競業避止義務—取締役兼株主による競業取引

【質問】

当社(甲社)の取締役Xは、当社の一人株主でもあります。

かかるXが、当社と取引をする場合、会社法で規制されている競業取引に該当するでしょうか。

また、当社のグループ会社乙社の取締役Yは、乙社の100%株主ではありませんが、ライバル会社丙社の株式30%を保有しており、しかも丙社の経営を実質的に支配している場合に、Yが丙社と取引することは競業取引に該当するでしょうか。

 

【回答】

取締役Xが甲社の100%株主である場合には、Xと甲社との間に利害が対立する関係にないため、競業取引には該当しないものと思われます。

これに対して、グループ会社乙社の取締役Yが競合会社丙社の30%の株式を保有し、かつ、丙社の経営を実質的に支配している場合には、乙社と丙社との利害が対立する事態が想定されることから、競業取引に該当するものと思われます。

 

【解説】

1. 取締役の競業避止義務

取締役は、会社の業務執行又はその決定に関与するため、会社のノウハウや顧客その他の会社の内部情報を知り、又は入手しやすい立場にあるため、このような地位にある取締役が会社と競合する取引に従事すると、本来会社の事業のために用いられるべき情報や取引関係が、取締役の行う競争事業のために利用されるおそれが大きいと言えます。

そこで、会社法は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図るおそれの大きい行為をしようとするときは、当該取締役は株主総会(又は取締役会)において当該取引に関する重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない、とされています(会社法356条1項、365条。いわゆる競業避止義務)。

 

2. 取締役兼一人株主による競業取引

前述のとおり、会社法が取締役に対して競業避止義務を課した趣旨は、取締役と会社(=株主)の利害が対立し、会社(=株主)の利益が害される事態を防止することにあるものといえます。

かかる趣旨からすると、会社の全株式を保有する取締役と会社との間では、取締役と株主とが同一人物であり、取締役と株主の利害が対立する事態が生じ得ないことから、競業避止義務を課す必要はないものと思われます。

なお、競業取引については、株主全員の同意がある場合には取締役会の承認は不要と考えられていることからも、競業取引を行う取締役が会社の全株式を保有する場合は、一人株主の同意がある場合と同視して、競業避止義務の対象とならないものと整理することも可能と思われます。

 

3. 競業会社の株主を兼務する場合

これに対して、取締役が競業会社の役員は兼務していないものの株主である場合には、株主を兼務していることをもって直ちに競業取引に該当するものではないとしても、状況によっては会社と取締役との利害が対立する事態が想定され、競業取引に該当する可能性があるものと思われます。

具体的には、取締役が競業会社の経営を実質的に支配している場合には、当該取締役と会社との間の利害が対立するものといえ、取締役会の承認を要する競業取引に該当するものと思われます。

裁判例においても、競業会社の過半数の株式を保有していないものの、対抗しうる株式を保有する株主が存在しないことや、過去からの支配の経緯等から、事実上の主宰者として経営を支配してきたと認定した取締役について、旧商法264条(現会社法356条)の適用を認めたもの(大阪高裁平成2年7月18日判時1378号)があります。

また、家族により出資・運営されている競合会社について、出資持分は全く保有していないものの、運営資金を貸し付けていること、事業上不可欠な土地の賃借契約の連帯保証人となっていること等から、資金調達、信用及び営業について中心的役割を果たしているとして、事実上の主宰者と認定して競業避止義務違反を認定した裁判例があります(名古屋高裁平成20年4月17日金判1325号)。

 

ご相談のケースについて

取締役Xが甲社の100%株主である場合には、Xと甲社との間に利害が対立する関係にないため、競業取引には該当しないものと思われます。

これに対して、グループ会社乙社の取締役Yが競合会社丙社の30%の株式を保有し、かつ、丙社の経営を実質的に支配している場合には、乙社と丙社との利害が対立する事態が想定されることから、競業取引に該当するものと思われます。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。お問い合わせ

 

 
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