解説動画
こちらのコラムは、当事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」で解説動画が公開されております。
- 00:00:ごあいさつ
- 00:22:本動画でお伝えしたいこと
- 00:53:相談事例
- 01:38:社員の誠実労働義務
- 02:07:業務命令の範囲
- 02:52:業務命令の範囲 業務命令が問題となった裁判例①
- 03:19:業務命令の範囲 業務命令が問題となった裁判例②
- 04:03:業務命令に従わない社員に対する懲戒処分
- 04:52:業務命令違反を理由に懲戒解雇を認めた事例
- 06:16:相談のケースについて
- 07:37:まとめ
- 08:04:弁護士法人長瀬総合法律事務所のサポート内容
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相談事例
社員Aは、上司から資料作成等の指示を受けても、「もっとやりがいのある仕事がしたい」「自分には役不足だ」等の発言を繰り返し、業務命令に従わないことを繰り返しています。
あまりに勤務態度が酷いので、一度出勤停止処分にもしましたが、Aは「そんな処分は無効だ」と主張して、無理矢理出勤してきています。当社としては、Aの態度が目に余りますので、もう解雇せざるを得ないのではないかと考えていますが、一方で解雇は難しいとも聞いています。
当社としては、どのように対応すればよいでしょうか。
解説
社員の誠実労働義務
社員は、労働契約の合意内容の枠内で、会社に対して誠実に労務を提供する義務(誠実労働義務)を負います。
したがって、社員が業務命令に従わない場合、誠実労働義務の不完全履行となり、就業規則上の懲戒事由に該当すれば懲戒処分の対象となり得ます。
業務命令の範囲
もっとも、前述のとおり、社員の誠実労働義務の前提として、上司の業務命令が労働契約の合意内容の枠内で、かつ、当該労働契約の内容が合理的なものであることが必要となります(電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日労判470号)、国鉄鹿児島自動車営業所事件(最高裁平成5年6月11日労判632号))。
この点、社員が始末書の提出を拒否した事案において、裁判所は、そもそも始末書の提出命令は業務上の指示命令に該当しないこと等を理由に、懲戒解雇を無効とした裁判例があります(高松高裁昭和46年2月25日)。
また、就業規則等に業務命令に服すべき旨の定めがある場合であっても、具体的な命令が社員に対して著しい不利益を与える等の場合には、かかる業務命令は権利濫用として無効と判断される可能性があることにも注意が必要です(電電公社千代田丸事件(最高裁昭和43年12月24日労判74号)、JR東日本(本荘保線区)事件(最高裁平成8年2月23日労判690号))。
業務命令に従わない社員に対する懲戒処分
前述のとおり、業務命令について就業規則等に定めがあり、当該内容が合理的なものである場合は、当該業務命令に違反した社員は懲戒処分の対象となり得ますが、その場合であっても懲戒解雇が認められるケースは裁判例上、非常に限定的な場合に限られます。
もっとも、業務命令に従わない社員に対する懲戒解雇を認めたケースとして、以下の裁判例があります。
具体的には、社員が出勤停止処分を受けたにもかかわらず、これを無効であると強弁して出勤を強行し、また、所長及び副所長の業務指示に従わない態度を取り続けた上、上司の作成文書が偽文書であるとする文書の発信を継続した事案において、裁判所は、就業規則の「職責者の正当な業務命令に従わない者」及び「勤務態度が著しく不良で、戒告されたにもかかわらず改悛の情を認めがたい者」等に該当するとして、諭旨解雇処分を肯定しています(旭化成工業事件(東京地裁平成11年11月15日))。
ご相談のケースについて
ご相談のケースでは、まず就業規則等を確認し、上司の業務命令が労働契約の合意内容の範囲内であり、かつ、当該と労働契約の内容が合理的なものであることを確認しましょう。
かかる就業規則等が存在し、その内容も合理的であったとしても、まずは指導・注意等を通じて当該社員の勤務態度の改善を促し、それでも業務命令に従わない場合に懲戒処分を検討することとなります。
なお、懲戒解雇が認められる場合は非常に限定的ですが、例外的に懲戒解雇を肯定した裁判例に照らし、本件でも懲戒解雇が認められる可能性があります。
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