1 【会社設立】ベンチャー企業設立に適した会社形態
【質問】
新たに友人とともに新規ビジネスを始めようと思い、会社の設立を検討しています。
もっとも、ベンチャービジネスを起業するにあたり、どのような会社形態を採用するのが適しているのか、見当がつきません。ベンチャー企業に適した会社形態と、そのポイントを教えてください。
【回答】
ベンチャー企業設立に際しては、株式会社形態を採用するケースが一般的ですが、合同会社形態を採用するケースも少なくありません。
株式会社に比べると、社会的知名度に劣るといったデメリットがありますが、合同会社の方が設立時のコストが低額であり、機関設計も自由で決算公告も不要であるなど、設立に際しての負担は軽微であるといった小さくないメリットもあるため、「小さく始めて大きくする」など、スモールビジネスとして運営していく観点からは最適な会社形態といえます。
【解説】
ベンチャー企業の設立と会社形態
ベンチャー企業等、小規模な事業をスタートする場合、最初期段階では少人数でスタートせざるを得ず、また資金に余裕がないため、できる限り設立コストを抑えつつ、柔軟な機関設計を採用できることが重要となります。
また、仮にビジネスが失敗に終わったとしても、出資者が出資の範囲を超えて無限に責任を追及されることがないよう、出資の範囲でしか責任を負わない(=有限責任)ことが担保されている必要があります。
以上の観点から、ベンチャー企業設立に際しては、有限責任であることが担保されている株式会社形態及び合同会社形態のいずれかが採用されることが一般的です。
株式会社のメリット・デメリット
株式会社は、有限責任の範囲内で出資した出資者等によって構成される会社形態であり、会社の所有者(出資者=株主)と経営者(取締役=社長)は分離していることが特徴の一つです。もっとも、ベンチャーで採用される株式会社では、株主と取締役が同一人物になっていることがほとんどです。
株式会社は、社会的認知度が高く、間接有限責任であるというメリットがある一方、合同会社に比べると設立時に要する登録免許税が高い、機関設計が緩和されたとはいえ会社法上の制約を受ける、役員の任期が決められており定期的に改選が必要になる、決算公告が必要になるといったデメリットがあります。
平成26年度に新たに設立された会社のうち、株式会社形態を採用した会社は約8万6000件であり、合同会社形態を採用した会社が約2万件であることからすると、設立時のコスト負担や機関設計上の負担があるものの、依然として株式会社形態を採用するケースが主流といえます。
【スタートアップと株式会社形態のメリット・デメリット】
メリット
- 株主(出資者)全員が出資の範囲内でしか責任を負わない(間接有限責任)
- 社会的知名度が高い
- 一人でも設立が可能
デメリット
- 会社設立時のコストが合同会社より高い(約26万円)
- 株主総会、1名以上の取締役が必要
- 毎年の決算公告が必要(情報開示義務及び開示コスト負担)
- 役員の任期があり、改選が必要
合同会社のメリット・デメリット
合同会社は、会社法で新たに設立が認められた持分会社の一形態であり、社員は前任、有限責任社員で構成され、社員の責任範囲は出資額に限定されます。
また、定款に定めれば出資金の比率に関係なく利益の分配比率が自由に決められるため、出資比率が小さくても会社への貢献度合いが高かった社員に出資比率以上の利益を配当することが可能です。
このように、合同会社は、設立時のコストが低額で済み、また、運営に際しても機関設計が自由で役員の改選も義務づけられておらず、決算公告も不要である等、融通が利くため、スモールビジネスとして運営していく観点からは最適な会社形態ということができます。
一方で、合同会社にもApple Japanのような大規模な会社もありますが、株式会社に比べて社会的知名度が低い、という大きなデメリットがあります。
ただし、合同会社から株式会社へ会社形態を変更することが可能ですので、まずは合同会社で小さく軽くスタートし、事業が軌道に乗ったら株式会社へ移行するという選択は可能です。
【スタートアップと合同会社形態のメリット・デメリット】
メリット
- 社員(出資者)全員が出資の範囲内でしか責任を負わない(間接有限責任)
- 会社設立時のコストが低い(約10万円〜12万円)
- 一人でも設立可能
- 株主総会や取締役も不要で、会社の内部設計が自由
- 決算公告が不要
- 役員の任期がない
デメリット
- 社会的知名度が低い
- 社員同士での意見対立が生じた場合、会社としての意思決定がストップするおそれ
- 出資額に関係なく利益分配分ができるため、利益配分について不満が出た場合、社内対立が生じやすい
株式会社と合同会社の比較
以上を整理師、株式会社形態と合同会社形態のポイントを比較すると以下のとおりです。
株式会社(譲渡制限会社を前提) | 合同会社 | |
---|---|---|
法人格の有無 | あり | あり |
出資者の人数 | 1名以上 | 1名以上 |
出資者の責任 | 間接有限責任 | 間接有限責任 |
設立コスト | 高い 約26万円 |
低い 約10万円〜12万円 |
機関設計 | 株主総会及び取締役1名以上が必要 | 制約なし |
役員の任期 | あり 改選が必要 |
なし 改選不要 |
決算公告 | 必要 | 不要 |
利益配分 | 株式数に応じて配分 | 定款で自由に定められる |
社会的知名度 | 高い | 低い |
2 【会社設立】有限責任事業組合(LLP)
【質問】
新たに友人とともに新規ビジネスを始めようと思い、会社の設立を検討しています。
当初は設立コストが安くて内部組織の設計も自由な合同会社形態を選択しようと考えていましたが、知人から「有限責任事業組合、いわゆるLLPも起業に向いている」といわれました。
有限責任事業組合について、概要を教えてください。
【回答】
有限責任事業組合は、合同会社と同様に出資者が有限責任しか負わず、会社組織も自由に設計できる組織形態ですが、合同会社と異なり法人格がありません。
そのため、法人と構成員に対して二重に課税されることがないという大きなメリットがありますが、一方で法人格がないため、事業の途中で株式会社へ組織変更することができないというデメリットもあります。
【解説】
有限責任事業組合(LLP)
有限責任事業組合(LLP: Limited Liability Partnership)は、合同会社と同様に有限責任と自由な内部自治を両立した組織形態であり、会社法上の会社ではなく、民法上の組合です。
合同会社との最大の違いは、法人格の有無にあります。合同会社には法人格がありますが、LLPには法人格がありません。
また、法人格の差異に起因して、課税関係も異なります。法人格のある合同会社はまず法人として課税され、さらに構成員にも所得税がかかることになりますが、LLPは法人格がないため、法人税がかからず構成員へ直接課税される「パス・スルー課税」が適用されます。パス・スルー課税によれば、法人税が課税されず、出資者に直接課税されることから、LLPで生じた損益配分と、組合員自身が別の事業で生じた損益と損益通算できるため、全体の課税対象額を圧縮することが可能です。たとえば、合同会社Xの代表社員AがB氏とLLPを設立し、当該LLPが決算で赤字を出した場合、当該LLPの損失分と合同会社XからA氏が受け取っている役員報酬から控除されている税金と通算できるため、結果的にA氏が支払う税金が減少することとなります。
さらに、合同会社は法人格があるので、途中で株式会社に組織変更することができますが、LLPの場合は株式会社への組織変更ができません。
株式会社、合同会社、有限責任事業組合の比較
株式会社、合同会社、LLPの相違点を比較すると次の表のようになります。
株式会社(譲渡制限会社を前提) | 合同会社 | 有限責任事業組合 | |
---|---|---|---|
法人格の有無 | あり | あり | なし |
出資者の人数 | 1名以上 | 1名以上 | 2名以上 |
出資者の責任 | 間接有限責任 | 間接有限責任 | 間接有限責任 |
出資金 | 1円以上 | 1円以上 | 2円以上 |
機関設計 | 株主総会及び取締役1名以上が必要 | 制約なし | 制約なし |
課税 | 法人課税(法人と社員に対する二重課税) | 法人課税 | パス・スルー課税(構成員に課税) |
決算公告 | 必要 | 不要 | 不要 |
利益配分 | 株式数に応じて配分 | 定款で自由に定められる | 組合契約で自由に定められる |
株式会社への組織変更 | − | 可 | 不可 |
社会的知名度 | 高い | 低い | 低い |
3 【会社設立】合同会社の設立手続
【質問】
新たに友人とともに新規ビジネスを始めようと思い、会社の設立を検討しています。
設立コストが安く、株主総会のような内部組織の設置の必要もない合同会社形態を選択しようと思いますが、合同会社を設立する場合の手続の流れについて教えてください。
【解説】
合同会社設立の流れ
合同会社を設立する場合、会社法上、その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印することが必要となります(会社法575条1項)。
そして、社員になろうとする者は、定款の作成後、合同会社の設立の登記をするときまでに、その出資金銭の全額又は現物資産全部を払い込む必要があります。
その後、合同会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立します(会社法579条)。したがって、会社法上、合同会社設立に当たり、以下の手続が必要となります。
【会社法上必要な手続】
- 定款の作成
- 定款への署名又は記名押印
- 出資金の払込み
- 設立登記申請
もっとも、実際には、事前に定款に規定すべき事項を決定したり、法人の実印を作成したりといった事前準備手続や、合同会社設立後の税務署等への各種届出も必要となります。
以下、こうした会社法以外で必要となる手続も含めた、合同会社設立までの具体的な手続の内容について説明していきます。
具体的な手続
事前準備
まず、定款の作成等の具体的な設立手続に入る前に、会社としての基本的な設立項目を決めておくと、その後の設立手続がスムーズとなります。事前準備段階で決めておくべき、また、用意しておくべき主な書類等は以下のとおりです。
【あらかじめ決定しておくべき事項】
- 商号
「合同会社」という文言を必ず盛り込む必要があります。また、本店所在地として予定している場所に同じ商号の会社が既に設立されていないか、管轄の法務局で商号調査を行う必要があります。 - 事業目的
定款に記載します。 - 本店所在地
定款作成や登記申請の際に必要となります。 - 資本金の額
1円以上であれば法律上問題はありませんが、実務上は10万円〜300万円程度で設定されるケースが多いと思われます。 - 社員の決定
社員=出資者であり、1人でも構いません。定款に氏名・住所が記載されます。誰が代表社員になるかも、あらかじめ決定しておきましょう。 - 事業年度の決定
会社の決算月を決定します。
【あらかじめ用意しておくべき書類等】
- 法人実印
設立書類の押印に必要となるため、あらかじめ作成しておく必要があります。 - 印鑑証明書の取得
法務局で登記を行う際に必要となるため、あらかじめ取得しておく必要があります。 - 設立費用の用意
ご自分で設立する場合、合計で10万2000円ほど必要となります。これに対して、司法書士等の専門家に依頼した場合、電子定款を利用することによって印紙代4万円を節約することが可能となるため、司法書士等への報酬を含めた実際の費用負担はご自分で設立する場合と大差ないことが多いと思われます。
定款の作成
定款には、(i)記載しないと定款自体が無効となる絶対的記載事項と、(ii)記載しなくても問題はないものの、定款に記載すれば有効な規定として効力を持つことになる相対的記載事項の2種類があります。
【絶対的記載事項】
- 目的
- 商号
- 本店所在地
- 社員の氏名又は名称及び住所
- 社員が有限責任である旨
- 社員の出資の目的及びその価額又は評価の基準
【相対的記載事項】
- 会社の内部関係に関する事項であって、組合に関する民法の規定を適用しない旨の定め
- 会社の存続期間の定め
- 業務執行社員の定め
- 会社を代表する者の定め
- 損益分配の定め
- 社員の退社の定め
- 会社の解散原因となる事由の定め
- 死亡、合併時の承継人が社員となる定め
- 解散の場合における会社財産の処分方法
最低限、絶対的記載事項については漏れなく記載する必要がありますので、この点は慎重に確認する必要があります。
なお、定款を紙ではなく電子定款で作成すれば、印紙代4万円を節約することが可能となります。ただし、電子定款を作成するためには専用の電子機器・ソフトウエアが必要となるため、司法書士等の専門家に依頼しない限り、実際には電子定款をご自分で作成することは困難かと思います。
資本金の払込み
定款作成後、社員になろうとする者は設立登記申請時までに定款記載の出資に係る金銭の全額を払い込み、その払込証明書を作成する必要があります。
具体的には、「資本金を振り込んだ通帳のコピー」で足り、①通帳の表紙、②表紙をめくった1枚目の見開き頁、③振込が確認できる頁の3つがあれば手続は可能です。
なお、登記申請にあたり、「定款作成日以降に出資金を入金した」という記録が要求されるため、定款作成日前に出資金を入金していた場合、いったん引き出して再度入金する必要があることに注意が必要です。
(実務上、多少であれば定款作成日付を遡ってつじつまを合わせることもあるようですが、定款作成の数か月前に出資金として入金していたような場合には、再度の入金が必要となります。)
登記書類の作成
定款作成後、登記書類として以下の書類を用意する必要があります
- 設立登記申請書
- 払込証明書
- 印鑑届出書
- 代表社員就任承諾書
- 本店所在地及び資本金決定書
登記申請
以上の書類を用意した後、管轄法務局にて設立登記申請を行います。なお、法務局に設立登記申請をした日が会社設立の日となります。
設立後の届出(税務関係・社会保険関係)
以上の手続をもって合同会社の設立自体は完了となりますが、設立後も税務関係、社会保険関係の届出を行う必要があります。
書類によっては届出までの期間が短いものもあるため、事前に提出期限を確認するとともに、迅速に提出できるよう準備しておくことが望ましいと言えます。
【税金関係】
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書
- 棚卸資産の評価方法の届出書(任意)
【年金・健康保険】
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
【労働保険】
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
4 【会社設立】合同会社の設立手続を専門家に依頼する場合
【質問】
新たに友人とともに新規ビジネスを始めようと思い、会社の設立を検討しています。
設立コストが安く、株主総会のような内部組織の設置の必要もない合同会社形態を選択しようと思いますが、創業期はとにかく売上げを確保するための営業構成をかけることが重要ですし、設立手続にミスがあってはまずいため、設立手続自体は専門家に依頼しようと思います。
合同会社の設立に当たり、具体的にどのような専門家に依頼すればよいか、教えてください。
【回答】
合同会社の設立に当たっては、設立登記申請等の設立手続そのものについては司法書士が、設立後の社会保険・労働保険関係については社労士が、設立後の税無関係については税理士が、設立前後にわたっての法的問題については弁護士が、それぞれの分野の専門家といえます。
また、費用を抑えるため届出書の提出作業だけスポット的に依頼したり、個別に各専門家に依頼することが手間である場合には、たとえば弁護士に他の専門家との連携も含めて一括して依頼する方法も採り得ます。
【解説】
合同会社設立の流れと各専門家の役割等
具体的な合同会社設立手続については、「合同会社の設立手続」をご参照ください。合同会社の設立に際しては、大まかに以下の段階ごとに、全部で4種類の専門家が関与することとなります。
【合同会社設立手続と専門家】
手続の段階 | 専門家 |
---|---|
1.設立手続 | 司法書士 |
2.設立後の税務関係 | 税理士 |
3.設立後の社会保険関係等 | 社労士 |
4.設立前後の法的問題 | 弁護士 |
もちろん、外部専門家に設立前後のサポートを依頼する場合、必ず上記4種類の専門家全てに依頼する必要があるというものではありません。
たとえば、定款作成については司法書士ではなく弁護士に依頼したり、パートタイマーへの給与支払の計算については社労士ではなく税理士に依頼したりするなど、業務内容によっては別の専門家に集約して依頼し、依頼する専門家の種類・依頼業務内容を削減することが可能です(それによって費用を節約することも期待できます)。
また、定款の作成や必要書類の準備等はできる限り自分で行い、時間と労力を節約するために届出だけ専門家に依頼する、といったスポット的な利用も可能です。
合同会社の設立手続と、各段階での専門家を簡単にまとめると、概要以下のとおりです。
【合同会社の設立と専門家の役割等】
手続の段階 | 業務内容等 | 専門家 | 備考 |
---|---|---|---|
1.設立手続 |
|
司法書士 |
|
2.(設立後)社会保険関係 | 【年金・健康保険】
【労働保険】
|
社労士 |
|
3. (設立後)税金関係 |
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税理士 |
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4.(設立前後)設立手続のサポート、関係者間の契約書作成等 | 【設立前】
【設立後】
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弁護士 |
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江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)
(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。