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待遇・労務環境

待遇・労務環境に関する留意点について、解説しております。

1 【使用者向け】健康管理①—傷病休業からの復職

【質問】

当社の社員Xは、趣味のツーリング中の事故で大けがをし、3ヶ月間の傷病休職を取得していました。

このたび、傷病休職期間満了直前に、Xから、「現場監督業務は厳しいものの、内勤はできるので内勤業務に変更させてもらって復職できないか」という復職希望を受けています。

従前の現場監督業務に復帰できないのであれば、休職期間満了とともに解雇することも検討していますが、Xの希望どおり業務を変更して復職させる必要があるのでしょうか。

【回答】

傷病休職期間の満了時において、従前の業務に復帰できるほど回復してはいないものの、より簡易な業務であれば就業でき、かつXが当該業務を希望する場合には、会社は当該業務への復職について検討する義務があり、かかる検討をせずに解雇することは解雇権の濫用として無効となる可能性があります。

【解説】

傷病休職とは

法律上明確な定義はありませんが、「休職」とは、ある従業員について労務に従事させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対して労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除すること又は禁止することをいいます。

かかる「休職」のうち、「傷病休職」とは、業務外の傷病による長期欠勤が一定期間(3ヶ月〜6ヶ月程度が通常)に及んだときに行われ、当該期間中に傷病から回復し就労可能となれば復職となり、他方、回復しないまま当該期間満了となれば自然退職又は解雇となるものをいいます。

「治癒」の判断基準

前述のとおり、傷病期間中にけが等が回復せず就労可能とならなかった場合、退職又は解雇となる可能性があるため、いかなる場合に「治癒」したものといえるかが問題となります。

この点、裁判例では、復職の要件となる「治癒」とは、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に服したときをいう」とされ(平仙レース事件(浦和地裁昭和40年12月16日))、ほぼ回復したものの従前の職務を遂行する程度には回復していない場合には、復職は労働者からの権利としては認められない、とされています。

なお、当該「治癒」の立証責任は、復職を希望する労働者側にあります

簡易な業務への復職希望者への対応

病気療養のため現場監督業務の代わりに内勤業務を希望した労働者に対する無給の自宅待機命令について、最高裁は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、・・・当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」として、自宅待機命令を無効としています(片山組事件(最高裁平成10年4月9日労判736号))。

かかる最高裁判例を受けて、裁判例は、傷病休職期間満了時において、従前の業務に復帰できる状態ではないものの、より簡易な業務には就くことができ、そのような業務での復職を希望する者に対しては、使用者は現実に配置可能な業務の有無を検討する義務がある、と判断するようになっています(JR東海事件(大阪地裁平成11年10月4日労判771号))。

そして、休職期間が満了した労働者に対して、かかる検討をせずに軽易な業務を提供しないまま自然退職又は解雇を行った場合には、解雇権濫用として無効となります。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、Xは傷病期間満了直前において、従前の業務よりも簡易な内勤業務への復職を希望していることから、会社には現実にXを配置可能な内勤業務がないか、その有無を検討する義務があるものといえます。

したがって、かかる検討をせずにXを解雇することは、解雇権の濫用として無効となる可能性があります。

2 【使用者向け】健康管理②—長時間残業による精神疾患を患う社員への受診命令

【質問】

当社の社員Xはセールス部門に所属していますが、半期ごとのボーナス査定に響くとして、この数ヶ月、自主的に長時間の残業を続けています。月の残業時間が100時間を超える場合もあり、直属の上司も残業を控えるよう指導していますが、やめようとはしません。

残業の影響か、Xは日中の勤務時間中も注意散漫になっているようですし、休憩室で倒れるように寝ながらうわごとを言っていたとの報告も受けています。

鬱病のおそれのあるXに対して、当社かかりつけ医の診察を受けるよう命令することも検討していますが、何か問題があるでしょうか。

【回答】

会社は、鬱病のおそれのあるXに対して、業務命令として医師による診断を受けさせるとともに、当該診断結果を踏まえて、労働時間の短縮や配置転換、休職等の適切な措置を講じる必要があります。

なお、当該措置を講じるにあたって、厚労省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が参考となります。

【解説】

会社による受診命令の可否

長時間残業等により社員が体調を崩し、精神疾患等を患った場合、会社は当該社員に対して安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任を負う可能性があります

この点、労働安全衛生法66条の8第1項は、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保険師その他の厚生労働省令で定める者・・・による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」としており、会社は、精神疾患のおそれのある社員に対して、精神科医等による診断・治療を受けさせる必要があります

もっとも、自主的な残業による精神疾患の場合等においては、当該社員が自ら精神疾患を患っていることを自覚していない場合もあり、当該社員が診察を拒むこともあり得ます。そこで、会社は、社員に対して業務命令として専門医等の診察を受けるよう命令することができるかが問題となります。

就業規則上、受診義務について規定されている場合

この点、会社の就業規則中に、社員に対する専門医等の受診義務等を定めている場合、当該就業規則の内容が合理的であれば労働契約の内容となるため(労働契約法7条)、社員に対して受診命令を下すことができます(電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日労判470号))。

就業規則上、受診義務について規定されていない場合

これに対して、就業規則中に受診義務等を定めていない場合であっても、受診命令等が労使間の信義・公平の観念に照らし、合理的かつ相当な措置であれば、社員に受診命令等を命じることができる、とされています。

たとえば、京セラ事件(東京高裁昭和61年11月13日労判487号)において、裁判所は、会社が専門医の診断を求めることが、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし、合理的かつ相当な理由のある措置であると評価される事案で、就業規則等に定めがないとしても指定医の受診を指示できる、と判示しています。

精神疾患を患う社員への措置

精神疾患を患っている旨診察された社員に対して取るべき会社の措置として、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(厚労省平成8年10月1日告示)が参考となります。

上記指針によれば、医師等の診断結果に基づく就業区分及びそれぞれに応じた就業上の措置として、以下のように整理されています

就業区分 就業上の措置
区分 内容
通常勤務 通常の勤務でよいもの 勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働不可の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じる。
就業制限 勤務に制限を加える必要のあるもの 療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。
要休業 勤務を休む必要のあるもの  

裁判例においても、社員が要治療状態にあることを定期健康診断によって認識していた場合に、精神的緊張感のある過重な業務に就かせないようにする等、業務を軽減する等の配慮をする義務を負っている旨判示されています(システムコンサルタント事件(最高裁平成12年10月13日労判791号))。

ご相談のケースについて

会社は、鬱病のおそれのあるXに対して、業務命令として医師による診断を受けさせるとともに、当該診断結果を踏まえて、労働時間の短縮や配置転換、休職等の適切な措置を講じる必要があります。

なお、当該措置を講じるにあたって、厚労省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が参考となります。

3 【使用者向け】健康管理③—受診命令に応じない社員への対応

【質問】

社員Xは、営業車を運転中に交通事故を起こして以来、感情の起伏が激しくなり、会議等において突然大声で話し出したかと思えば、デスクに戻っても仕事をするでもなく、モニターをじっと見つめて一日を過ごすこともあります。様子がおかしいため、部長命令でXに当社のかかりつけ医の診察を受けるよう勧めていますが、一向に受診しようとしません。

会社からXに対して、業務命令として受診させることはできるでしょうか。また、今後も状況が改善されないようであれば、解雇することも考えていますが、問題はないでしょうか。

【回答】

会社は、就業規則に受診義務に関する規定があればもちろん、ない場合であっても、合理的かつ相当な措置であれば、Xに対して業務命令として受診を命じることができます。

もっとも、Xが受診命令に応じない場合であっても、精神疾患が業務中の交通事故に起因するものであれば、原則として一定期間Xを解雇することはできず、また、解雇権濫用法理による制限にも服することに注意が必要です。

【解説】

会社による受診命令の可否

長時間残業等により社員が体調を崩し、精神疾患等を患った場合、会社は当該社員に対して安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任を負う可能性があります

この点、労働安全衛生法66条の8第1項は、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保険師その他の厚生労働省令で定める者・・・による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」としており、会社は、精神疾患のおそれのある社員に対して、精神科医等による診断・治療を受けさせる必要があります

もっとも、自主的な残業による精神疾患の場合等においては、当該社員が自ら精神疾患を患っていることを自覚していない場合もあり、当該社員が診察を拒むこともあり得ます。そこで、会社は、社員に対して業務命令として専門医等の診察を受けるよう命令することができるかが問題となります。

就業規則上、受診義務について規定されている場合

この点、会社の就業規則中に、社員に対する専門医等の受診義務等を定めている場合、当該就業規則の内容が合理的であれば労働契約の内容となるため(労働契約法7条)、社員に対して受診命令を下すことができます(電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日労判470号))。

就業規則上、受診義務について規定されていない場合

これに対して、就業規則中に受診義務等を定めていない場合であっても、受診命令等が労使間の信義・公平の観念に照らし、合理的かつ相当な措置であれば、社員に受診命令等を命じることができる、とされています。

たとえば、京セラ事件(東京高裁昭和61年11月13日労判487号)において、裁判所は、会社が専門医の診断を求めることが、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし、合理的かつ相当な理由のある措置であると評価される事案で、就業規則等に定めがないとしても指定医の受診を指示できる、と判示しています。

精神疾患を理由とする解雇の可否

社員が会社による受診命令に従わない場合、精神疾患による能力不足を理由とする普通解雇事由に該当するものとして、当該社員を解雇することが考えられます。

もっとも、精神疾患が業務に起因する場合、療養のための休業期間及びその後30日間は、会社は原則として当該社員を解雇することはできません(労基法19条1項)。

また、かかる解雇制限の適用を受けない場合であっても、判例上、解雇権濫用法理に基づき一定の制限を受けます。たとえば、躁鬱病に罹患し、躁状態にあることを理由に解雇した事案において、就業規則所定の休職制度が同一の理由による休職も予定されており、前回の休職期間が就業規則所定の休職期間を超えていないこと、従業員の病状も回復可能性がなかったといえないこと、会社は病気で通常勤務できない2名の雇用を継続しており、当該社員だけを解雇するのは平等取扱いに反すること等を認定し、裁判所は、会社による解雇は合理的理由を欠き解雇権濫用に該当し、無効と判示しています(K社事件(東京地裁平成17年2月18日労判892号))。

ご相談のケースについて 

会社は、就業規則に受診義務に関する規定があればもちろん、ない場合であっても、合理的かつ相当な措置であれば、Xに対して業務命令として受診を命じることができます。

もっとも、Xが受診命令に応じない場合であっても、精神疾患が業務中の交通事故に起因するものであれば、原則として一定期間Xを解雇することはできず、また、解雇権濫用法理による制限にも服することに注意が必要です。

 

参考文献

菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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