ご相談前の状況
製造業を営むある企業様から、従業員のSNS利用に関する問題でご相談をいただきました。
ご相談の概要は、取引先との関係構築を担う重要なポジションの従業員が、個人の趣味で利用していたSNSアカウントにおいて、特定の取引先を批判する内容の投稿を行っていたというものでした。
当初、取引先も投稿には気づいていましたが、当該従業員との良好な取引関係を考慮し、問題を表面化させてはいませんでした。しかし、従業員が自身の勤務先を特定できるような投稿を別に行ったことで、批判されていた取引先は投稿者が貴社の従業員であることを確信。事態を重く見た取引先が、別の共通の取引先を通じて貴社に連絡を入れたことで問題が発覚しました。
ご相談時には、既に業界内でこの件が噂として広まりつつある状況でした。会社としては、企業の信用を著しく傷つけ、取引関係にも悪影響を及ぼしかねない本件を非常に重く受け止めておられました。一方で、当該従業員は自身の行為を深く反省しており、これまでの勤務態度も真面目であったため、解雇のような厳しい処分は避けたいというご意向でした。
「従業員の私的な活動に対し、会社としてどこまで介入し、どのような処分を下すのが法的に妥当なのか」「取引先との関係を修復し、失われた信頼を回復するためにはどうすればよいか」といった点について、法的な助言を求め、当事務所にご相談に来られました。
ご相談後の対応
当事務所では、まず事実関係を正確に把握するため、ご担当者様から詳細なヒアリングを行いました。その上で、今後の対応について、法的なリスクと実務的な観点から以下の助言を行いました。
適正な手続きに則った事実確認と証拠保全
まず、懲戒処分の前提として、本人に対する事情聴取を丁寧に行うよう助言しました。その際、高圧的な態度で自白を強要するような形になることを避け、あくまで客観的な事実確認に徹すること、そして本人に弁明の機会を十分に与えることの重要性を説明しました。また、投稿の削除を性急に求めるのではなく、アカウントを非公開化することで、まずは証拠を保全し、事態の拡大を防ぐ措置を優先しました。
懲戒権の濫用を避けた、相当な処分の選択
本件の行為は、就業規則上の懲戒事由である「会社の信用を毀損する行為」に該当する可能性が高いと判断しました。しかし、懲戒処分が法的に有効と認められるためには、行為の悪質性と結果の重大性のバランスが取れた「社会通念上相当な」処分でなければなりません。本人が深く反省していること、これまでの勤務実績等を考慮し、懲戒解雇のような極端に重い処分は法的に無効となるリスクが高いことをご説明しました。最終的には、譴責(始末書の提出を命じる処分)や、事案の重大性に鑑みて減給といった範囲の処分が妥当であると助言し、会社様もその方向で処分を決定されました。
「懲戒処分」と「配置転換」の切り分け
本件の最も重要な点として、当該従業員が取引先との窓口業務を継続することの困難さが挙げられました。そこで当事務所は、「過去の非違行為への制裁」である懲戒処分とは別に、「将来の業務運営上の必要性」に基づく人事権の行使として、当該従業員を取引先と直接関わることのない部署へ配置転換することを提案しました。この二つの措置を法的に明確に切り分けて実施することで、懲罰的な配置転換(権利濫用)と見なされるリスクを回避しつつ、取引先への配慮と信頼回復に向けた具体的な姿勢を示すことができると助言しました。
再発防止策の策定
本件を一個人の問題で終わらせず、組織全体のリスク管理体制を強化するため、SNS利用に関する具体的なガイドラインの策定と、全従業員を対象とした研修の実施、そして服務規律を遵守する旨の誓約書を改めて取得することを推奨しました。
担当弁護士からのコメント
スマートフォンの普及により、従業員の私的なSNS利用が企業に思わぬ損害を与えるケースは後を絶ちません。たとえ従業員のプライベートな時間の利用であっても、その内容が企業の社会的評価を低下させたり、具体的な取引に悪影響を及ぼしたりする場合には、企業は服務規律違反として懲戒処分を検討することができます。
しかし、その対応を誤ると、懲戒処分が無効と判断されたり、従業員との間で深刻な紛争に発展したりするリスクを伴います。重要なのは、第一に、感情的な対応を避け、客観的な事実に基づいて適正な手続きを踏むことです。特に、本人に弁明の機会を与えることは、処分の妥当性を担保する上で不可欠です。
第二に、処分の重さが「社会通念」から逸脱していないか、慎重に見極める必要があります。本件のように、従業員の反省の態度やこれまでの貢献なども含めた総合的な判断が求められます。
そして第三に、本件のように取引先との信頼関係が損なわれた場合、「制裁としての懲戒処分」と「業務上の必要性に基づく配置転換」という異なる性質の措置を、法的に整理して適切に実行することが、事態の収束と信頼回復への鍵となります。
SNSトラブルは、ひとたび発生すると瞬く間に情報が拡散し、企業の対応が後手に回りがちです。問題が発覚した際には、早期に専門家へご相談いただくことで、法的なリスクを最小限に抑え、迅速かつ適切な対応をとることが可能になります。当事務所では、平時のリスク管理体制の構築から、有事の際の具体的な対応まで、企業活動に寄り添ったリーガルサービスを提供しております。
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