおそれがあるため、委託業務の状況を確認する必要があります。
委託者を有利にする場合
委託者としては、自らの判断で必要に応じていつでも受託者に対して報告を求めることができる方が有利といえます。
第5条(報告義務) ※委託者側
3 受託者は、委託者に対し、本件業務の遂行状況について、毎月末日までに、書面による報告を行わなければならない。
4 委託者は、受託者に対し、甲が必要と認めるときは、本件業務に関し、報告及び資料の提出を求めることができる。
受託者を有利にする場合
受託者にとっては、いつでも委託者から報告を求められるとすると対応の負担を強いられることになるため、定期的な報告に留めるか、そもそも報告義務に関する規定を削除することが考えられます。
第5条(報告義務) ※受託者側
受託者は、委託者に対し、本件業務の遂行状況について、毎月末日までに、書面による報告を行わなければならない。
労働者派遣との関係(第8条)
業務委託には、受託者に仕事の完成を請け負わせる請負契約としての実質を有する場合と、受託者に一定の事務の処理を委託する準委任契約としての実質を有する場合とがありますが、いずれの場合も、受託者又は受託者が雇用する従業員の労働力を委託者が利用するという点で、労働者派遣に類似する実態があるものといえます。
「労働者派遣」とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)(以下「労働者派遣法」といいます。)2条1号)をいい、労働者派遣に該当する場合、①派遣期間の制限(同法40条の2)、②派遣契約の書面化(同法26条1項)、③派遣先責任者の選任(同法41条)、④派遣先管理台帳の作成(同法42条)など、諸々の義務が課せられることとなります。これらの義務を回避するため、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、形式的に業務処理請負(委託)を偽装して契約を締結することが、「偽装請負」として社会問題化しました。
偽装請負として労働者派遣に該当するか否かは、業務処理の実態に鑑みて判断されますが、契約書上も委託者・受託者の関係は労働者派遣に該当しない旨、注意的に規定しておくことが望ましいといえます。
解除(第10条)
本条のポイント
民法では、「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」だけでなく、「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。」にも相手方(受任者)に対して損害を賠償しなければならないこととして、損害賠償事由が追加されています(民法651条2項2号)。
なお、「受任者の利益・・・を目的とする委任」の意義は判然としませんが、「(専ら報酬を得ることによるものを除く。)」と規定されていることから、単に受任者が報酬を得られなかったというだけでは同条項に基づき委任者が損害賠償責任を負うことにはならないものと思われます。
委託者を有利にする場合
民法改正により、法定解除の要件及び範囲について大きな修正が加えられ、債務者の帰責事由が不要となる一方、債務不履行の程度が軽微な場合は催告解除ができなくなることから、債務者の不履行の程度が「軽微」な場合であっても解除できるよう、あらかじめ任意解除条項を充実させておくことが望ましいといえます。
また、債権者に帰責性が認められる場合は、債権者による解除が制限される(民法543条)ことから、当事者の帰責性の有無を問わず解除できる旨定めることが望ましいといえます。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(解除)
1 委託者(債権者)及び受託者(債務者)は、当事者のいずれか一方が本契約の条項に違反した場合(当該当事者について、当該違反に係る帰責事由が認められるか否かを問わない。)、相手方当事者(当該違反に係る帰責事由が認められるか否かを問わない。)は、相当の期間を定めた上で、違反当事者に対し義務の履行を催告し、違反当事者が当該期間内に当該違反行為を是正しないときは、本契約を解除することができる。
2 前項の定めにかかわらず、委託者及び受託者は、相当の期間内に前項に定める違反を是正することが不可能若しくは著しく困難であることが明らかな場合、又は当該違反を是正するためには著しく長期の期間を要する場合には、催告をせずして直ちに本契約を解除することができるものとする。
受託者を有利にする場合
民法改正により、法定解除の要件として債務者の帰責事由が不要となることから、この点においては、民法改正におけるデフォルトルールは改正前民法よりも債務者に不利なものといえます。そこで、債務者を有利にすべく、改正前民法と同様、債務者の責めに帰すべき事由による義務違反があった場合に初めて解除することができる旨修正することが考えられます。
第●条(無催告解除)
委託者(債権者)は、受託者(債務者)が受託者の責に帰すべき事由により本契約の定めに違反した場合には、受託者に対する書面による通知により、本契約を解除することができるものとする。
再委託等(第11条)
業務委託契約においては、受託者の能力や個性を重視した上で委託先として選定することが通常であるため、受託者が委託者の同意なく業務を第三者に再委託できるものとすることは、委託者にとって望ましくないものといえます。そこで、雛形では、再委託を原則として禁止した上で、委託者が書面で同意した場合に限って再委託を認めるものとしています。
業務委託契約書のチェックリスト
以上が業務委託契約書の各条項のチェックポイントになります。
業務委託契約書の作成・チェックをする際には、以下のリストもご利用いただき、契約書チェックに不足がないようご確認いただけますと幸いです。
業務委託契約書 チェックリスト
条項 | 委託者側 | 受託者側 |
---|---|---|
委託業務の特定 | 委託する業務は網羅されているか | 受託する業務は特定されているか |
関連する付随業務も委託業務に含まれているか | 受託する業務の範囲が付随業務等も含まれていないか | |
報酬 | 下請業法に抵触するおそれはないか | 下請業法に抵触する不当な内容となっていないか |
報酬の支払方法は月額制か、成果報酬型か | 報酬の支払方法が成果報酬型である場合、前払い分があるか | |
知的財産権 | 成果物の知的財産権は委託者に帰属するか | 成果物の知的財産権は受託者に維持されるのか |
成果物 | 秘密情報を利用した成果物の知的財産権の帰属をどのように設定するか | 秘密情報を利用した成果物の知的財産権の帰属をどのように設定するか |
報告義務 | 受託者に対していつでも報告を求めることができるか | 報告義務を削除できるか、または報告の頻度を限定できているか |
競業避止義務 | 受託者に対して競業避止義務を課しているか | 委託者から競業避止義務を課されていないか、課されているとして範囲は妥当か |
契約期間 | 契約期間の有効期限は問題ないか | 契約期間の有効期限は問題ないか |
契約期間満了後の更新はどうするか | 契約期間満了後の更新はどうするか | |
契約終了後の存続条項を設定するか | 契約終了後の存続条項を設定するか | |
裁判管轄 | 委託者側の本店所在地を専属的合意管轄とするか | 被告の本店所在地を管轄する簡易裁判所又は地方裁判所を専属的合意管轄とするか |
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